売るコツ

一戸建てを高く売るには「正直」な不動産会社を選ぶべし!?売主がすべき6つのこととは

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風戸 裕樹

不動産を売却する人の多くは「できれば高く売りたい」と考えているのではないでしょうか。しかし、不動産は高く売り出せば高く売れる、というものではありませんし、価格の決定には周辺相場や建物の状態、販売戦略など多くの要素が関係してきます。

本記事では、その中でも難易度の高い一戸建てをより好条件に売るための方法について、中古住宅の流通の仕組みや売主の心構え、不動産会社の選び方などを、元ソニー不動産執行役員としての経験を踏まえ、現在は海外不動産を取り扱うProperty Access代表、らくだ不動産会長を務める風戸裕樹(かざと ひろき)が解説します。

1. 高値で売るには「不動産流通」の仕組みを知ることが大切

日本の中古不動産流通は、正直な話をすれば、あまり透明性が高い市場とは言えません。この背景には、日本では中古住宅の取引を不動産仲介会社が担っており、一つの不動産仲介会社で売主、買主、双方の仲介ができること(この仲介形態を業界では「両手取引」と言います)が挙げられます。

図表1:両手取引とは
概要図
(図:中古住宅のミカタ編集部作成)

両手取引には売主や売主の所有する物件を直接的に知る不動産会社から購入できるというメリットがある一方、間に入る不動産仲介会社が情報をコントロールしやすい仕組みであることがデメリットと言えます。

少しでも高く売りたい売主、少しでも安く買いたい買主。両者の利益は相反するところにありますから、不動産会社がどちらかの味方になると、もう一方には不利な取引になりかねません。本来、売主、買主それぞれの意向に沿った形で取引を進めるのであれば、それを仲介する不動産のプロは別の会社、別の人間がそれぞれを仲介(媒介)する体制が望ましいと言えます。

米国はエージェント制、両手取引が禁止されている

中古住宅取引の歴史が日本よりも長く、市場規模も大きいアメリカでは、一つの不動産仲介会社が売主・買主の双方を仲介することが禁じられています。この理由は先に述べた通り、売主、買主それぞれの利益を守るためです。しかし、今の日本の法律では、同じ会社、同じ担当者が、売主も買主も仲介できるようになっています。

売主、買主、どちらも自社の顧客で取引を成立させれば、不動産仲介会社にとっては受領できる仲介手数料が2倍になります。売主の気持ちに寄り添いながら他社の買主と協力して取引を成立させること以上に、自社内の顧客で取引を成立させたいという心理がどうしても働いてしまうのです。

売りたいと思っても、物件の情報が市場に公開されない!?

日本の不動産市場の透明性の低さは、このような仕組みにより、販売物件が完全には公開されていないことにあります。もし不動産会社が「市場に出す前に自社の顧客同士で取引を成立させよう」「市場に出しても他社の買主は後回しにしよう」といった思惑をもっていれば、物件情報は公平に流通しません。

宅建業法(宅地建物取引業法)では媒介契約を締結した場合、国が指定する流通機構REINS(レインズと言います)への物件登録が義務付けられていますが、「物件情報を公開しないほうが不動産仲介会社の利益になる」という構造がある以上、実際には売主、買主の利益よりも自社の利益を優先する不動産仲介会社が存在します。だからこそ、自宅の売却を考えるときには、顧客の利益を最優先に考えてくれる倫理観を持った不動産会社に依頼することが、物件情報を多くの人に届け、住まいを好条件で売るための大前提となります。

高値で売るには、まず「不動産流通」の仕組みを知ることが大切!
  1. 日本の不動産流通市場では「両手取引」が見られる
  2. 売主、買主の利益より自社の利益を優先して両手仲介する不動産会社も
  3. 両手仲介を目指す不動産会社は物件情報を“隠す”

2. 信頼できる不動産会社の選び方

高い専門性をもち、売主の利益を最優先に考えてくれる不動産会社を見極めるのは容易ではありません。ましてや、売主にとって自宅を売却する経験はそれほど多くはありません。売却を任せる不動産会社を選ぶときには、次の点をチェックしてほしいと思います。

