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これからの中古住宅市場はどうなる?【後編】売却を考えているなら今が「売り時」ってホント?

亀梨奈美

前編で解説した通り、中古住宅の価格は高騰しています。一方、在庫物件数は増え、成約件数は減少傾向にあり、成約物件の中で好条件の物件が占める割合が増えています。以上のことから、現在は「売れる物件」と「売れない物件」の2極化が進行していると言えるでしょう。

2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除し、7月末には利上げを発表しました。円相場や不動産価格が連動すると言われている日経平均株価の変動も大きいことから、不動産の売り時・買い時に悩んでいる人も多いのではないでしょうか。記事後編では、不動産ジャーナリストの亀梨奈美(かめなし なみ)がこれからの不動産市場を考察します。

1. 今後の中古住宅市場はどうなる? 

2024年上半期は、日本の金融政策の転換や歴史的な円安など、中古住宅市場を揺るがしかねない事象が少なからず見られました。かねてから見られている人口の減少や少子高齢化も、長期的には中古住宅の価格に大きく影響します。

マイナス金利政策解除の影響は?

日本銀行は2024年3月、2016年から継続していたマイナス金利政策を解除し、2024年7月には0.25%への追加利上げが発表されました。現在は固定型(全期間固定型・固定期間選択型)の金利に若干の上昇が見られるものの、近年7割以上の人が選択している変動型の住宅ローンにおいては大きな変化はありません。むしろ、マイナス金利政策解除後に金利を下げた金融機関も見られるほどです。

図表1:住宅ローンを組んだ人が利用した金利タイプ

近年は7割以上の人が変動金利を選択(画像出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者調査(2024年4月調査)」)

変動型の住宅ローンは金融機関にとってリスクが低く、主力の商品であるため、最近では金融機関同士の競争が激化し、金利が下がり続けています。変動型の金利に影響する短期プライムレートも2009年から変動していないため、米国のような急激かつ大幅な金利上昇は見られないものと推察されますが、長期的には金利上昇も避けられないでしょう。金利が上がればその分、買主の物件購入に充てられる資金が減るため、不動産価格が下落する直接的な要因となり得ます。

ただし、金利上昇の影響の出方は一律ではないはずです。法人やローンを組まずに購入できる富裕層の需要が高い都市部の高価格帯のマンションへの影響は限定的であることを考えると、金利上昇によってまず価格が下がり始めるのは需要が低いエリアでしょう。具体的には、空き家が増えているエリア、人口が減り続けているエリア、駅まで歩いていけない距離にあるエリアなどから徐々に価格が下がっていくものと考えられます。

円安は日本の不動産の価値を上げるのか

2024年6月には、1ドル=160円の大台を突破しました。ここまで円安が進んだのは、実に38年ぶりのことです。7月の利上げ発表後は円高が進みましたが、8月頭の時点で円相場は1ドル=140円台後半。コロナ禍前は1ドル=110円前後で推移していたことを考えれば、現在は当時と比べて2割ほど安く日本の不動産が取得できることと同義です。円安の状況下では、特にドル経済圏の人にとっては、日本の不動産の魅力が増します。

東京の湾岸エリアや大阪、福岡など大都市部の一部における不動産の価格上昇は、海外投資家の需要が旺盛になっていることも少なからず影響しています。一方で、海外投資家が、郊外の不動産や投資効率の悪い一戸建てを取得するとは考えにくいことから、円安によって海外マネーが流入し、相場価格が上昇している、あるいは今後、上昇する可能性があるのは、資産性、流動性が高い都市部のマンションに限られるでしょう。

「2025年問題」で不動産価格が暴落するってホント?

「2025年問題」とは、団塊の世代が後期高齢者になることで相続の増加や人口減少につながり、不動産価格が暴落するのではないかと言われている問題です。たしかに人口減少や不動産の供給量の増加は長期的に不動産価格の下落につながりかねない事象ですが、2025年に速やかに不動産の価格が暴落するわけではありません。

すでに日本の人口減少や少子高齢化は始まっており、不動産や地価が下落し続けているエリアは存在しています。「2025年」というピンポイントで価格が暴落するのではなく、人が減っていくエリアから不動産の価格が下がっていき、そのエリアは徐々に拡大していくものと考えられます。

今後の中古住宅市場はどうなる?
  • 金利上昇は不動産価格下落の一因になる
  • 円安によって価値が上がるのは都市部の不動産
  • 2025年に一気に不動産価格が暴落するわけではない

2. 不動産の売り時を考えるときに考慮すべきポイント

不動産価格が高騰しているという事実から、現在は不動産の売り時であると言えるでしょう。しかし「首都圏」や「近畿圏」など、マクロなデータだけを見て売り時を判断するのは危険です。売り時を考えるときには、次のような点も考慮するようにしましょう。

