トラブル事例

引渡し後にシロアリ被害が発覚し「契約不適合」に!? トラブルを避けるために必要な対策とは?

平 一暁
シロアリ
被害・駆除
契約不適合責任

シロアリは暗く湿った場所を好み、木材から栄養と水分を摂取することから、住宅の大敵とされています。被害にあった住宅は耐震性が低下するなど、建物としての性能に大きな影響が生じますが、見た目だけでは被害の有無を判断することが難しく、気づいたときには深刻な状態になっていることも少なくありません。中古住宅の売買・引渡し後にシロアリ被害が発覚した場合、売主は「契約不適合責任」を追及される可能性もあるため注意が必要です。

この記事では、テオリアハウスクリニックの平 一暁(たいら かずあき)が、シロアリ被害が売買取引や建物に与えるリスクとその回避策について解説します。

1. 不動産売買後にシロアリ被害が発覚したらどうなる?

中古住宅の引渡し後にシロアリ被害が発覚することは、珍しいことではないでしょう。売買後に被害が発覚した場合は、契約内容や発覚した時期によっては売主の負担で修繕しなければならない可能性があります。

築25〜29年の住宅におけるシロアリ被害の発生率は約20%!

木造住宅は築25〜29年となると、5件に1件程度にシロアリ被害が見られるという調査結果があります。築30年を超える木造住宅は、半数にシロアリ被害が見られるという学者もいるほどです。

シロアリ被害は築年数が上がるほど多く見られるようになりますが、築5〜9年の住宅でも5%程度と、築浅でも油断はできません。シロアリ被害は深刻な状態になるまで気づかないことが多く、実際には被害があるにもかかわらず、売買時点まで発覚していないこともあります。

図1:築年ごとのシロアリ被害発生率

*全国約3,000棟の木造家屋をランダムに調査
築25〜29年の木造住宅では約20%にシロアリ被害が見られる(図表提供:テオリアハウスクリニック)

売主の「契約不適合責任」が問われるケース

売買後に買主がシロアリ被害を発見した場合、一般的にはまず不動産会社に相談が行きます。契約内容とシロアリ被害が発覚した時期によっては、売主の契約不適合責任が問われる可能性もあります。契約不適合責任とは、引き渡された物件が契約の内容に適合しないものであるときに、売主が買主に対して負う責任です。

この契約不適合責任の範囲であれば、売主は基本的に契約の「追完」が求められます。つまり、売主が費用を負担してシロアリの駆除や被害箇所の修繕などをしなければなりません。

買主の負担で修繕しなければならないケース

契約不適合責任は、買取再販住宅を除く中古住宅の売買では「任意規定」となっています。当事者同士で合意すれば、契約不適合責任を免責とすることもできます。引渡し後にシロアリ被害が見られたとしても、シロアリ被害に対して契約不適合責任が免責になっていると、売主の責任を問うことはできません。

また、免責になっていなかった場合でも、契約不適合責任は有限です。責任を追及できる期間を過ぎれば、売主に追完請求などをすることはできないため、買主の負担で修繕しなければなりません。

買取再販事業者が多額な損害賠償金を負担したケースも

不動産事業者が買い取った中古住宅をきれいに修繕して再販する買取再販物件でも、シロアリ被害が露呈することはあります。ある買取再販事業者では、以前、床下調査をせずに再販した多くの物件でシロアリ被害が発覚し、多額の損害賠償金を負担して大損害を被ったという事例もありました。この一件以降、その買取再販事業者はシロアリ被害の有無をしっかり事前に調査した上で物件を仕入れるようになったそうです。

不動産売買後にシロアリ被害が発覚したらどうなる?
  • 築25〜29年の住宅の20%にシロアリ被害が見られる。築浅でも被害があるケースもある
  • 契約内容・発覚時期によっては売主の「契約不適合責任」が問われる
  • 買主の負担で修繕しなければならないケースも

2. シロアリ被害が建物に与えるリスク

シロアリ被害は建物の耐震性を低下させ、大規模地震発生時の倒壊リスクを高めます。被害は床下だけでなく、壁内や柱にも広がる可能性があるため、注意が必要です。

耐震性が下がる

いくら耐震性能が高い住宅であっても、土台や躯体にシロアリ被害が見られると強度は落ちます。実際に、阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)で全壊した建物の多くにシロアリ被害や腐朽が見られました。