「正直」な不動産会社の見分け方

先の通り、好条件で不動産を売却するには、不動産仲介会社に物件情報を公開してもらわなければなりません。売主の利益を追求することに正直に、一生懸命努力してくれる不動産会社は、多種多様な方法で物件の広告活動をしているものです。不動産会社を選ぶときには、どんな媒体でどのように物件情報を公開しているのかを確認しましょう。

一戸建ては、周辺に住む人が購入することも少なくありません。インターネットで確認できる情報だけでなく、オープンハウスをしてくれたり、投函チラシや折込チラシなどをしてくれたりするかどうかも確認するといいと思います。

一戸建ての売却は地元の会社が強いことも

一戸建ては、マンションと比較して査定や調査が難しい傾向にあります。それは、1軒1軒異なる土地の形状や境界、法令上の制限、建物の状況などを見極めなければならないからです。

遠方の不動産会社であっても、査定や調査、売却はできます。ただ、地域に根付いた不動産会社は、周辺物件の取引実績が多く、需要も把握しているもの。倫理観のある正直な不動産会社であれば、会社の規模は関係ないと私は考えます。不動産会社を選ぶうえでは、知名度やネットワークだけでなく、強みや実績も見るようにしましょう。

「高額査定」に注意

自宅の販売価格を決めるためには「価格査定」が必要ですが、売却を依頼する不動産会社を決めるために、依頼前に簡易査定などを行うこともあるでしょう。そのときには「査定額が高いから」という理由だけで不動産会社を決めるのはおすすめできません。そもそも、査定額とは不動産会社が「これくらいで売れるだろう」と推測する金額です。査定額が高ければ高く売れるということではありません。特に最近では、インターネットを介して一括査定などのサイトが多く利用されており、査定額を優先して決められる傾向が心配です。

中には、売れるはずもない高額な査定額を出して選んでもらおうとする不動産会社もあるため注意が必要です。査定額の高さよりも、査定額算出の背景を丁寧にわかりやすく説明しようとする姿勢を評価するようにしましょう。

「売却後」の安心のために

売るときだけでなく、売った後のアフターサポートも大切です。不動産の売主は、一定期間「契約不適合責任」を負わなければなりません。契約不適合責任とは、売却後に契約に適合していない欠陥や不良箇所が発覚した場合に修繕などの対応をしなければならない責任。特に、一戸建てはマンションと比べて経年劣化が不具合となって現れやすい傾向にあるため、売却後の保証や保険があると安心です。

中古物件であっても、仲介をする不動産会社が加入できる保険として「かし(瑕疵)保険」というものがあります。この保険の対象は、住宅の基本構造部分(構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分)です。建物の構造において重要な部分に万が一不具合があっても、保険でカバーできることは、売主、買主双方にとって安心な取引につながるでしょう。不動産会社に直接、このあたりの内容を知っているか質問してみるのもいいでしょう。

図表2:かし(瑕疵)保険の仕組み
概要図
かし(瑕疵)保険は、万一の補修が必要な場合に高額になりがちな、漏水や建物の構造で重要な部分の不具合を補償する(図:住宅あんしん保証の図を元に中古住宅のミカタ編集部作成)
売却を任せる不動産会社の選び方
  1. 広告方法を確認して「正直」な不動産会社かをチェック
  2. 会社の規模やブランドだけではなく、強みや実績を重視
  3. 高額な査定額を出す会社には注意!査定はその背景を確認
  4. 売却後の安心のためにも、保証や保険の有無を見る

3. 一戸建てを高く売るために売主がすべき6つのこと

正直かつ優秀な不動産会社に売却を依頼するのは、一戸建てを好条件で売却するための「前提」にすぎません。そもそも、不動産を売るのは不動産会社ではなく売主です。少しでも高く売るために売主自身が学ぶべきこと、やるべきことも多くあります。

(1) 市況・相場を知る

「市況がいいとき」が不動産の売り時とも言われますが、自宅の売却に関して言えば、売主のライフステージにおいて、「売却が必要になったとき」が売り時だと私は考えます。ただこれは「市況を気にしなくていい」ということではありません。売却前に、今の市況や相場を知っておくことは非常に大切です。相場価格から見込んだ額で住宅ローンが完済できないと判明すれば、そもそも買い替え自体が難しいという判断になることもあるでしょうし、いくらで売れるかは住み替え先の物件選びにも影響します。

