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不動産の親族間・親子間の「売買」は「相続」となにが違う?メリット・デメリットや注意点を紹介!

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畑中 学

不動産を親子間や親族間で引き継ぐ場合は、「相続」や「贈与」という形を取るのが一般的です。しかし、親子間や親族間で不動産を「売買」するケースも少なからず見られます。親子間・親族間売買は、売る側・買う側にもメリットがありますが、近しい間柄だからこそ妥当性に欠いた取引になってしまいがちです。

本記事では、武蔵野不動産相談室の畑中学(はたなか おさむ)が、不動産の親子間・親族間売買のメリットやデメリット、注意点などを解説します。

1. 意外と多い?不動産の親子間・親族間売買が選ばれる理由とメリット

「親子間・親族間でなぜ売買?」と考える人もいるかもしれませんが、相続前後の売買には相続にはないメリットがあり、相続によって生じかねないトラブルを未然に防いだり解消したりする効果もあります。

相続・贈与では、売主が対価として金銭を得られないから

親から子に家を相続・贈与するとなると、親は対価として金銭を得ることができません。かといって、第三者に売却すれば子どもに家を引き継ぐことができず、自分たちが住むこともできなくなってしまいます。親子間・親族間の売買が選ばれる理由の一つは「第三者には売りたくないけど対価として金銭を得て所有権を譲渡したい」というものです。

昨今では「老後資金問題」も話題になっていますが、親の老後資金が足りない、あるいは住宅ローンを返済できないなどという理由から子が親の家を購入したり、逆に子が資金難にあるときに親が子の家を買ったりするケースが見られます。

特定の親族に所有権を移したいと考える場合に有効

売却には「特定の人に譲渡できる」という効果もあります。相続においては遺言によって誰に、どの資産を相続する、と指定することができます。しかし、遺言でも侵害できない遺留分などもあるので、必ずしも財産を渡す側である親が意図する形で相続できるとは限りません。売買であれば生前に、自分の意志で、確実に特定の親族に所有権を移行できます。

相続人同士で共有持分を売買することも

親族間売買は、相続後にも見られます。たとえば、子どもが2人いて、1つの不動産を平等に2分の1ずつの持分で相続したとしても、お互いに世帯があり住む場所も違えば、意見が割れることもあります。共有不動産はすべての共有者の同意がなければ売却できませんので、一方が「売却したい」、もう一方は「残したい」と考えているようなケースでは、「残したい」方が、もう一方の持分を買い取り、共有状態を解消することも見られます。

不動産の親子間・親族間売買が選ばれる理由の一例
  • (売る側)対価として金銭を得て売却して住み続けたい
  • (売る側)特定の親族に所有権を移したい
  • (売る側・買う側)相続不動産の共有を解消したい

2. 親子間・親族間売買にはどんなデメリットやリスクがある?

一方、親子間・親族間売買には、次のようなデメリットもあります。

住宅ローンの審査が厳しい

親子間・親族間の不動産の売買は、融資が下りにくいと考えておきましょう。それは、親子間・親族間の不動産売買への住宅ローンの利用を禁止している金融機関が多いためです。

厳密に言えば、金融機関というより、保証会社が親子間・親族間売買への融資に慎重になりやすいのです。やはり、親子間・親族間となると、相続や贈与によって不動産を譲渡するのが一般的ですから、保証会社は「融資したお金を不正に使われるのではないか」「税金対策ではないか」と考えます。

親子間・親族間の不動産売買に融資してくれる金融機関もゼロではありませんが、融資してくれるとしても一般的な取引よりも金利が高くなる場合が多いでしょう。

利用できない税金の控除などがある

親子間・親族間の売買となると、売主、買主が利用できない税金の控除なども出てきます。

まず、売主は「3,000万円特別控除(マイホーム特例)」が利用できません。この特例は、マイホーム売却時の譲渡益を最大3,000万円まで控除できるものです。控除が利用できないことで、とくに譲渡益が大きくなるような場合は高額な税額が課されてしまうため注意が必要です。他に、同居していて生計を同一としている親族から不動産を購入した場合、買主は「住宅ローン控除」が利用できません。

また、相続で不動産を取得した不動産を売却する場合は「相続空き家の3,000万円特別控除」や「取得費加算の特例」などの特例が適用になる可能性がありますが、売買で取得した場合、これらの特例は適用となりません。

