トラブル事例

マンションのタイルが剝がれて危険! 「タイル瑕疵(かし)」の要因は新築時の施工不良!?

土屋輝之
タイル瑕疵
施工不良
大規模修繕工事

外壁がタイルで仕上げられているマンションは多く、一般的にタイルはモルタルで張り付けて施工されていて、浮きが見られたり、剝がれ落ちたりする可能性があります。多くのマンションにおいては、大規模修繕工事の際に1棟で使用している全タイル数に対して、浮きなどが見られるタイル数の割合は概ね2~3%程度。10%以上のタイルが浮いている状態は非常に危険です。

タイルに瑕疵(かし)が見られる場合の多くの理由は、経年劣化や自然災害等ではなく、新築時の施工不良です。この記事では、さくら事務所 マンション管理コンサルタントの土屋 輝之(つちや てるゆき)が、施工不良が起きる要因やタイル瑕疵(かし)のリスクについて解説します。

1. 高頻度で発覚するマンションの「タイル瑕疵(かし)」

さくら事務所が2023年7月から2024年6月までに1度目の大規模修繕工事のコンサルティングをしたマンション21件のうち、14件に外壁タイルの瑕疵(かし)が見つかりました。割合にして、実に66.6%。母数がさくら事務所にコンサルティングを依頼しているマンションということもありますが、過去の実績からしても非常に割合が高く、注意を促す必要があるレベルです。

タイル瑕疵(かし)は築浅マンションに多く見られる

マンションの外壁タイルの浮き・剝離(はくり)がゼロというケースは珍しいものです。タイルの調査結果の基準に「浮き率」がありますが、これはタイル全体のうち、タイルに浮きがあるものの比率を示します。ロングライフビル推進協会(BELCA)では「0.6%×築年数」をタイルの浮き率の目安としており、築10年程度であれば、6%を超えると経年劣化以外の原因が疑われます。

「タイル瑕疵(かし)」に明確な定義はありませんが、ここでは築10年目程度のマンションで全体の10%を超えるタイルが浮いている状態をタイル瑕疵(かし)と言うことにします。大規模修繕工事を経て補修などを行ってきた築古のマンションでも経年劣化によって全体の10%を超えるタイルの浮きが発覚することがありますが、タイル瑕疵(かし)はおもに築10~15年程度までの比較的築浅のマンションに多く見られます。

図1:浮きが見られるマンションの外壁タイル

タイル瑕疵(かし)に明確な定義はないものの、ここでは全体の10%を超えるタイルが浮いている状態を言う(画像提供:さくら事務所

タイル瑕疵(かし)の要因は新築時の施工不良

マンションの外壁タイルは「張り付けモルタル」というセメント系の材料で接着するのが一般的で、タイルは磁器製のものが多くなっています。タイル瑕疵(かし)の主な要因は、新築時の施工方法にあります。簡単に言えば、ルール通りに施工していないことが要因です。

タイル瑕疵(かし)が確認されたマンションにおいて、タイルを施工した職人を集めてヒアリングしたところ、ルールを守らずにタイルを張っていたことがわかりました。その理由は「ルール通りに施工していては工期に間に合わない」「工賃が安すぎてルール通りにやっていては生活が成り立たなくなる」といったもの。外壁タイルの張り方についてはマニュアルも整備されていますが、守られていない、守れない現場もあるというのが実情です。

竣工年によっても傾向は分かれる

特に、供給数が多かった年代に竣工したマンションは注意が必要です。新築マンションの供給数は、2007年がピークです。さくら事務所の調査でも、2007年から2008年にかけて竣工されたマンションは、他の年代に竣工したマンションと比べて、高い確率でタイル瑕疵(かし)が見られることが発覚しました。

図2:新築マンションの新規供給戸数の推移

新築マンションの供給数は2007年がピーク(画像出典:国土交通省

やはり、工期に追われ、慢性的に人手が不足していると、マンションの品質にも少なからず影響が出ます。現在、マンションの供給数自体は減っているものの、建築費の高騰や人材不足が顕著に見られ、匠の技を持った職人も少なくなってきていることから、今後も施工不良には十分な注意が必要です。