今は、インターネット等で多くの情報が得られる時代です。売却前には、不動産ポータルサイトなどを見て、自分が売ろうとしている物件のエリアの相場や、条件が似ている物件がいくらで売り出されているのかなどをチェックしておきましょう。

(2) 売却前に価格の「戦略」を練る

査定額は不動産会社が売れると考える予想金額だと書きましたが、中古住宅の売買は、ただ一人の買主に選んでもらうことができれば、売買が成立します。ときには相場価格を上回る金額で決まることもありますし、売主の都合や事情によっては価格を下げる形で調整することもあるはずです。

希望額で売れるかどうかは、売り出してみないことにはわかりません。そこで、売り出す前には売り出し価格はもちろん「いくらまで下げられるか」のラインを決めておくことも大切です。売れなかった場合にどれくらいのペースで価格を下げていくのか、どこまで下げるのか……これらをあらかじめ決めておくことで、戦略的に販売活動を進められます。

(3) 検査(インスペクション)を実施し、建物の状況を把握しておく

売主には「契約不適合責任」と言って、売買の対象となる目的物が契約内容に適合しない引渡しを行ったときに売主側で負担する責任を負います。具体的には、引渡し後、あらかじめ把握していない重大な不具合が発覚したときの補修などは、売主の負担で行わなければなりません。

そのような事態を避けるために、あらかじめ検査(インスペクション)をして不具合があれば補修(リフォームなど)をするか、それを買主に納得してもらったたうえで売買契約を結ぶ必要があります。また、買主に建物について質問を受けたときにしっかり答えられるかどうかは、双方が納得のいく価格を設定・交渉するために重要なポイントになります。

検査では、一般的に基礎や外壁のひび割れ、雨漏りによるシミなどや劣化、不具合の有無などを建物に詳しい専門家や第三者機関の建築士など第三者の目線で目視や計測によって調査します。中立的な立場のプロが検査してくれることで売主自身が建物の状況をしっかり把握できることが1番のメリットです。また、「瑕疵保険検査」で基準を満たせば、前述のかし(瑕疵)保険に加入することができます。

(4) 広告のクオリティを上げる

不動産の広告活動は、基本的に不動産会社が行うものです。しかし、不動産会社に任せっきりにしてはいけません。売主も広告物のクオリティをしっかりチェックし、必要であれば指摘することも大切です。

たとえば、物件写真。今はスマートフォンでも広角の綺麗な写真を撮れますが、散らかった状態で撮影したり、写真の数が少なかったりすれば、買主にとってほしい物件にはなりにくいでしょう。写真だけではなく、不動産ポータルサイトや販売図面に書かれている内容も重要です。ここは不動産会社の担当者のセンスにもよるところもあるので、掲載されている情報をしっかり確認し、もっといいアピール方法があると感じれば修正の希望を伝えましょう。

(5) 内見時の「第一印象」をよくする

自宅の購入を考える人は、まず内見をします。いくら掲載されている物件情報に興味を持っても、実物を見て「思ったより狭い」「思ったより汚い」と感じれば購入にはいたりません。広告物も大切ではありますが、やはり最後は実物勝負になります。

つまり、内見時にどれだけ物件を魅力的に見せられるかは、好条件で売るために非常に重要なポイントになります。多くの人は「広い」「明るい」と感じると好印象を持つ傾向にあります。内見前にはできる限りものを減らして整理整頓をすることで部屋を広く見せ、場合によっては面積の広いカーテンやソファなどのカバーは白く明るい色に変えるなど、魅力的に見せる工夫と努力をしましょう。

(6)「人と人」の取引であることをわきまえる

不動産売買とは、すなわち買主と売主との取引です。買主は、物件だけでなく売主の人柄や対応も見ています。これまで住んできた売主がきちんとした人であれば、家も大事にきれいに住まわれてきたのだろうと思えるでしょう。

