トラブル事例

境界トラブルで土地・一戸建てが売れない!?  実例から学ぶ経緯と対応策

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高橋 正典
土地・隣地境界

日本には、境界が曖昧になっている土地が少なからず存在しています。こうした土地や一戸建てを売却する際には、基本的に境界を確定しなければなりません。境界確定には隣地所有者の承諾が不可欠ですが、スムーズに承諾が得られるケースばかりではないのが現実です。

そこで本記事では、価値住宅の高橋正典(たかはし まさのり)が、実際に対応している隣地境界トラブルの背景や状況とともに、トラブルになる要因や対応策について解説します。

1. 【トラブル事例】隣地の承諾が得られず境界確定ができない…

隣地境界トラブルには、これまで幾度となく遭遇してきました。現在、私が対応しているのは、東京23区の築50年近くの一戸建てを巡る境界トラブルです。売主は、相続で一戸建てを取得した50代、60代の兄弟。すでに半年以上、隣地に境界確定を承諾してもらうための交渉を続けていますが、いまだ承諾が得られていません。

承諾が得られない理由は測量図と現況の差異

承諾が得られない理由は、当時の測量図と現況のブロック塀の位置が20cmほど違うことが発覚したためです。売主も隣地所有者も分譲当時に購入しており、双方ともに、長年ブロック塀を境界と認識していました。しかし、当時の測量図を復元すると、実際の境界はブロック塀から20cmほど隣地に食い込む位置にあったのです。

隣地所有者の承諾を得なければ境界が確定できないため、正しい境界の位置の説明とともに署名・捺印をお願いしたところ「ブロック塀が境界だ」と主張されてしまい、協議は今も平行線になっています。

図1:当隣地境界トラブルの概略図

隣地所有者は「測量図の境界ではなくブロック塀の中央が境界である」と主張し、話は平行線に(図:中古住宅のミカタ編集部作成)

トラブルは親族にまで波及することも

実は、隣地の所有者本人は、測量図上の境界に納得してくれています。しかし、将来この土地を相続することになる所有者のお子さんやお孫さんが承諾していないことから、署名・捺印をいただけていないのです。この事例のように、境界トラブルが親族にまで波及することは決して少なくありません。

「越境」の覚書をもらえない状況

現在、ブロック塀までお互いの屋根が来ているため、隣地の建物が越境している状態でもあります。越境しているとなると、建て替えの際に越境状態を解消してもらうための覚書に署名・捺印してもらう必要もあるのですが、当然こちらも隣地所有者には承諾がもらえていない状況です。古い分譲地では、屋根や樋(とい)が越境しているケースも少なくありません。

隣地の承諾が得られず境界確定ができない事例
  • 築50年程度の一戸建て。売主は親から相続した兄弟
  • 当時の測量図上の境界と、双方が境界だと思っていたブロック塀の位置が20cmほどずれていることが発覚
  • 売主は境界を確定して売却したいが、半年以上、隣地の承諾が得られていない
  • 承諾しないのは所有者本人ではなく、所有者の子と孫
  • 隣地の屋根が越境しているが、その覚書に署名・捺印してもらうこともままならない状況

2. そもそも「境界」とは?なぜ隣地とトラブルになるのか

隣地境界線とは、隣接する土地同士の境界を示す線のことです。一方、土地は「点」で境界が決められているため、「線」が曖昧になっていることが少なくありません。境界を確定するには、基本的に所有地に隣接する土地すべての所有者の承諾が必要です。

90年代までに取得した土地は境界が確定していないことが多い

先の事例は1970年代の分譲地です。今となっては、なぜ測量図とブロック塀の位置がずれていたかは特定できませんが、おそらく分譲会社がいい加減だったのでしょう。90年代までに取得した土地は、境界が確定していないことも少なくありません。昔は境界が確定していなくても土地を分筆(ぶんぴつ、一つの土地を複数に分けることをいう)することができたため、確定測量の必要性が低かったということもあります。

ブロック塀の撤去や新設で揉める

同じく90年代頃までは、ブロック塀の中心が境界線とされることが多く、こうした土地ではブロック塀が隣地との共有物とみなされています。共有物である以上、ブロック塀を撤去したり直したりするときは隣地との協力が不可欠です。しかし、一方がブロック塀を直したいときに隣地が直したいとは限らないため、費用負担などで揉める可能性があります。