近年のマンションはほとんどがタイル張り

タイル瑕疵(かし)が多いのであれば「タイル張りのマンションを選ばなければいい」と思うかもしれません。しかし、近年のマンションはほとんどがタイル張りです。タイルは、見た目が綺麗、豪華に見える、コンクリートの劣化を防ぐ、耐久性が高いといったメリットがありますが、張り方を間違えると剝落して凶器と化します。

ヨーロッパでは地上3階以上の建物にタイルを張ることを禁止している国もあるほどですが、日本ではタイル張りが好まれる傾向にあります。タイル張りのマンションを避けようとすると、集合住宅で物件を探したい人の選択肢は極端に狭まってしまうことになるでしょう。

タイル瑕疵(かし)の要因は新築時の施工不良が多い
  • さくら事務所が2023年7月からの1年間で一度目の大規模修繕工事のコンサルティングをしたマンションの66.6%にタイル瑕疵(かし)が見つかった
  • 供給数が多い時期に竣工されたマンションは要注意
  • 近年のマンションはタイル張りがほとんど

2. 外壁タイルの剝落は人命にも関わる

マンションの外壁タイルにはコンクリート躯体を保護する役割もあるため、浮きや剝落を長期間放置すると、コンクリートの中性化や鉄筋の錆にもつながる恐れがあります。さらに恐いのは、剝落したタイルが人や物を傷つけてしまうことです。

タイルはある程度まとまって落下する

一般的なマンションの外壁タイルは、1㎡あたり200枚程度で、ユニット式のタイルを用いるのが一般的です。1枚ずつ張り付けているものではなく、落下するときも1枚とは限らず、ユニットごと落下するケースもあります。

中には、1枚あたりの重量が3〜4kgのタイルもあります。数百枚ともなれば、数百kg〜1t。確実に人命に関わるでしょう。過去には、実際に外壁タイルの落下によって人の命が奪われた事故もあります。

図3:外壁タイルの落下跡

外壁タイルは1枚ではなく、一度に数百枚が剝離・剝落することも(画像提供:さくら事務所

責任は管理組合が負う

外壁タイルの剝落の要因が施工不良だとしても、責任を負うのは建物を所有し、管理しているマンションの管理組合です。

大抵の管理組合は万一の事故に備えて賠償責任保険に入っているため、多くの場合、金銭面では補償されます。しかし、人命に関わる事故を起こしてしまった事実と資産価値への影響は計り知れません。

自然災害によってタイルが剝落する可能性も

昨今、地震や台風、ゲリラ豪雨などが増え「50年に一度」「100年に一度」という規模の自然災害が頻発しています。大雨や強風、強い揺れを機に外壁タイルが剝落するケースもあります。

千葉県内のマンションで、雨風が強かった嵐の夜の翌日、15階のタイルが大量落下したことにより、外壁から離れた所にある児童公園の滑り台のステンレスの床に穴が空いた事例もありました。剝がれたタイルは真下に落ちるとは限らず、風に流されることもあります。

このような事例では、自然災害が原因で外壁タイルが剝がれたのではありません。ルール通りに施工していれば、ちょっとやそっとの地震や台風で外壁タイルは剝がれません。自然災害がきっかけになることもある、というだけで、外壁タイル剥落の要因はあくまで「施工不良」です。

タイル瑕疵(かし)の危険性
  • 数百枚がまとまって剝落することも
  • 資産価値の低下にもつながりかねない
  • 激甚化・多発化している地震や台風、ゲリラ豪雨がきっかけとなり、タイルが落下する可能性もある

3. 全体の半数以上にタイル瑕疵(かし)が見られたマンションの事例

タイル瑕疵(かし)が発覚したマンションでも、多くの場合、マンション1棟におけるタイルの浮き率は全体の20〜30%程度ですが、さくら事務所が2024年にコンサルティングした、とあるマンションは、半数を超えるタイルに瑕疵(かし)が見られました。ここまで多くのタイルに瑕疵(かし)があると、修繕費は1回分の大規模修繕工事費を上回る可能性があります。

全体の約6割の外壁タイルが剝離

当初のご相談は「タイルの浮きが散見される」というものでした。タイル瑕疵(かし)の調査では、一般的に浮きが見られるタイルにマーキングしていくことで瑕疵(かし)の割合を算出します。しかし、このマンションは浮いているタイルが多すぎたため、逆に浮いていないタイルをマーキングしていきました。

