売るコツ

一戸建てを高く売る方策とは? 資産価値アップのために売主や「持ち家」のある人が必ず知っておくべきこと

村田 洋一

一戸建ての資産価値は、立地や建物の築年数などのさまざまな要素に影響を受けますが「売り方」によっても売買金額に大きな差が出る可能性があります。特に中古戸建ては物件によってコンディションや個性が大きく異なることから、できる限り好条件で売るためには、土地・建物の状態を正しく伝え、そのよさをしっかりアピールすることが大切です。

この記事では、一戸建てを高く売るための方策について、らくだ不動産のマネージャー・シニアエージェントで宅地建物取引士の村田 洋一(むらた よういち)が解説します。

1. 一戸建ての資産価値はどう決まる?

一戸建ての価値は基本的に土地と建物の価値を足したものとなります。

土地の資産価値を決める5つの要素

土地の資産価値は、主に次の5つの要素によって決まります。

1.立地

土地の資産価値に最も大きく影響するのは「立地」です。基本的に、駅に近いほど価値が高くなります。これは一戸建てに限らず、すべての不動産に共通することです。

2.ハザードリスク

土地の「安全性」も資産価値に影響します。たとえば、駅からの距離が同じだったとしても、土砂災害警戒区域とそうではない区域では、基本的に後者のほうが資産価値は高くなります。

近年は大規模な地震や水害が頻発し、激甚化していることもあって、一部の金融機関ではハザードリスクを担保評価に組み込もうとする話も聞きます。この観点は、今後より重視されていくことになるでしょう。

3.形状

土地の「形状」も資産価値に影響する要素です。台形や三角などの形状より、整形地と言われる真四角に近い土地のほうが価値は高くなります。

また奥行きが長いよりも、接道している辺が長いほうが将来的に土地を分割したり、活用したりしやすいため、価値が高くなる傾向にあります。

4.接道

建築基準法では、原則として幅員4m以上の道路に2m以上接していなければ建物が建築できません。接道要件を満たしていない、いわゆる「再建築不可物件」は、売れないということはありませんが、どうしても価値は下がってしまいます。

道路に接する間口が2m以上あれば建築基準法の要件は満たしていることになりますが、建物の形や駐車スペースを考慮すると、間口は広ければ広いほどよいでしょう。やはり旗竿地のような形状より、接道している辺が長い整形地のほうが価値は高くなります。

図1:建築基準法における接道要件

建築基準法における道路に2m以上接していなければ原則、建築不可(出典:国土交通省

5.用途地域

都市計画法では、土地を13の用途に分けてそれぞれに建築できる建物の大きさや用途などを定めています。利用価値が大きい用途地域ほど、基本的には資産価値が高いと言えます。たとえば「第一種低層住居専用地域」は低層住宅の建築が中心となりますが「商業地域」であれば、住宅に加え、商業施設や小規模な工場なども建てられます。

ただし、戸建て用地として商業地や準工業地域が適しているとは限らず、閑静な住宅地を好む人も多いため「用途が広い」ことが必ずしも高値売却につながるわけではありません。

図2:用途地域

用途地域は、住居、商業、工業など市街地の大枠としての土地利用を定めるもので、13種類ある(出典:国土交通省

建物の資産価値を決める5つの要素

建物の資産価値を決める要素は、主に次の5つです。

1.コンディション

築年数が何年だとしても、建物のコンディションがよいものは高値で取引されやすいと言えます。ここで言うコンディションには、内装・外装に加え、構造上主要な部分も含まれます。

たとえば、同じ築20年の戸建てにおいて、一方は5年ごとに防蟻処理(シロアリ予防)をして、築15年のときに外壁塗装、築20年で屋根塗装をした物件、そしてもう一方は20年間一切メンテナンスをしていない物件があれば、前者のほうが価値が高くなります。

2.安全性

ハザードリスクが低い土地であれば安心というわけではなく、建物にも耐震面などの安全性が求められます。

木造の建物は、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認申請が出されたものは旧耐震基準、1981年(昭和56年)6月1日以降であれば新耐震基準で建てられています。なお、2000年(平成12年)6月1日以降であれば2000年基準で建てられています。

■耐震基準

旧耐震基準 〜1981年5月新耐震基準 1981年6月〜2000年5月2000年基準(現行基準) 2000年6月〜
大規模地震時(震度6程度)の危険性が高い大規模地震時も倒壊しない基礎形状、壁の配置バランス規定、柱の引き抜き対策などもなされている

しかし、建築時期だけでは耐震性は測れません。建築基準はあくまで最低限遵守しなければならない基準であり、2000年基準で建てられていたとしても耐震等級(等級1~3)で言えば最も低い「耐震等級1」です。コンディションによって耐震性が落ちている場合もあります。