耐震性能の低さが理由で倒壊する建物は、平行四辺形の軌道でペシャンと斜め横に潰れるように倒れるものが多い一方、シロアリ被害や腐朽によって強度が落ちた建物は、ドスンと真下に落ちる傾向にあります。1階がつぶれて無くなってしまい、2階が1階になってしまったような家屋は、そのほとんどにシロアリ被害や腐朽があったと見てもいいでしょう。

図2:阪神・淡路大震災で全壊した建物のシロアリ被害・不朽状況

*神戸市東灘区内での築30年未満の木造建物を対象に全棟調査を行う
阪神・淡路大震災ではシロアリ被害・不朽があった木造建物のほとんどが全壊(図表提供:テオリアハウスクリニック)

シロアリ被害は床下だけではない

シロアリの種類は一つではありません。日本のほぼ全域に分布している「ヤマトシロアリ」は水分を持ち運ぶことができないため、被害は1階にとどまります。しかし、壁内結露や雨漏り、水漏れがある場合は水分補給のために地中に戻る必要がないため、被害は1階だけにとどまらず、2階や3階に広がることもあります。

甚大な被害を受ける可能性のあるエリアは広がっている

一方、「イエシロアリ」は自身で水分を持ち運ぶことができるため、被害はより甚大になりがちです。イエシロアリは従来まで西日本の温暖な沿岸部を中心に生息していたため、西日本の人のほうがシロアリ被害に対する危機意識は高い傾向にありました。しかし、近年は温暖化が進んだことで、首都圏でもイエシロアリが見られるようになっています。

コンクリートの基礎やマンションも安心できない

コンクリートのベタ基礎であっても、安心はできません。シロアリは、コンクリートを突破してでも木材を食べに来ようとします。0.6㎜幅程度のひび割れがあれば、強靱な顎でコンクリートの粒子を一粒ずつ崩していき、攻め入るシロアリの数の力で突破することが可能です。

また、鉄筋コンクリート造(RC造)や重量鉄骨造のマンションであっても被害にあった事例があります。私自身の経験では、都内の築20年程度のマンションで、1階の世帯19戸のうち10戸にシロアリ被害や兆候が見られた事例がありました。構造体は木材ではなくても、建具や床材に木材が使われているため、食料を求めてマンションに侵入してくる可能性もゼロではありません。また輸入家具などに外来種のシロアリが潜んでいる可能性もあります。

コンクリートのベタ基礎に見られる蟻道:コンクリートの粒子を取り除いたり、打ち継ぎ部分から蟻道(ぎどう・シロアリが通るトンネルのようなもの)を作って、先にある木材を食べに行く(画像提供:テオリアハウスクリニック)
シロアリ被害が建物に与えるリスク
  • シロアリ被害で耐震性が下がる恐れも
  • シロアリ被害は床下だけでなく壁や柱、2階、3階に拡大する可能性がある
  • 甚大な被害をもたらす「イエシロアリ」の生息域は広がっている
  • コンクリートのベタ基礎やRC造のマンションであっても安心できない

3. 見た目だけではわからない! シロアリ被害の有無を確認するには?

シロアリ被害は見た目だけで判断することが難しいですが、なんらかの“サイン”が見られることもあります。しかし、サインが見られる頃には被害が広がっているおそれがあり、判断も難しいことから、被害の有無を確認するにはプロによる点検が求められます。

シロアリ被害は見た目ではわからないことも多い

シロアリが好きなのは、年輪の節の堅い部分ではなく、その間の柔らかい部分です。シロアリは明るいのが苦手なので光が入らないよう木部の表面を残すため、見た目だけでは食害が進んでいるかわかりません。一見すると被害がなさそうでも、叩くと簡単に木の表面が崩れ落ち、中身がスカスカになっている可能性もあります。

表層はきれいでも内部で食害が進んでいる木材の例:見た目は被害が無いように見えても食害が進んで、中はスカスカ(画像提供:テオリアハウスクリニック)