ブロック塀の撤去や新設で揉めるのは、多くの場合、建て替え時です。古くからあるブロック塀は高さが現行の建築基準法に不適格なことも多いため、どちらが撤去するか、どちらが費用を負担するかで揉めるケースが多く見られます。

「私道」がトラブルの要因に

土地が私道と接している場合も、売却時にトラブルになることが多いです。私道は、接している複数の土地所有者と共有になっている「共同所有型」と、分筆して各々が部分的に所有している「相互持合型」に大別されます。

相互持合型の場合は、通行する部分やガス管や水道管を引き込む際に掘削する部分の土地の所有者から通行掘削承諾書を得なければなりません。一方、共有所有型の場合は、共有者全員の承諾を得る必要があります。また、私道の幅が4mに満たない場合は再建築時に後退(セットバック)する必要がありますが、この場合、私道の中心線がわからず、揉めることもあります。

図2:「共同所有型」と「相互持合型」の私道

「共同所有型」であっても「相互持合型」であっても、私道が隣地とのトラブルの要因になることは少なくない(図:中古住宅のミカタ編集部作成)

近年は「所有者不明」の土地も多い

近年は、相続などで登記が行われずに何年も経ってしまったことなどを理由に、所有者が特定できない「所有者不明」の土地も増えています。2020年の国土交通省の調査によれば、全国の所有者不明土地の割合は24%にのぼります。2024年4月には相続登記が義務化されましたが、すでに相続された不動産は3年の猶予があるため、すぐに所有者不明土地が減少するわけではありません。

図3:所有者不明土地

相続登記をしないまま放置されることなどが理由で所有者不明の土地となる(出典:政府広報オンライン

ただ、隣地が所有者不明の場合は「筆界特定制度(筆界特定登記官が外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて現地における土地の筆界の位置を特定する制度)」や「不在者財産管理人制度(家庭裁判所が不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため財産管理人選任などを行う制度)」で解決できる可能性があるため、所有者が頑なに承諾してくれないケースと比べれば解決しやすい場合もあります。

ただし、「筆界特定制度」により境界が特定された場合、その旨が登記簿に記載されるので、売却する際などには何かしらの問題があったことが購入者やほかの人にわかるという問題があります。

売買前の確定測量はほぼ必須

境界が確定していなければ、土地の正しい面積と価値を算出することはできません。法律上は登記簿の面積で売買できるものの、特に地価が高いエリアでは土地の大きさが1坪、2坪違うだけで取引価格が大きく変わってきます。

また、境界が確定していないと将来的に隣地とトラブルになる可能性が高いことから、売買時には買主から境界確定を求められるケースが大半です。売買契約書にも「境界を明示しなければならない」と明記されています。以上のことから、境界確定は土地売却の必須要件と言っても過言ではありません。

「境界」とは?なぜ確定が必要なの?
  • 90年代頃までに取得した土地・一戸建ては現況と当時の測量図が異なることが多い
  • ブロック塀が境界線の中心に来ていて撤去や新設で揉めることも
  • 私道の境界や権利関係が問題となってガス管や水道管の引き込みや立て替え時に揉めることもある
  • 近年は土地の所有者が不明なことも少なくない
  • 登記簿上の面積で売買は可能なものの、境界確定を求められることがほとんど

3. 隣地から承諾を得られない場合はどうすればいいの?

隣地から境界確定の承諾を得られない場合でも、土地を売却するために取れる選択肢はいくつかあります。ただ、いずれの選択肢も時間や金額面での妥協が必要です。

相手の言い分を聞き入れる

どうしても隣地の承諾が得られず、時間をかけることを避けたい場合は、相手の言い分を聞き入れるのも選択肢の一つになってくるでしょう。先の事例で言えば、隣地の言い分である30cm手前の境界線で確定させてしまうということです。ただ、多くの場合、隣地が主張する境界はこちらが不利になるものですので、売値が下がることを覚悟しなければなりません。

裁判で決着をつける

境界トラブルは民間対民間の揉め事であるため、たとえ訴訟を起こして裁判で根拠のある主張をしたとしても、承諾を得られるとは限りません。しかし、確定測量結果などでこちらの主張を実証することができれば、裁判で勝てる可能性があると考えられます。