つまり、半数以上のタイルに浮きが見られたということです。マーキングが終わった後に判明した浮き率は、約6割。ここまで多くのタイルが浮いていた事例は初めてでした。

外壁タイルの補修費用は大規模修繕費以上

1度目の大規模修繕工事を実施するためにタイルの検査をしたのですが、タイル瑕疵(かし)が発覚したことで修繕費用が大幅に膨らんでしまいました。当初の大規模修繕工事の見積もり額は4,500万円程度でしたが、タイルの補修を加えた後の見積もり額は1億円と2倍以上に。あまりにも浮いているタイルが多く、補修にお金がかかりすぎるため、一部はタイル張りから塗装に変更したものの、それでもタイルの補修費用は当初予定していた大規模修繕工事全体の費用を上回りました。

大規模修繕工事は概ね12年から15年程度に一度で、新築時から工事を行うまでの十数年の間に費用を積み立てていきます。当初の見積もりの2倍以上の修繕費がかかることになってしまったこのマンションでは、修繕積立金を大幅に増額しなければなりません。これにより、今後マンションを売るときにも表示される修繕積立金の額が高くなるため、購入検討者にとってランニングコストが著しく高い物件という印象を与え、売りにくくなってしまうことが懸念されます。

施工会社と裁判に

ここまでの通り、タイル瑕疵(かし)の要因は施工不良です。新築分譲マンションは多くの場合、2年間のアフター保証があるため、この間であれば分譲会社に無償でタイルを補修してもらえる可能性があります。また、「不適合を知った時から1年」以内であれば、契約不適合責任を追及できる余地もあります(改正前の民法:瑕疵担保責任では引渡し後10年間)。

上述した事例のマンションはタイル瑕疵(かし)が発覚した時点で築10年を超えていたため、施工会社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をしました。ところが、施工会社が責任を認めないため、現在は裁判にまで発展しています。借入をして補修工事を行った管理組合としては、施工会社にどこまで負担してもらえるか、大いに気になるところです。

全体の半数以上にタイル瑕疵(かし)が見られたマンションの事例
  • 全体の約6割のタイルに瑕疵(かし)が確認された
  • タイルの補修費用は通常の大規模修繕費を上回った
  • 補修費用が高額になりすぎるため、一部はタイル張りから塗装に変更
  • 予想以上の補修費がかかると以後の修繕積立金の増額は避けられない
  • 施工会社との話し合いが不調となり費用を負担してもらうため裁判に発展

4. タイル瑕疵(かし)で悩まされないためにはどうすればいい?

新築マンションのタイル瑕疵(かし)を確認することは容易ではありませんが、新築から一定期間が経っている中古マンションであれば、修繕履歴や点検の実施履歴を見れば、ある程度、状況を把握することができます。

購入前に修繕履歴を確認する

タイル瑕疵(かし)は新築時の施工不良のため、全てを張り替えない限り“根治”はありません。先ほどの事例からしても、全てを張り替えるのは費用面で現実的ではないため、タイル瑕疵(かし)が見られるマンションは、浮きがあるところを部分的に張り替えたり、タイルの裏面に樹脂を注入するなどの補修を繰り返していくことになります。

一般的に外壁タイルのメンテナンスは、下地の劣化などを補修するためにも12~15年程度のサイクルで行うことが望ましいとされています。そのサイクルよりも頻繁に外壁タイルを補修しているようであれば、タイル瑕疵(かし)の可能性が疑われるでしょう。修繕履歴は、売買契約の際に不動産仲介会社が管理会社から取り寄せる重要事項調査報告書で確認できます。

「12条点検」実施の有無とその点検結果も確認しよう

マンションの法定点検の一つに「特定建築物調査」というものがあります。これは建築基準法12条に基づいて行われる調査のため「12条点検」とも呼ばれています。外壁タイルについては、手が届く範囲を打診するなどして検査します。

図4:建築基準法における外壁タイルの調査

建築基準法では定期的な外壁タイルの検査が義務づけられている(画像出典:国土交通省

点検は3年に1度です。新築から3年間は免除のため、6年目から3年ごとの点検と特定行政庁への報告が義務づけられています。12年目の点検で歩行者などに危害を加えるおそれのある場所でタイルが剝落している場合は、手が届く範囲だけでなく、全面的に点検しなければなりません。