■耐震等級

住宅の耐震性能を表す指標で、等級1から等級3の3段階で区分され、数字が大きいほど耐震性能が高くなります。

耐震等級1耐震等級2耐震等級3
建築基準法で定める最低限の耐震性能を満たす水準等級1で想定する地震力の1.25倍の地震力に対する強さ等級1で想定する地震力の1.5倍の地震力に対する強さ

3.機能性

建物や設備の性能によっても、価値が左右されます。省エネ性能は高いほうがよく、設備はしっかりメンテナンスされて、古いものは交換されているほうが評価は高くなります。

4.可変性

近年、暮らし方、働き方は多様化しており、今後さらにこの傾向は強まるはずです。住まいにおいても、自由度の高さは価値に直結します。特に中古戸建てはリフォームを前提として購入する人も多いことから、建物の可変性が高い物件は需要が高い傾向にあります。

整形地と一緒で、四角形の戸建ては間取りが変えやすいものです。壁を作って1部屋を2部屋にできる間取り、逆に壁を取り払って大きなリビングにできる間取りなども可変性が高いと言えます。

5.意匠性

査定時にデザインなどの意匠性を重視する不動産会社やエージェントは少ないのが現状です。ただ個人的には、今後、付加価値になっていく要素の一つだと思っています。

コンセプトのある特徴的な家を好む人は少ないかもしれませんが、特定の層に刺さる傾向にあります。たとえば、1階から3階まで吹き抜けのリビングがある家は、人によっては光熱費が心配になるかもしれませんが、開放感を追い求めている人には好まれます。一戸建てを購入するのは、たった一人の買主です。意匠性のある物件はアピールしやすく、売りやすいと考えられます。

一戸建ての資産価値の決まり方
  • ●土地の資産価値に影響する要素 1.立地
  • 2.ハザードリスク
  • 3.形状
  • 4.接道
  • 5.用途地域
  • ●建物の資産価値に影響する要素 1.コンディション
  • 2.安全性
  • 3.機能・性能
  • 4.可変性
  • 5.意匠性

2. 一戸建ての価値を知る方法

一戸建ての資産価値を構成する要素を認識することは大切ですが、それだけではいくらで売れるかはわかりません。一戸建てが売れる金額については市況にも大きく左右されるため、次のような方法で売却相場や市況感を確認しましょう。

不動産ポータルサイト

不動産ポータルサイトで所有する一戸建てと似た条件の物件がいくらで販売されているかを見るのは、資産価値を知る方法の一つです。ただし、ポータルサイトに掲載されているのは、あくまで「売り出し価格」であり「成約価格」ではない点に注意が必要です。物件やエリア、その時の不動産市況にもよりますが、一般的に成約価格は売り出し価格から5〜7%程度下がると言われています。

また、中古物件だけでなく、新築物件もチェックするのがポイントです。中古住宅の流通比率が高まっているとはいえ、まだまだ日本人は新築を好む傾向にあるため、新築と中古にあまり価格差がないと購入希望者が新築に流れる傾向があります。新築の価格も相場を見る基準の一つと言えるでしょう。

不動産情報ライブラリ

類似物件の売り出し価格ではなく成約価格を確認するには、国土交通省の「不動産情報ライブラリ(https://www.reinfolib.mlit.go.jp/)」がいいでしょう。成約価格に加え、ハザードリスクや都市計画などもチェックできます。

図3:不動産情報ライブラリ

不動産情報ライブラリでは、不動産の取引価格や地価公示、防災情報、都市計画情報、周辺施設情報などが閲覧できる(出典:国土交通省「不動産情報ライブラリ」)

レインズタワー(レインズマーケットインフォメーション)

市況の確認には、国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営している「レインズタワー(http://www.reins.or.jp/)」のマーケット情報がおすすめです。ポータルサイトのようにエリアや築年帯などを細かく指定して価格を見ることはできませんが、価格や成約数の推移などが見られるため市況の理解に役立ちます。

図4:東日本不動産流通機構のサマリーレポート例(2025年1月度)

国土交通大臣指定の不動産流通機構は、東日本不動産流通機構、中部圏不動産流通機構、近畿圏不動産流通機構、西日本不動産流通機構の4つ。それぞれの機構がマーケット情報を公開している(出典:東日本不動産流通機構

不動産会社・エージェントによる査定

ここまで紹介した方法で、ざっくりとした価値や市況を把握することができますが、最終的にはやはり不動産会社やエージェントによる査定を受けることが不可欠です。

不動産会社の査定は、机上査定・訪問査定に大別されます。最近ではAI査定なども見られますが、一戸建ての価値は建物のコンディションや可変性、デザイン性なども影響するため、人が実際に家を見て行う訪問査定でなければ正確な価値は算出できません。