たとえば、内覧時に無愛想な態度でいれば印象がいいものではないでしょう。過度に取り繕う必要はありませんが、たとえば子どもがいる人には学区や周辺の公園の話、高齢者であれば病院のことなど、実際の住人だからこそ知っている情報を伝えることも、買主に信頼してもらい、少しでも好条件で売る交渉のために効果的です。

一戸建てを高く売るために売主がすべき6つのこと
  1. 市況・相場を知る
  2. 売却前に価格の戦略を練る
  3. 検査(インスペクション)を実施し、建物の状況を把握する
  4. 広告のクオリティをチェックする
  5. 内見時の第一印象をよくする
  6. 人と人との取引であることをわきまえる

4. 売主には「●●してほしい!」不動産会社の本音とは?

どんなに優秀で、どんなに売主の利益を考えてくれる不動産会社であっても、売主の協力が得られなければスムーズに、そして好条件に結びつく形で不動産を売ることはできません。仲介会社の立場からすれば、売主には次のような点で協力してほしいと思っています。

売却前にはすべての情報を開示してほしい

不動産会社は、売却前に不動産の調査・査定をします。しかし、中には売主しか知り得ない情報もあるはずです。たとえば「今は補修をして問題ないが、以前に雨漏りがあった」「このドアの開閉がしづらい」など、マイナスの評価になってしまう懸念があることも包み隠さず不動産会社に開示しましょう。買主さんにとって必要な情報であることはもちろん、先に紹介した通り、不動産の売主は「契約不適合責任」を負うため、双方がマイナス点を含めて把握・納得したうえで売買契約を交わすことは、売主を守ることでもあるのです。

自主性と「売る心構え」を持ってほしい

不動産を売るのは、他でもなく売主です。不動産会社は売主にとって安心な取引ができるよう仲介しますが、売主の協力が得られなければできないこともあります。たとえば、内覧対応。居住中の物件を売却する場合には、売主が自宅の整理整頓や自身のスケジュール調整をする必要があります。

中には、売り出し期間中にもかかわらず毎週末出かけたり、内見の時間を自分の都合優先で制限したりする売主もいますが、これでは売れる物件も売れません。できる限り内見希望の人を受け入れる体制と意識を持つことが、スムーズな取引につながります。

売却の流れを知り、段取りや準備をしてほしい

不動産を売るというのは、単に売買契約を交わすだけではありません。所有権を買主に移転し、売主自身のローンを完済する手続きもあります。これらには、さまざまな書類や準備が必要になります。不動産会社が、あらかじめ売買契約や決済時に必要な書類などをアナウンスしますが、これらの書類を期日に余裕を持って準備できると安心です。

万が一、契約や決済までに準備できないものがあれば、売却のスケジュールをずらすことにもなりかねません。高額な取引に際して、買主も気が張っています。仲介会社も細心の注意を払いますが、ミスによって取引が滞ったり、破談になってしまったりすることのないように気をつけましょう。

不動産会社が売主に求めること
  1. 売却前にはすべての情報を開示してほしい
  2. 自主性と「売る心構え」を持ってほしい
  3. 売却の流れを知り、段取りや準備をしてほしい

5. 正直な不動産会社を味方につけて、納得のいく取引を目指そう

売り方やテクニック以前に大切なのは、フェアな環境で納得のいく取引ができることです。市場に出なければ、売れる物件も売れません。まずは、今の日本の不動産流通の仕組み上、このリスクが少なからずあるということを知っておきましょう。

スムーズな売却のためには、正直な不動産会社を味方につけること。そのうえで、不動産会社に任せきりにするのではなく、売主自身ができることをやってこそ、満足な取引に近づくはずです。

プロフィール写真
風戸 裕樹 (かざと ひろき)
2004年、早稲田大学商学部卒業。 不動産仲介、不動産投資ファンドの購入担当を経て、2010年、不動産仲介透明化フォーラム(FCT)を設立。 米国型の売却エージェントサービス「売却のミカタ」を開始し、全国展開。 2014年にソニー不動産にFCT社を売却、ソニー不動産の執行役員に就任。2017年シンガポールにて、海外不動産のメディア・コンサルティング事業を行うProperty Access Pte. Ltdを共同創業。