「みなし贈与」になるおそれも

親子間・親族間で不動産を売買するとなると、取引価格が相場通りとはならないケースも少なくありません。しかし、相場を大きく下回る金額で売買すると、売却した側が贈与したとみなされるおそれがあるため注意が必要です。これを「みなし贈与」と言います。たとえば、実勢(相場)価格が3,000万円の不動産を2,500万円で売買した場合、売主が買主に500万円を贈与したとみなされてしまう可能性があります。

ただ、みなし贈与と判断されるかどうかは、ケースバイケースです。実勢(相場)価格と売却金額の差額が同じ500万円だったとしても、みなし贈与とされる人もいれば、されない人もいます。売主が資産家だと、みなし贈与と判断されやすい傾向にあります。これは、資産が多い人ほど納税額が大きく、税金逃れを疑われやすいからです。

親子間・親族間売買のデメリットやリスク
  • 住宅ローンが下りにくい
  • 利用できない税金の控除などがある
  • 「みなし贈与」になるおそれがある

3. 親子間・親族間売買を検討するときの注意点は?

親子間・親族間売買のデメリットやリスクを最小限にするには、当事者だけでなく、第三者の専門家に入ってもらったうえで取引することがポイントです。

取引価格はどうやって決めればいい?

「時価の8割までなら、みなし贈与にはならない」といったことをインターネット上で書いているサイトなどもありますが、時価の8割で取り引きしても贈与税が課されるおそれがあります。みなし贈与にならないようにするには、査定額や鑑定価格で取り引きすることをおすすめします。不動産会社1社の査定額だと信憑性がないと判断されかねないため、2〜3社に査定を依頼しておくとより安心です。

念には念を入れて、2人の鑑定士に鑑定をお願いしたうえで、中央値を売却価格としていた資産家もいました。ただし不動産の鑑定には数十万円かかるので、一般の人であれば無料で不動産会社に依頼できる売却査定で十分だと思います。

個人間売買は要注意

親子間・親族間の不動産売買となると、不動産会社の仲介を挟まずに取引をすることも少なくありません。法律上、個人間で不動産を売買することも可能なので問題はないのですが、個人間売買は税務署の目が厳しくなりやすいことは頭に入れておくとよいでしょう。つまり、みなし贈与と判断されたり、取引上、なんらかの不備があったりする場合に指摘される可能性が高くなるということです。

安心・安全に取引するには不動産会社に仲介してもらうのが一番ですが、仲介を挟まない場合も、弁護士や行政書士に売買契約書を作ってもらい、立ち会い印を押してもらうなどして、第三者の専門家に取引に関わってもらうことをおすすめします。

親子間・親族間売買で問題になる可能性があるのは「税金」「ローン」「法律」「親子や親族の感情」の4つです。親子間・親族間売買は、単なる不動産の売買ではありません。専門家に依頼する前には、親子間・親族間の不動産売買をコンサルティングした実績やサポートした経験があるかどうかを確認するといいでしょう。

親子間・親族間でも妥当性のある取引をする

親子間・親族間だと、取引価格とともに、売買条件もあやふやになりやすい傾向にあります。売買条件というのは、たとえば次のようなことです。

  • 引渡し後に不具合が見られた場合、誰が修繕するのか
  • 売主が上記の責任を負う場合はいつまで負うのか
  • 確定測量はするのか

他人同士の不動産売買であれば、これらのことをしっかり取り決めるものですが、親子間・親族間だと、つい「わかってくれる」「何か起きたときに考えればいい」と考えがちです。しかし、たとえ親子間・親族間であっても金銭の発生する取引であることに違いはなく、不具合が起きたときや隣地と揉め事が生じたときなど、責任がどちらにあるかを決めておかなければ、将来的に両者の間に溝が生まれる要因になってしまうかもしれません。

私は、親子間・親族間だからこそ、両者で売買時点の状態を把握したうえで、取り決めをし、きっちり取引しましょうとお伝えしています。売買前の検査(インスペクション)もおすすめしています。親子間売買だと「何の問題もない」「何かあったら自分が修理する」と断言する親もいます。しかし、その言葉に保証はありません。保証を付ける意味では、できることなら不動産会社を通じて「かし(瑕疵)保険」にも加入したほうがいいと思います。相続や贈与では保険に加入できないので、保険に入れることも売買ならではのメリットと言えるかもしれません。

親子間・親族間売買を検討するときの注意点
  • 査定価格や鑑定価格を参考にして取引価格を決める
  • 取引には第三者を入れる
  • 親子間・親族間だからといって売買条件をあやふやにしない

4. 親子間・親族間の売買でよくあるトラブルと対策

これまで多くの親子間・親族間売買のケースを挙げてきました。住宅ローンや税金、取引価格など注意すべき点が多数ある中でも、「感情」を発端とするトラブルは家族の仲を切り裂きかねないものなので、十分に留意してほしいと思います。