シロアリの「羽アリ」の群れは深刻な被害のサイン

関東では、4月下旬から5月にかけてヤマトシロアリの羽アリ(以下、シロ羽アリ)の群飛が見られることがあります。

この現象が屋内で見られると、ほぼシロアリ被害があると言っても過言ではありません。

と言うのも、明るい所が苦手なシロアリが羽アリとなって外に出てくるのは、種の保存のため。今の巣でこれ以上数を増やせず、分巣をするための行動であることから、シロ羽アリが群飛するということは、すでに屋内には何万、何十万匹単位のシロアリが活動していると考えられます。

ただし、羽があるアリだからと言って、必ずしもシロ羽アリとは限りません。クロアリの羽アリ(以下、クロ羽アリ)の可能性もあるので「前後の羽の長さが同じ」や「触れるだけで羽が取れる」などで見分けます。クロアリは蜂の仲間ですが、シロアリは実はゴキブリの仲間で羽が長く、クロアリのような頭、胴、腹部といった身体のくびれがないのが特徴です。

図3:シロアリとクロアリの違い

シロアリの特徴は、前後の羽の長さが同じで長く、胴にくびれがなく太いこと。クロアリは前羽と後羽の大きさが異なり、胴がくびれて細い(資料提供:テオリアハウスクリニック)
シロ羽アリの屋内発生(画像提供:テオリアハウスクリニック)

シロアリ被害があると「音」が違う

玄関やタイル張りの浴室の柱などは、シロアリ被害が出やすい部分です。ノックするように叩くと、健全な状態だと「コンコン」と響く音がしますが、シロアリ被害が進み、中が空洞になっていると、音がこもったり、ベコベコしていることもあります。

プロによる床下点検が最も確実

シロ羽アリの群飛が見られるのは特定の時期だけであり、すでに被害が進んでしまった後の現象です。被害が広がることを未然に防ぐには、定期的な床下点検が欠かせません。防蟻(ぼうぎ)薬剤の効力は、5年程度。築5年の家でもシロアリ被害が見られるのは、このためです。売買にかかわらず、5年に1度は、シロアリ予防・駆除専門のプロに床下点検と防徐処理を依頼するのが理想的と言えるでしょう。

シロアリ被害の有無を確認する方法
  • シロアリは表面を残して木材の中を食べるため見た目には被害がわかりにくい
  • シロ羽アリは巣が手狭になると飛び立つ習性のため、家の中で発生すればかなりの数のシロアリが屋内にいる状態と推察される
  • 床や壁をノックするように叩いたときに音が響かない場合は被害の可能性がある
  • シロアリ予防・駆除専門のプロに床下点検を依頼するのが最も確実

4. 売買後にシロアリ被害が発覚してトラブルになってしまうことを避けるには?

引渡し後のトラブルを避けるには、売買前に「状況」を把握することが大切です。また防徐処理を実施して保証を付けたり、不動産会社の保証サービスを利用したりすることも、売主、買主のリスク回避策として効果的です。

契約前の検査(インスペクション)でシロアリ被害の有無を確認する

売買後に売主、買主、どちらが修繕費用を負担するにしても、契約後にシロアリ被害が発覚するのは双方にとって気持ちのいいものではないはずです。両者が気持ちよく不動産取引を終え、買主が安心して入居できるようにするには、売買前に建物全体を検査(インスペクション)するのが望ましいでしょう。建物全体の検査ができなかったとしても、最低限、床下点検の実施をおすすめします。

防除処理をするとなお安心

検査や点検も、床や壁を剥がして見るわけではないため限界はあります。床下点検でシロアリの侵入が断定できるのは、塞がれて見えない部分もあるため、せいぜい70%程度です。より大きな安心を得るには、防除処理が効果的です。

防除処理をすれば5年間の保証など(会社によって異なる)がつくため、買主の安心と売主のリスク回避につながります。

不動産会社のサービスを利用する

売買後のトラブルは、不動産会社にとっても痛手です。最近では、不動産会社が引渡し後の不具合を保証してくれるサービスも見られます。

保証サービスは、たとえば引渡し前に専門の検査員が建物を検査し、適合の判定を受けることで、引渡し後の一定期間の建物の不具合やシロアリ被害などが保証されるというものです。保証内容や付帯条件は不動産会社によって異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。

売買後のトラブルを避ける方法
  • 契約前に検査(インスペクション)や床下点検によってシロアリ被害の有無を確認する
  • 不動産会社の「仲介保証」などのサービスで備える
  • 防除処理は5年保証などがつくため、売買にあたって実施しておくとなお安心