一戸建ての価値を知る方法
  • 不動産ポータルサイトで類似する物件の売り出し価格を確認する
  • 不動産情報ライブラリで周辺エリアの物件の成約価格などを確認する
  • レインズタワーで市況を確認する
  • 不動産会社やエージェントの査定を受ける

3. 一戸建てを高く売るためにできる6つのこと

ここまで一戸建ての資産価値を構成する要素や売却相場の調べ方を紹介してきましたが、一戸建ての取引価格を決めるのは市況や不動産会社ではなくあくまでも買主です。一戸建てを高く売るには、次のような方法で、買主に「それだけの価値がある」と感じてもらう必要があります。

1.適切に維持・管理する

建物の資産価値にコンディションが影響することから、適切に維持・管理することが大切です。これは売る直前に慌てて対処するものではなく、購入した時点から継続的にやっておくべきこと。高く売るためには売る直前の修繕やリフォームなどが有効な場合もありますが、かけた分だけ高く売れるかは定かではないため、不動産会社やエージェントと相談しながら実施するべきでしょう。

2.修繕履歴を作る

適切に維持・管理してきた物件をアピールするためには「修繕履歴」を残しておくのが効果的です。修繕履歴とは、たとえば「3年前に外壁塗装をした」「2年前に防水塗装をした」という過去の修繕の記録を指します。一戸建ての売却でリフォーム履歴をアピールすることは多いのですが、しっかり維持・管理してきた物件は小規模な修繕の履歴もアピールポイントになります。

3.検査(インスペクション)を実施する

適切に維持・管理してきたことはアピールポイントにはなるものの、あくまで売主の主観によるものです。客観性を持たせるために有効なものが、検査(インスペクション)です。

検査(インスペクション)とは、建築士が基礎や外壁のひび割れ、雨漏りによるシミなどや劣化、不具合の有無などを目視や計測によって調査・診断を行うことを指します。

中でも国が定める「建物状況調査」は、「既存住宅状況調査方法基準」に基づいて実施され、対象の住宅を売買する際に重要事項説明の対象になります。

不動産の買主が中古住宅を購入するうえで最も懸念しているのは、コンディションです。建物のコンディションを専門的かつ客観的に「見える化」することで、物件の大きな付加価値となります。

4.瑕疵(かし)保険に加入する

検査(インスペクション)は壁や天井を壊して行う調査ではないため、わかることには限界があります。瑕疵(かし)保険は、引渡し後の欠陥や不具合といった瑕疵(かし)の発覚に備え、消費者の保護を目的としてつくられた保険制度です。基本構造部分(柱や基礎など構造耐力上主要な部分と、外壁や屋根など雨水の浸入を防止する部分)が保険の主な対象で、すべての不具合などを補償するものではありませんが、付帯することでさらなる付加価値となります。

検査(インスペクション)で劣化事象などが見られた場合は、補修などの対応をして検査基準に適合させなければ瑕疵(かし)保険には加入できません。原則、保険の加入には引渡しまでの補修対応が必要ですが、引渡し後に買主が実施するリフォームとあわせて補修する場合でも、瑕疵(かし)保険による補償が受けられる場合もあります。

5.図面・測量図・覚書などの書面をしっかり準備しておく

買主に対して「安心」をアピールするという面では、建物の図面や土地の測量図を提供することも大切です。隣地と境界などに関する覚書がある場合は、それも販売中に明示したほうがいいでしょう。

買主にとって、隣地とのトラブルは最も避けたいことの一つ。特に境界が確定していて、隣地の所有者がそれに同意しているかどうかは非常に重要です。

6.家のコンセプトやストーリーを伝える

不動産、特に一戸建ての取引は人と人とのつながりのうえに成り立ちます。どんなコンセプトで家を建てたのか、どういった暮らしをしてきたのかということを伝えることで、想いが伝わります。

たとえば、子どもが産まれて、小さいうちにはこんな風に暮らして、子どもが大きくなった今はこんな暮らしをしている……といったストーリーを伝えること。同じように子どもが小さい世帯や妊娠・出産を考えている世帯は、暮らしをイメージすることができ、この家で家族の成長を見守っていきたいと共感を覚えてもらえるかもしれません。

売主からしても、同じような境遇の世帯に大切に住んできた家を譲るのは嬉しいことであるはずです。駅から遠い一戸建てを検討している人は特に「暮らしを大事にしたい」と考えている人が多い傾向にあります。