しかし、12条点検の全面打診による検査は3年以内に外壁の修繕の計画があれば報告が免除されるため、全面打診を実施していないマンションも少なくありません。

法定点検をしっかり行っているかどうかは、管理組合のマンションの維持管理に対する姿勢を見極めるための要素の一つです。売主を通して管理会社に依頼すれば実施の有無を確認できるため、修繕履歴に加え、できれば12条点検実施の有無や点検結果も確認しておきましょう。

マンションの特定建築物調査報告制度は行政により免除されている場合があります(例:横浜市・川崎市など)。しかし、法的に12条点検の対象外である場合でも定期的に調査を行わなければ、建築物や各種設備のコンディションを把握できていないため、思わぬ重大事故が発生する可能性があり、要注意です。

外壁タイルは「メンテナンスフリー」ではない

購入前にタイル瑕疵(かし)が確認されなかったからと言って安心はできません。外壁タイルはメンテナンスフリーではないため、定期的な点検や補修が不可欠です。

マンションの共用部の維持・管理は、管理組合が責任を持ってやるべきことですが、マンションを購入すれば自身も管理組合の一員となります。管理組合や管理会社に一任するのではなく、しっかり法定点検を実施することはもちろん、瑕疵(かし)が確認された場合は早めに専門家に相談することが大切です。

図5:外壁タイルの点検の様子

外壁タイルの調査方法は打診のほかドローンによる赤外線調査も(画像提供:さくら事務所

大規模修繕を行う際には「大規模修繕工事瑕疵(かし)保険」も検討

マンションの大規模修繕工事など共用部分の工事に対する検査と補償がセットになった「大規模修繕工事瑕疵(かし)保険」があります。これは国土交通大臣指定の保険法人で取り扱っているもので、大規模修繕工事が終わった後に対象となる部分に不具合が見つかった場合、補修費用などに対して保険金が支払われる保険です。

タイル剝落補償特約を付帯することができれば、大規模修繕工事の際の外壁のタイル張替工事に起因したタイル剝落も補償の対象となります。万一、工事をした事業者が倒産しても、管理組合が直接、住宅瑕疵担保責任保険法人に保険金を請求できます。

瑕疵(かし)保険に加入することで、紛争やトラブルが発生した場合には、紛争処理支援センターの電話相談・専門家相談も利用できます。保険に加入するのは管理組合ではなく、工事を請け負う修繕工事業者ですが、大規模修繕の際の工事業者の選定において検討・提案してみるのもいいでしょう。

図6:大規模修繕工事瑕疵(かし)保険

大規模修繕工事業者が発注者(管理組合)に対して瑕疵(かし)担保責任を負担することによって被る損害を補償。大規模修繕工事業者が倒産等の場合などは、直接、発注者に保険金が支払われる(画像出典:住宅あんしん保証
タイル瑕疵(かし)で悩まされないためにできること
  • 購入前に修繕履歴を確認する
  • 「12条点検」の状況もチェック
  • 購入後も要メンテナンス
  • タイル瑕疵(かし)が見られたら速やかに専門機関に相談する
  • 大規模修繕を行う際には「大規模修繕工事瑕疵(かし)保険」も検討

5. 人命も奪いかねないタイル瑕疵(かし)。購入前のチェックと早めの検査・保険でトラブルに備えよう

マンションにおいて外壁タイルの瑕疵(かし)は、人命にも関わります。一度、修繕しても再発のリスクが高いため、住人は長く悩まされる可能性もあります。中古マンションは新築マンションと異なり、これまでの修繕履歴や管理状況を確認することができます。マンションを購入した後も、区分所有する一員として建物の維持・管理、そして安全のため、定期的な点検とメンテナンスを怠らないことが大切です。

土屋輝之 (つちや てるゆき)
(株)さくら事務所 マンション管理コンサルタント。 2003年(株)さくら事務所に参画、不動産仲介から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを幅広く長年にわたって経験。不動産、建築関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を織り込んだコンサルティングで支持される不動産売買とマンション管理のスペシャリスト。2024年には、自身が取材協力した「マンションバブル41の落とし穴」(小学館)が発売。