しかし、裁判となると時間や手間がかかるとともに、隣地との揉め事が明るみになってしまうことにもなります。「裁判するまで揉めた隣人がいる」という事実が土地の価値を下げることにもなりかねないため、慎重に判断しなければなりません。

不動産事業者に買い取ってもらう

早く手放したい場合は、不動産事業者に買い取ってもらうことも検討するといいでしょう。隣地と揉めている土地はまず買い手がつきませんが、不動産事業者なら買い取ってくれる可能性があります。弊社が、売主様から相談を受け、明確な根拠や言い分もなく単に「印鑑を押したくない」と主張する隣地の土地を買い取ったこともあります。

不動産事業者であれば、トラブル解決のノウハウを持っていることも多く、厄介な隣地所有者でも時間をかけて説得したり、場合によっては裁判したりすることができます。一方で、不動産事業者に買い取ってもらう場合、買取価格にはあまり期待できません。買取価格は、通常でも個人間の売却相場より安くなるものです。さらにトラブルが解決していない中での買取となると、相場の6〜7割の価格になってしまうこともあります。

粘り強く交渉する

時間が許すのであれば、承諾が得られるまで粘り強く交渉するケースが多いと思います。冒頭で紹介した当事例も、交渉を続けている状況です。時間をかければ承諾が得られるという保証はありませんが、隣地の承諾さえ得られれば相場価格で売ることができます。

隣地所有から境界確定の承諾が得られない場合の対応策
  • 相手の言い分を聞き入れて境界確定する
  • 裁判で決着することもできる。ただし時間がかかるとともに「裁判になった」ことが土地の価値を下げるおそれもある
  • トラブルを解決できない場合でも不動産事業者なら買い取ってくれる可能性がある。ただし買取価格は相場より低くなることが多い
  • 時間をかけられるなら粘り強く交渉する

4. 隣地境界トラブルで土地や一戸建てが売れない事態を避けるには?

隣地所有者の承諾を得て境界が確定できるかどうかは、土地の価値に直結する問題です。境界を巡るトラブルは非常に多く、100%有効な対策や解決策はありませんが、いざ土地や一戸建てを売るというときに困ることのないよう、次のような点を心がけておくとよいでしょう。

まずは「現状」を把握しておく

境界確定には、数十万円の費用とともに、どんなに早くても1〜2ヶ月程度の時間がかかります。過去には、3年かかった事例もありました。いざ売ろうと思ってから解決に向けて動くとなると、この期間はとても歯がゆい思いをするはずです。

また、売却直前に交渉するとなると、隣地所有者から足元を見られ、厳しい条件を突きつけられる可能性があります。それこそ相手の言い分を受け入れざるを得なくなってしまったり、買取事業者に売る選択しかできない状況にならないよう、売却直前に境界がどうなっているのか調べるのではなく、事前に現状を把握しておくということが非常に大切です。

自分で境界を確認する方法

「境界確認書」という隣地所有者の署名・捺印がある書類があれば、境界は確定していると判断できます。

境界確認書がない場合は、境界標(境界を示す標識のこと)があるかどうか確認してみてください。境界標と境界標を結んだ線が境界線です。ただし、境界標がずれてしまっていたり、移動されていたりする可能性もゼロではないため、境界標が正しいと判断するにはやはり確定測量図が必要です。

「地積測量図があるから安心」と考える人もいますが、地積測量図があっても境界が画定していないケースもあります。当事例も当時の測量図はあったものの、現況が異なっていました。

結論としては、境界確認書がなければ自分で現状を把握することは難しいと言えるでしょう。境界が確定しているかわからない場合は、土地家屋調査士に調べてもらうのがベストです。確定測量〜登記にかかる費用は通常約35万円〜80万円程度で、土地の状況や必要な作業、役所の立ち合いが必要かどうかなどによって異なります。

できる限り隣地所有者と良好な関係性を築いておく

承諾が得られるかどうかは、隣地との関係性が大きく影響します。これまで「親にいじわるされたから協力しない」「親の遺言だ」といった理由で相続した土地の境界確定に承諾してくれない人を何人も見てきました。今の関係性に問題がなくても、親や先代のトラブルが基となって承諾が得られないこともあります。関係性は一朝一夕に築けるものではないため非常に難しいですが、できる限り隣地所有者とは良好な関係性を築いておきたいものです。