日本の不動産市場は縮小傾向にある

一戸建て、マンションともに価格は高騰していますが、日本では人口の減少が始まっており、世帯数も2030年をピークに減少していくとされています。必要な家の数が減れば、不動産市場が縮小していくことは避けられません。バブル時には2,000兆円を超えていた日本の土地時価総額も、今は1,000兆円程度。2024年4月に公表された2023年の空き家数・空き家率は、いずれも過去最高を更新しました。不動産市場は、すでに縮小しています。

図表2:空き家数及び空き家率の推移-全国(1978年~2023年)

2023年の空き家戸数は900万戸、空き家率13.8%と過去最高に(画像出典:総務省「2023年(令和5年)住宅・土地統計調査 住宅数概数集計」)

7月に公表された2024年路線価は、全国平均が3年連続の上昇となり、現在の算出方法となって以降、最大の上昇率となりました。しかし、標準宅地の評価基準額が上昇した都道府県と下落した都道府県は、ほぼ同数。鹿児島県や群馬県など、30年以上連続で平均地価が下がり続けている都道府県もあります。近年は「マンション価格がバブル期を超えた」「バブル期以来の地価の伸び率」など景気のよさそうなニュースが多く報道されていますが、不動産価格や地価の上昇が見られるのは一部のエリアであり、このようなエリアが平均値を引き上げているにすぎません。

不動産市場は、確実に2極化が進行しています。広域の平均価格や地価だけを見るのではなく、ミクロな視点も持ったうえで不動産の売り時を見極めなければなりません。

好立地の不動産の価値は今後も上昇する可能性が高い

不動産市場全体は縮小傾向にあるものの、好立地の不動産の価格は上昇する余地があります。(一財)日本不動産研究所によれば、2023年10月から2024年4月までの半年間のマンション価格上昇率は、世界15の主要都市の中で東京・大阪がトップでした。一方で、日本の高価格帯の不動産は他の主要都市に比べてまだまだ安価なため、円安や低金利を追い風に、いっそう上昇する可能性があります。

世界的に通貨の価値は下がり、実物資産の価値が上がっている

近年は、不動産だけでなく、金や銀、株、高級時計や高級車など、ありとあらゆるものの値段が上がっています。これは、世界的にお金の量が増えているためです。言い換えれば、通貨の価値が下がっているからこそ、さまざまな資産の価値が上がっているのです。

不動産を売れば当然ながら対価が得られますが、マネーの価値が薄まり、今後もインフレが進んでいくとすれば、不動産を売って得た現金を所有し続けるより、なんらかの資産に換えたほうが資産価値は維持しやすいと言えます。したがって、市況だけでなく、売った後にどうするのかを考えて売り時を検討する必要があるでしょう。価値の下落が見込まれるエリアの不動産を売って好立地の不動産に買い換えることも、今の時代の資産防衛策の一つだと思います。

不動産市場の2極化はますます拡大する

現在は、資産全面高の時代を迎えているものの、日本の不動産市場が縮小していくことに変わりはありません。円安やインフレ、金利上昇は、需要の低い不動産の需要をさらに下げるものであり、需要の高い不動産の需要をさらに高めていくものです。今後、格差がますます拡大するのは必至であることから、住み替え先を選ぶ際には「資産価値が維持できるか」という視点を持つことが大切です。

中古住宅の売り時を考えるときに考慮すべきポイント
  • 人口減少により日本の不動産市場は縮小していくことが免れない
  • 一方で、インフレや円安によって好立地の不動産価格はもう一段上昇する余地がある
  • 通貨の価値が薄まっていることから不動産を売って得たお金を何に投資するか考えることも大切
  • すでに見られている不動産市場での2極化は、今後さらに拡大する見通し

3. 「売りたいとき」にできる限り好条件で売ることが大切! そのために必要なこととは?

日本はいまだ低金利を維持しており、全国的に不動産価格は横ばいから高騰傾向にあります。一方で、地価や不動産価格が下落し続けているエリアもあり、今後はより格差が広がっていくと考えられることから、立地や状態がよくない不動産は特に今が売り時と言えるでしょう。

とはいえ、不動産を売却するベストなタイミングは、家族の事情や都合次第でもあります。大切なのは、売りたいときにできる限り高く不動産を売ることです。そのためには、高く売れる「売り方」を知っておく必要があります。

ホームステージング

ホームステージングとは、不動産を売却する際に内装を整えてモデルルームのように演出することで、不動産をより魅力的に見せる手法です。中古住宅流通がさかんな米国では、一般的な不動産の売り方として定着しています。

