雨漏りというと一戸建てのトラブルを想像する人が多いかもしれませんが、実はマンションで雨漏りが発生することも少なくありません。特に昨今は豪雨や台風が頻発し、激甚化していることもあって、これまで雨漏りがなかったマンションでも被害が出るおそれがあります。
雨風をしのぐための性能は、住まいにおいて最低限必要なものです。この記事では、マンション管理コンサルタントの土屋 輝之(つちや てるゆき)が、マンションで雨漏りが発生する理由や購入前に雨漏りの有無を確認する方法、雨漏りが発生した場合の対処方法などについて解説します。
1. 雨漏りはマンションでも頻発している!
一戸建てと比べると数は少ないですが、マンションの雨漏りも決して珍しいことではありません。
マンションで雨漏りが発生する理由
マンションの雨漏りは多くの場合、屋上やバルコニー、外壁のコンクリートのひび割れ、防水処理の不良、シーリング防水部やウレタン防水部の劣化などが要因です。そしてこれらは主に、経年劣化やメンテナンス不足によるものです。雨漏りが発生するマンションの多くは、築15年以上であることが多く、築古であるほど雨漏りが発生するリスクは高くなります。
大規模修繕工事済みでも安心とは限らない
多くのマンションは、12〜15年程度に一度、大規模修繕工事を実施します。もちろん大規模修繕をしていないマンションより、定期的に修繕をしているマンションのほうが安心と言えるでしょう。しかし、大規模修繕工事で雨漏りの要因となる部分が改善されるとは限りません。
特に近年は、台風や豪雨が多発し、激甚化しています。これまで雨漏りがなかったマンションや定期的に修繕をしているマンションであっても「50年に一度」「100年に一度」と言われるような豪雨や台風が来れば、雨漏りが発生する可能性があります。
<キーワード解説・用語集>
大規模修繕マンションの雨漏りは基本的に管理組合の責任
マンションの玄関ドアやサッシの内側は区分所有部(専有部)となります。一方、よく勘違いしやすいのですが、玄関ドア、サッシ、バルコニーは共用部にあたります。
豪雨の際に窓を開けっぱなしで階下の住戸が雨漏りしてしまったような場合は区分所有者の責任になるでしょうが、豪雨や台風、経年劣化や施工不良などが原因で生じたマンションの雨漏りは、ほとんどの場合、管理組合の責任です。修繕費用などを負担するのも、基本的には管理組合です。
2. 【事例】上階のバルコニー部分の亀裂から雨水が浸入
ここからは雨漏りが発生してしまった首都圏郊外にある築25年、鉄筋コンクリート造のマンションの事例を紹介しながら、雨漏りの要因や注意すべき点を解説していきます。
雨漏りの原因は上階のバルコニーの亀裂
「雨漏りしている気がする」と弊社に相談があったときには、すでに広範囲にわたって雨染みが見られました。所有者は気づかなかったようですが、状況から推測するに、すでに雨漏りが発生してから一定の時間が経っているようでした。
雨漏りしている部屋の上は、上階のバルコニーです。すぐに上階の居住者に許可を得てバルコニーを確認したところ、外壁に亀裂が入っていました。この事例ではバルコニーの下が居室部分だったため居室内に被害が出ましたが、バルコニーの下が階下のバルコニーの天井になっていることも少なくありません。バルコニーにプランターなどを置いている家庭も多いため、泥水が下階のバルコニーに干している洗濯物の上にポタポタと落ちてくることで雨漏りが発覚するケースもあります。
図1:雨漏りが発覚した部屋の天井と上階のバルコニー


バルコニーはコンクリートが劣化しやすい
コンクリートは、温度が上昇すると膨張し、温度が下がると収縮します。これを繰り返すことで、コンクリートは劣化していきます。マンションのバルコニーは総じて日当たりがよいため、劣化しやすい箇所と言えるでしょう。マンションの屋上も同様です。
コンクリートの研究は進んでおり、品質も年々向上していますが、残念ながら、ひび割れしないコンクリートを作るまでには至っていません。コンクリートの外壁は防水シートやウレタン塗装などの防水処理が施されているため、多くの場合、コンクリートにひびが入っても直ちに雨漏りが発生するわけではありませんが、ひび割れしている状態が放置されてしまうと、防水処理の劣化によって雨漏りにつながります。
外壁のひび割れは大規模修繕を待たずに補修すべき
紹介した事例のように原因がわかりやすいケースであれば、コンクリートの亀裂を塞ぐことで雨漏りは解消します。しかし、雨漏りの原因は特定し難いことが多いうえに、原因である亀裂を塞ぐという対応も場合によって対症療法にすぎません。
このマンションは新築当初から一度もメンテナンスをせずに25年が経過していたので、コンクリートに亀裂が入っているのは、おそらくトラブルが生じた部分だけではないはずです。同様に、防水処理が劣化している箇所が複数あると推測されるため、雨漏りの原因となった部分だけに対症療法的な補修を行った場合には、雨漏りが確認される度に延々と繰り返していかなければなりません。
やはり、マンションには定期的な大規模修繕工事が必須です。大規模修繕工事の前にコンクリートのひび割れなどが見られた場合は、防水処理が劣化しないよう雨漏りの原因となる可能性がある部分を早めに補修することが望ましいでしょう。
3. マンションの購入前に雨漏りがないかを確認する方法
マンションを購入する前に上階のバルコニーや屋上を見せてもらうことは、あまり現実的ではありません。けれども、決して確認する術がないわけではなく、雨漏り発生の有無やそのリスクは修繕履歴や修繕の内容からある程度、確認・推測できます。
修繕履歴を確認する
先の事例のように、築25年で一度も大規模修繕をしていないマンションは完全に“赤信号”です。過去の修繕履歴は、マンションの管理会社が発行する「重要事項調査報告書」で確認できます。重要事項調査報告書は、マンションを仲介する不動産会社が手配してくれます。