一戸建てを高く売るためにできる6つのこと
  1. 適切に維持・管理していく
  2. 修繕履歴を作る
  3. 検査(インスペクション)を実施する
  4. 瑕疵(かし)保険に加入する
  5. 図面・測量図・覚書などをしっかり準備しておく
  6. 家のコンセプトやストーリーを伝える

4. 一戸建てを売るときの注意点

一戸建ての魅力をアピールできるかどうかは、不動産会社やエージェント次第です。一戸建てを高く売るためには、不動産会社選びが最も重要といっても過言ではありません。

築年数が古いほど評価が分かれる

建物の資産価値を構成する要素の一つに「コンディション」を挙げましたが、コンディションは築年数が経つほど差が出てきます。一方、いくらコンディションがよくても、それを評価せず、築年数だけで価値を判断する不動産会社もあります。もちろん最終的に判断するのは買主ですが、不動産会社やエージェントによって査定価格に差が出るため注意が必要です。

たとえば、一昔前まで「一戸建ては築10年で価値が半減、築20年で価値がゼロになる」と言われており、いまだにこのような評価をする不動産会社やエージェントも少なくありません。ところが近年取引される中古戸建ての平均築年数は20年超。そして、市場に出回っている築20年の一戸建ては2000年代築で、現行の耐震基準で建築されています。このような建物が「価値がゼロ」とは考えにくいでしょう。

「個性」を「強み」にできるかは不動産会社・エージェント次第

一般的には、多くの人が暮らしやすい汎用的な間取り、広さ、設備、デザインの一戸建てが売りやすいとされていますが、尖った個性は「強み」でもあります。

たとえば、人によっては過剰とも捉えられるハイスペックな設備を導入している物件や、100㎡もあるのに1LDKの物件などを気に入る人は少ないかもしれませんが、こうした条件を好む人にとっては他の物件には代えられないお宝物件になります。自分の暮らしに合っている物件、自分の性格や好みに合っている物件を探し続けている人も少なくありません。

個性を強みとするには、買主以前に売主自身が物件の個性を強みと認識する必要があります。しかし、物件の個性は、築年数以上に評価が分かれるものです。不動産会社やエージェントが見落としてしまえば、売主が客観的にその個性を把握できる機会を逃し、販売時も買主に効果的なアピールができなくなります。この点でも不動産会社やエージェント選びは重要と言えるでしょう。

不動産会社選びでは査定額だけではなく「査定の根拠」や「戦略」を重視する

一戸建てを高く売るには、物件のいいところをしっかり見て、アピールしてくれる不動産会社やエージェントとともに売却活動を行う必要があります。不動産会社を見極めるには、査定額だけでなく、査定の根拠や売却戦略を聞くことが大切です。

私だったら、少し条件面が悪い一戸建てや個性的な一戸建てを売る際は、より多くの買主に、より多くの情報を伝え、できれば検査(インスペクション)の実施や瑕疵(かし)保険に加入したうえで、販売図面や物件情報ページなどに「売主の声」を入れてアピールします。

物件をアピールするには、まず不動産会社の担当者やエージェントがその家を好きになることが大切です。物件に興味があれば、売主がこの家でどういう暮らしをしてきて、どういった想いで売却するのかなどを聞くはずです。査定を依頼すると、つい査定額ばかりに目が向きますが、ぜひエージェントの気持ちや熱意を見極めてみてください。

一戸建てを売るときの注意点
  • 築年数が高い戸建てほど評価が分かれる
  • 「個性」を「強み」にできるかは不動産会社やエージェント次第
  • 不動産会社やエージェントを選ぶときは査定額だけでなく、査定の根拠や戦略を比較しよう

5. 信頼できる不動産会社・エージェントと一緒に資産価値アップを目指そう

一戸建ての資産価値を構成する要素は、立地や建物のコンディションなどさまざまですが、こうした要素を含めた「魅力」をいかにアピールできるかどうかが取引価格を左右します。一戸建てを高く売るには、特徴を個性や魅力としてしっかり認識し、効果的にアピールしてくれる不動産会社やエージェントの存在が不可欠です。

そして売却前に慌てるのではなく、一戸建てを所有したその時から定期的なメンテナンスを行い、履歴を残しておくなど、住みながらできることを積み重ねて、よりよい売却を実現しましょう。

村田 洋一 (むらた よういち)
行政書士として不動産トラブルの相談を多数受けていた中で、日本の不動産仲介業界の不透明さを強く実感。消費者にとって一番良い不動産取引を目指すべく、欧米型エージェント制度を導入した不動産会社、AI×リアル(不動産)を促進する大手不動産会社の各創業に参画。以後、全国にエージェント制を広めるために、らくだ不動産に入社。不動産売却のプロとして、今まで3,500件を超える相談に対応。モットーは「正しく、フェアに、透明性を持った仕事を」。