モデルルームとまでいかずとも、不要なものを倉庫に預けたり、別の部屋に移動させたりするだけで、広く、開放的に見えるものです。近年では「バーチャルホームステージング」も少なからず見られるようになりました。実際に部屋を飾り付けるのではなく、バーチャル上で家具を消したり追加したりすることで物件写真をより洗練なものとすることで、反響数や内覧数の増加に期待できます。

図表3:ホームステージングの例

家具・家電はそのままに、荷物だけ他の部屋に移してホームステージングを実施した例(画像提供:価値住宅)

検査(インスペクション)

「検査(インスペクション)」も、米国など他の先進国では多くの不動産取引で行われています。中古住宅は、建物の劣化やメンテナンスの状況が物件によって大きく異なります。築年数や見た目だけでは判断できず、状況次第で購入後の修繕費用も大きく変わってくることから、中古住宅を売買するときの検査は不可欠と言えるでしょう。

検査をすることで「悪い部分が発覚してしまう」と考える売主は少なくありませんが、売買時点の状態を把握することで買主の安心につながるとともに、売買後のトラブルのリスクを下げる効果にも期待できます。

かし(瑕疵)保険

検査(インスペクション)は現状を知るためのものであり、売買後に不具合が起きないことを保証するものではありません。また、壁や床を剥がして行われることはないため、検査によってわかることにも限界があります。より大きな安心を得るには「かし(瑕疵)保険」が有効です。

中古住宅を対象としたかし(瑕疵)保険は、建物の基本構造部分などの瑕疵(かし・不具合や不良)が最長5年、最大1,000万円まで補償されます。かし(瑕疵)保険の加入には検査を実施する必要があるため、買主にとってはダブルの安心となります。

リフォームプランの提案

(一社)不動産流通経営協会によれば、リフォームをしていない中古住宅を購入した人の約6割が、なんらかのリフォームを実施しています。リフォームにかけた費用の平均は、約250万円。クロスの張り替えやハウスクリーニングだけではここまでの費用はかからないため、設備の交換や和室から洋室への変更など、ある程度、大きな改修をしているものと考えられます。

図表4:住宅購入者のリフォーム・リノベーションの状況

リフォームをしていない中古住宅を購入した人の約6割がリフォーム・リノベーションを実施(画像出典:(一社)不動産流通経営協会

中古住宅を購入するほぼ全ての人が購入前に内覧をしますが、内覧の目的は現状把握と住んだ後をイメージすることにあります。リフォームやリノベーションを予定している購入検討者には、リフォームプランを提案し「改修後」の具体像をイメージさせてあげることが大切です。リフォームをしたらどのような見た目になるのか、物件の購入費用とリフォーム費用の総額はどれくらいになるのかを合わせて提案することで、成約にぐっと近づきます。

不動産の条件・状態に応じて提案する不動産会社を選ぶ

ここまで紹介したホームステージングや検査(インスペクション)、かし(瑕疵)保険の付保、リフォームプランの提案は、不動産仲介の現場で当たり前のように実施されているものではありません。これらの制度や仕組み、効果を認識していない不動産会社も少なからずあります。また、認識しつつも、効率化や自社の利益を優先させる不動産会社も残念ながら存在します。

こうした施策を必要とする場合は、まずこれらの施策が可能で、なおかつ積極的に提案してもらえる不動産会社を見つける必要があるでしょう。査定依頼をする際には、査定額ばかりに注目するのではなく、不動産の状態や売却時点のマーケット、売主の意向などから最も好条件で売れる方法を考えて、提案してくれる不動産会社かどうかを見極めることが大切です。

中古住宅を好条件で売るために必要なこと
  • ホームステージング
  • 検査(インスペクション)
  • かし(瑕疵)保険
  • リフォームプランの提案

4. 売り時に悩んでいるときは信頼できる不動産会社に相談しよう

市況的には多くの不動産が売り時と言えるでしょうが、マクロな市況だけでなく、売却を検討している不動産が所在する街や最寄り駅の人口動態、再開発計画など、ミクロなデータも参考にしながら売却時期を検討することが大切です。

また、適切な売り方も、不動産のエリアや物件種別、築年数、競合物件の状況などによって異なります。いくら市況がよくても、売り方次第で1〜2割の価格差が出る可能性は十分にあります。そういった意味では「いつ売るか」以上に「誰と売るか」のほうが重要と言えるかもしれません。不動産の売却は人生の大きな決断の一つです。信頼できる不動産会社を選び、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることで、満足のいく取引の実現を目指しましょう。

亀梨奈美 (かめなし なみ)
大手不動産会社退社後、不動産ジャーナリストとして独立。2020年には「わかりにくい不動産を初心者にもわかりやすく」をモットーに、不動産を“伝える”ことに特化した(株)realwaveを設立。住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。