マンションの大規模修繕工事は、12年〜15年程度ごとに実施されるのが一般的です。たとえば、築30年のマンションであれば、確実に1回目の大規模修繕を実施していて2回目も実施済み、あるいは直近で行う計画がある状態が一般的です。今後の修繕計画についても、重要事項調査報告書で確認できます。
ただし、中には修繕履歴が整理されていないマンションも見られます。この場合、過去の履歴を確認するのは難しくなりますが、修繕履歴がわからない時点で適切な管理を期待できないため、“黄色信号”と言えるかもしれません。
できれば修繕の内容もチェックする
先の通り、適切な時期に大規模修繕工事をしているから安心とは限りません。たとえば「屋上の防水の修繕をした」という履歴があると、多くの人は防水処理をやり直したと思うでしょう。しかし、実際には防水層を撤去して一からやり直すことは稀で、既存の防水処理の上に樹脂シートをかぶせるなど、防水処理を重ねるケースがほとんどです。防水の状態がよければそれさえもやらず、塗装防水層の劣化を防止するような処置だけを行うことも少なくありません。
防水処理を一からやり直した場合も、上からかぶせただけの場合も、劣化を防止する処置をしただけでも、いずれも同じ「修繕」となります。可能であれば、修繕履歴だけでなく、修繕工事の仕様書まで見せてもらえるとベストです。重要事項調査報告書には修繕工事の内容まで記載されませんが、区分所有者である売主の協力があれば、仕様書の請求・閲覧ができる可能性があります。「マンションを好条件で売りたい」「買主に安心して購入してもらいたい」と考える売主であれば、こうした手間もいとわないはずです。
目視で確認できること
修繕履歴や修繕計画、修繕工事の仕様書の他、目視で確認できることもあります。雨漏りしやすいのは、天井やサッシ周りの壁です。内見時には、こういった部分に雨染みや変色がないかチェックしておきましょう。
できれば、家具の裏や収納の中まで見られるとベストです。もしカビが見られれば、多くの場合、雨漏りか結露が要因です。家具の裏や収納の中まで見せてもらいにくい場合は、カビ臭さがないかをチェックしましょう。
検査(インスペクション)のみでは不十分
購入前に第三者のプロの検査(インスペクション)を受けるのは、建物の状況を正確に把握するための手段の一つです。ただし、検査は非破壊で行うため、わかることには限界があります。
「転ばぬ先の杖」ということで言えば、瑕疵(かし)保険に加入しておくのがよいでしょう。マンションの瑕疵(かし)・不具合などは、雨漏りだけではなく、専有部にある給排水管からの漏水など多岐にわたります。瑕疵(かし)保険は、基本的に「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」が対象です。(特約を付帯することで、給排水管を補償の対象に加えることができる場合もあります。)
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どんなに注意していても、突然、雨漏りが発生してしまうことはあります。雨漏りの兆候が見られたら、まずは被害が拡大しないように適切に対処しましょう。
自分で調査・修繕せず、理事会に申告
先の通り、雨漏りの多くは管理組合の責任です。雨漏りが発覚したら自身で調査や補修を手配する前に、管理組合の理事会に申告しましょう。
管理組合が加入している保険で、雨漏りの調査費用を負担できることもあります。区分所有者から弊社のほうに「雨漏りしているから調査してほしい」と相談されることも少なくありませんが、雨漏りで調査する箇所は区分所有部分(専有部)だけではありません。外壁や屋上、上階のバルコニーも調査しなければならないため、いずれにしても管理組合への申請が必要です。
家財への被害も管理組合に賠償請求できる
雨漏りの要因は、外壁やバルコニー、屋上など、共用部分にあることがほとんどです。雨漏りによって「家具が濡れてしまった」「家電が故障してしまった」「ブランドバッグにカビが生えてしまった」といった場合は、共用部分に原因があれば管理組合に対して賠償請求が可能です。
管理組合は「第三者機関」ではない
調査や修繕は多くの場合、管理組合が行うものであり、場合によっては賠償請求もできるとはいえ、管理組合は第三者機関ではなく、被害にあった区分所有者自身も管理組合の一員です。調査や修繕などの費用についても、区分所有者が支払っている管理費・修繕積立金から出されます。
調査や修繕には、時間を要することも少なくありません。この間に雨漏りが進行し、家財や建具を傷めてしまえば、損害額も上がります。自分で調査や修繕を手配しないとしても、応急処置は速やかにすべきでしょう。雨漏りが見られたら、ビニールシートを付けて雨水が1ヶ所に集まるように対処したり、管理会社に相談すれば、とりあえずの対策として養生を建築会社に依頼するなどの対応をしてもらえます。
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修繕積立金5. 雨漏りはマンションでも起きる。大きなトラブルになる前に「検査」「保険」で備え、万一のときの対処法を知っておこう
マンションで雨漏りが起きることも決して少なくありません。中古マンションを購入する際には、修繕履歴や修繕工事の内容などを確認することをおすすめします。雨漏りは原因が特定しにくく、発覚した頃には深刻な状況に陥っていることも多いため、検査(インスペクション)の実施や瑕疵(かし)保険の加入も併せて検討してみましょう。加えて、雨漏りが発覚してしまったときの対処法についても頭のなかに入れておくことで、被害を拡大させることなく、焦らず対応できるはずです。