ただ、いくら仲よくしていたとしても、それとこれとは別問題ということもあり、同じ分譲地で育ち、家族同士の付き合いがあった関係性であっても揉めてしまう例はあります。

隣地境界トラブルで土地・一戸建てが売れないことを避けるには
  • まずは「現状」を把握する
  • 取得時の資料などを見て境界が確定しているか確認してみよう
  • 隣地所有者とは可能な限り良好な関係性を築いておく

5. 隣地境界トラブルがある土地・一戸建てを売却するときの不動産会社の選び方

隣地境界トラブルがある中で、少しでも好条件で土地や一戸建てを売るためには、不動産会社のサポートが不可欠でしょう。トラブルのある不動産の売却で不動産会社に求められるのは「粘り強さ」です。

隣地境界トラブルは不動産会社にとって「手間」

隣地境界トラブルのある土地や一戸建ては、不動産会社からすれば手間のかかる案件です。境界トラブルの解決には、数ヶ月、ときには数年という時間がかかることから、売主の利益を考えず、すぐに買取事業者に買い取らせようと考える不動産会社も少なくありません。

早く売りたい場合はそれでも仕方がないかもしれませんが、時間がかかっても少しでも高く売りたい場合は、不動産会社選びが大切です。実際に隣地と交渉したり測量したりするのは不動産会社が手配した土地家屋調査士ですが、粘ってくれるかどうかは不動産会社次第です。冒頭で紹介した事例では、私も現場に行って交渉することがありますが、そこまでやる不動産会社ばかりではないというのが現実です。

媒介契約締結前に不動産会社の提案力や戦略を見るべし

事前に粘り強い不動産会社かどうかを見極めることは難しいですが、査定時に現状や売り方の選択肢を丁寧に説明してくれるかどうかは大切になってきます。承諾を得るために隣地所有者に対してどのような説明をしていくか、承諾が得られなかった場合はどのような選択肢が取れるかといった提案力や戦略から、不動産会社の持つノウハウや姿勢を見極めましょう。

媒介契約を締結後に不動産会社を乗り換えることはできる?

不動産会社と媒介契約を締結した後の調査で、境界が確定していないことが発覚することもあります。そのため、境界確定のためにどのような対応をしてくれるかは、お願いしてみなければわからないこともあるでしょう。

また、境界トラブルは隣地所有者との問題のため「承諾が得られない=不動産会社の力量不足」とは限りません。隣地境界トラブルの解決には時間がかかることもあるということを理解するのも大切です。

対応に満足できなければ、不動産会社を変えることもできます。ただし、専任媒介契約や専属専任媒介契約を締結している場合は、契約が有効な状態で他社に売却を依頼することはできないため、注意が必要です。

隣地境界トラブルがあるときの不動産会社の選び方
  • 境界トラブルは不動産会社にとって手間であることから、手っ取り早く売却できる買取などを提案されることも少なくない
  • 時間をかけてでも高く売りたい場合は不動産会社選びが大切
  • 査定時に現状や売り方を丁寧に説明してくれるかで不動産会社の粘り強さや意気込みを見極めよう
  • 依頼してみて期待した対応が見られない場合は不動産会社を乗り換えることも可能。ただし、契約が有効な状態で他社に売却を依頼することはできない

6. 隣地境界トラブル解決には「時間」「心理的な負荷」を要することも。粘り強く対応してくれる不動産会社を見つけよう

隣地境界トラブルは、決して少なくありません。解決には、一定の時間や心理的負荷を要することもあります。境界トラブルがある土地や一戸建てを好条件で売るには、隣地所有者への粘り強い交渉が必要です。時間や手間を惜しまず、売主の負担を軽減してくれる不動産会社とともに、トラブルの解決と売却を目指しましょう。

プロフィール写真
高橋 正典 (たかはし まさのり)
不動産コンサルタント、価値住宅(株) 代表取締役。金融機関勤務を経て、都内不動産デベロッパー立ち上げ期に参画し、同社取締役及び関連会社の代表取締役を歴任。エージェント(代理人)型の不動産会社として、2008年に(株)バイヤーズスタイルを設立、代表取締役就任。2016年10月に会社名を価値住宅(株)へ変更。中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる取組みを全国へ拡げるため、VCネットワーク「売却の窓口®」を運営し、その加盟店は全国へ広がっている。不動産流通の現場を最も知る不動産コンサルタントとして、各種メディア・媒体等においての寄稿やコラム等多数。