5. シロアリ対策は「予防」が大切

シロアリ被害を防ぐには、検査や点検だけでなく継続的な「予防」対策が求められます。

予防には「バリア工法(薬剤散布)」が最も一般的

シロアリの予防施工として最も一般的なのは、薬剤散布によって薬剤層のバリアを作るバリア工法です。現在では、マイクロカプセル化された薬剤を液状散布するので、人体により安全で、新たなシロアリの侵入を防ぐことができます。薬剤の効果は5年間のため、定期的な点検と薬剤の散布が必要です。

弊社の防除費用は「2,750円/㎡(税込)」(本記事作成時点)。1階の床面積が50㎡の家は、137,500円(税込)(本記事作成時点)となります。これは点検費用も含んだ金額です。弊社の金額は、シロアリ防除業界の相場価格と同等と考えています。実際には弊社より安い会社もありますが、あまりにも安い金額のシロアリ防除施工には効果や安全性に注意が必要です。

弊社では、日本しろあり対策協会認定で、臭いがほとんどなく、食塩よりも経口毒性が低く、安全性が確認されている薬剤を使用しています。

図3:シロアリ防除の「バリア工法(薬剤散布)」

マイクロカプセル化された薬剤を液状散布することによって薬剤のバリアを作り、シロアリの新たな侵入を防ぐ(画像提供:テオリアハウスクリニック)

床下換気は2次的な対策

シロアリ対策として、床下の換気を検討する人もいるかもしれません。しかし、床下換気はあくまで2次的な対策となります。湿気を減らすことでシロアリの居心地を悪くする効果がありますが、それによってシロアリが一切侵入しないというものではありません。

また、シロアリ対策として炭を置くという方法もありますが、これはある意味では要注意です。炭も元は木であるため、シロアリは炭も食べます。炭には湿気を吸収する効果はあるものの、床下換気同様、これでシロアリを完全に防げるというものではありません。

家の周りに木や段ボールを置かない

プロが点検する際には、家周りの状況も見ることが多いです。これはなぜかと言うと、家の周りにはシロアリの大好物となるものが潜んでいることが多いからです。

たとえば、建物の周りに木製の柵やフェンス、プランター、枕木などを置いている家庭も多いですが、木製のものを家の周りに置くということは、シロアリの餌をまいてしまっているのと同義です。さらによくないのは、新聞紙や段ボール等の紙類を放置してしまうこと。紙も元は木であり、シロアリからすれば柔らかく食べやすくした加工食品のようなものです。点検時に家の周りに放置された新聞紙や段ボールの束を持ち上げると、びっしりとシロアリが潜んでいるということがよくあります。これらが家周りにあることで、土の中にいるシロアリたちを家のすぐ近くまで呼び寄せてしまうことになるのです。

シロアリ対策として効果的なのは?
  • 「駆除」して「予防」する「防除」が大切
  • 最も一般的な施工は「バリア工法(薬剤散布)」
  • 床下の換気は二次的な対策
  • 家の周りに木材や段ボール、新聞紙を置かない

6. シロアリ被害によるトラブルを避けるためにも事前の点検と対策を

シロアリ被害は、建物の安全性に関わる重大な問題です。引渡し後のトラブルを避け、安心して住むためには、売買前の検査や点検が欠かせません。取得後は、定期的に点検や防除処理を実施することで、シロアリ被害のリスクを最小限に抑え、安心・安全に住み続けることができます。

平 一暁 (たいら かずあき)
(株)テオリアハウスクリニック 取締役 営業部部長。日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、約17年に渡り芸能界でマネージャー業務やプロモーション担当、ファンクラブ運営、著作権管理、WEBチケット販売などに携わる。2003年、縁あって関東白蟻防除(株)、現(株)テオリアハウスクリニックに入社。点検業務から東京営業所所長、法人営業部長を経て現職に。シロアリや害虫対策の専門家として、大手ハウスメーカー、リフォーム会社、工務店等、経営者やスタッフを対象としたセミナーを多数開催。法人別に詳細な営業指導、販促支援も行っているほか、異業種の業界専門紙やメールマガジンなどでは、シロアリ被害の啓蒙活動としてコラムを連載している。