「買ってあげた」「安く売ってあげた」という気持ちがトラブルを招く

親子間・親族間の売買だと「安く売ってあげた」「買ってあげた」といった気持ちが生じやすくなります。この気持ちが、後々トラブルを招いてしまうこともあります。

たとえば、親が子に安く家を売却した場合は、当然に売却後も子どもの家となった元自宅を使えると思っていたり、逆に子どもに親から買ってあげたという気持ちがあると、何らかの不具合が出た場合、修繕は親がするものだと子どもが思っていたりします。このような認識の差をなくすためにも、やはり売買条件については細かく決めておいたほうがいいでしょう。売買後の使い方については、覚書という形で同意を取っておく方法もあります。

相続時に兄弟・姉妹間で揉めることも

親子間・親族間売買が、売買した当事者ではなく、兄弟・姉妹間のトラブルの要因になってしまうおそれもあります。たとえば、兄が親から安く家を譲ってもらったことを引き合いに出し、相続時に弟が「自分のほうが多く相続するべきだ」と主張する可能性があります。

私が親子間売買をサポートするときには、必ず兄弟・姉妹にも事前にしっかり説明してもらうようにしています。場合によっては、融資する金融機関が相続人となる兄弟・姉妹の同意書を求めることもあります。親子の売買で契約を結ぶ際に、他の兄弟・姉妹に立会人として一筆もらう形でもいいと思います。

親子間で売買した土地が再建築不可だった

当社では親子間・親族間売買のトラブル相談も受けているのですが、次のようなエピソードがありました。

義理の父から妻の実家の隣の土地を購入したところ、実はその土地が再建築不可だったという事例です。再建築不可ということは接道条件を満たしていないということですから、実家の土地の一部を道路にしたり、実家の土地と一緒に売却したりすれば解消できるのですが、この事例の問題点は親族間売買をした後、再建築不可であることを背景に妻と義理の父が喧嘩別れをしてしまったことです。実家の同意を得られない状態になったことで、売るに売れない状態になってしまったのです。

この事例は個人間売買でしたので、売買時には再建築不可であることを誰も把握していなかったようです。個人間売買となると、建築基準法や都市計画法などの法令や条例を見落としがちです。このようなことを避けるためにも、やはり親子間・親族間売買でも、できれば不動産会社に仲介してもらったほうが安心でしょう。

親子間・親族間売買のトラブルを回避する対応策
  • 売買後の取り決めを覚書にしておく
  • 兄弟・姉妹など、他の相続人に同意を取る
  • 個人間売買とせず、不動産会社に仲介してもらう

5. 親子間・親族間だからこそ妥当性のある取引を

親子間・親族間売買で最も危惧されるのは、親子・親族という関係性だからこそ、取引が「なあなあ」になってしまうことだと私は思います。「親だから言わなくても理解してくれる」「子どもだから細かいところは決めなくていい」ということではなく、親子だからこそ、親族だからこそ、売買後の関係性を良好に保つために、妥当性のある取引を心がけましょう。

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畑中 学 (はたなか おさむ)
1974年生まれ。不動産コンサルタント。武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。幼少時に相続問題に巻き込まれ自宅を失ったことで、不動産に強い関心を持つ。大学院を修了後、設計事務所に就職、その後大手不動産会社に転職し7年勤務。不動産の販売・企画・仲介業務に携わり、当時最年少の32歳で支店長となる。リーマン・ショック後の2008年に創業し代表取締役に就任。年間300件前後の相談を受け、不動産の売買のサポートは累計800組以上。特に不動産に関わる相続や債務問題のトラブルシューティングを得意とし、解決率は96%。その真摯な取り組みがNHK総合テレビ「おはよう日本」をはじめ、読売新聞、日本経済新聞などで紹介されている。不動産業界・建設業界の人材育成にも尽力しており、各業界団体や日本経済新聞社でのセミナーにも登壇している。また、不動産ポータルサイトで総合アドバイザーを勤めている。宅地建物取引士のほか、公認不動産コンサルティングマスター、マンション管理士、管理業務主任者の資格も保有している。著書に、8万部超のベストセラーとなった『〈2時間で丸わかり〉不動産の基本を学ぶ』『家を売る人買う人の手続きが分かる本』『不動産の落とし穴にハマるな!』(かんき出版)、『図解即戦力 不動産業界しくみとビジネスがしっかりわかる教科書』(技術評論社)など多数。