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不動産売却へのDX活用の実態は? 「AI査定」「Web広告」「バーチャルステージング」の効果を仲介会社に聞いた

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高橋 正典

昨今では、あらゆるものにITやAIが活用されており、私たちの生活も大きく変わろうとしています。中古住宅の売買でも、査定や広告、契約を効果的かつ効率的に進めるため、各所にデジタル技術が導入され始めています。これにより、従来までは見られなかった販売戦略も取れるようになりました。

そこで本記事では、価値住宅の高橋正典(たかはし まさのり)が、不動産売却に活用できるIT技術やサービスとその効果について解説します。

1. 不動産DXとは? 中古住宅の売買でもデジタルの活用は広がっているの?

DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略です。2018年に経済産業省が発表した通称「DXレポート」をきっかけに、DXという言葉が浸透し始めました。同レポートでは、2025年までに複雑化・ブラックボックス化した既存システムを廃棄、仕分け、刷新することで、あらゆる分野でDXを実現することを目指すとしています。

不動産DXとは、不動産業界の業務にデジタル技術を活用し、アナログからデジタルに移行する動きを指します。不動産業界はとりわけデジタル化が遅れていましたが、近年では急速にDX化が進んでおり、不動産売買取引でもデジタルの活用が広まりつつあります。

不動産広告の主体は「紙」から「Web」に移行

ひと昔前まで、買主は不動産会社に行って紹介してもらわなければ物件を見つけることができませんでした。しかし、今は買主自らがスマートフォンで物件を探すことができる時代です。

きっかけとなったのは、2004年にリクルートの住宅情報を掲載するサイト「ISIZE(イサイズ)」が「住宅情報ナビ」に代わり、積極的にWeb展開されるようになったことではないでしょうか。このように不動産広告の主体が、紙からWebに移行したことも、広義な意味で不動産DXの一つと言えるでしょう。

暮らし方・働き方の変化やコロナ禍が不動産DX推進のきっかけに

不動産の探し方の変化は、スマートフォンの普及によるところが大きいでしょう。また、コロナ禍でオンラインでのやり取りが増えたことも、不動産DX推進に大きく寄与していると思います。

少子高齢化や働き方改革などにより、不動産会社の人手不足も進んでいます。不動産選びや取引だけでなく、昨今では、IT化、AI化などによって、不動産会社の業務効率化も進んでいます。

賃貸や新築と比べると中古住宅の売買ではDX化が浸透していない

20代がメインの賃貸住宅と比べると、中古住宅は30代から高齢者まで幅広い層が売買します。後述するIT重説や電子契約もまず賃貸取引から導入されましたが、やはり取引する人の年齢層が高く、デジタルツールに慣れていない人も多いことで、まだ売買では賃貸ほどDXが浸透していないと思われます。賃貸と売買では、価格帯も大きく異なります。何千万円もする買い物だからこそ、バーチャルやAIだけでは決断しきれないのでしょう。

新築の分譲マンションは数十戸、数百戸をまとめて販売することから、高額な費用をかけてデジタルツールを導入しても、それに見合う収益があげられることから、VRモデルルームなども増えています。一方、中古住宅は1点ものです。コストや手間を考えると、なかなか新築住宅を販売するような環境を整えるのは難しいのではないでしょうか。

不動産売買でもデジタルの活用は広まっている
  • 不動産広告の主体は「紙」から「Web」へ
  • 2022年には電子契約が解禁
  • DX化推進の背景には暮らし方・働き方の変化やコロナ禍も
  • 中古住宅の売買は賃貸や新築と比べるとDX化が浸透していない

2. 中古住宅を売るときに活用できるデジタルツール

不動産の売却で活用できるデジタルツールは、多岐にわたります。ここでは、売却の流れに沿って、一般的に利用されているデジタルツールを紹介します。

一括査定

不動産の一括査定とは、Web上で一度に複数の不動産会社に査定依頼できるサービスです。自宅にいながらでも、また移動中や昼休みなど、どのような環境でも、わずかな時間で、不動産売却の第一歩となる査定依頼ができます。

ただし、一括査定は便利なツールではあるものの、諸手を挙げておすすめできるわけではありません。と言うのも、一度に複数社に査定依頼するという特性上、不動産会社は比較されることがわかっているため、どうしても「選んでもらいたい」という心理が働きます。どうにかして売却検討者に振り向いてもらおうと、各社ともに高額な査定額を出しがちなことから、適正な査定額が把握しづらくなってしまうのです。

そもそも、不動産の売却査定額は、車の買取査定額や引越し業者の見積もり額とは異なり、その金額で売れることが保証されているものではありません。中には、高額の査定を出して媒介契約を結んでもらい、囲い込みなどをして売れない実績を積み重ね、徐々に値段を下げさせるという悪質な手法を取る不動産会社もあるため注意が必要です。

AI査定

不動産会社ではなく、AIに査定してもらうという方法もあります。サービスを提供している不動産会社によって違いはありますが、AI査定とはビッグデータを基にした統計的な指標から査定額を算出するシステムです。多くの場合、個人情報の入力は不要で、面積や築年数などの不動産情報を入力するだけで利用できます。

一括査定を利用する場合と異なり、不動産会社の恣意的な査定額ではないため、中立的な指標だと言えるでしょう。ただし、あくまで平均的な相場価格を割り出しているにすぎませんので「査定」というには精度が低いと言わざるを得ません。不動産は、土地の形状や接道状況、建物の劣化状況などの個別要素によって大きく価値が変わってくるため、あくまで参考程度にとどめる前提でAI査定を活用すべきでしょう。

国土交通省「不動産情報ライブラリ」

2024年4月、国土交通省は「不動産情報ライブラリ」というWeb上で次のような情報が見られるシステムの提供を開始しました。

  • 不動産の取引価格
  • 地価公示などの価格
  • 防災
  • 都市計画
  • 周辺施設

不動産情報ライブラリは、新たなシステムではなく、これまでも公開されていた不動産に関する公的な情報を集約したものです。それぞれの情報は、不動産の需要や売却価格に影響するものではありますが「いくらで売れるか」がわかるものではありません。

不動産情報ライブラリは、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェースの略。ソフトウェアやプログラム同士を連携させることで、機能を拡張させることができるインターフェイスのこと)で情報を無料公開しています。これに伴い、今後、不動産会社各社が査定の根拠や売却戦略などを説明するときに活用することもあるかもしれません。また、不動産情報ライブラリの情報を活用して、各社独自のツールとして発展させた形で情報が提供される可能性もあります。

国土交通省「不動産情報ライブラリ」
https://www.reinfolib.mlit.go.jp

バーチャルステージング

不動産会社が決まると、いよいよ販売活動が始まります。販売活動では、いかに物件に興味を持ってもらえるかが重要です。

売却中の物件をインテリアコーディネートし、モデルルームのように演出する「ホームステージング」は、中古住宅市場が大きい米国では一般的に取られる売却方法で、日本でも徐々に広まりつつあります。ただ、家具や小物をセンスよく配置しなければならず、手間がかかるとともに、居住中の物件ではなかなか導入しにくいといった課題があります。

この課題を解消するのが「バーチャルステージング」です。その名の通り、バーチャル(仮想的)にステージングするため、実際に家具や小物を置く必要はなく、販売図面や不動産ポータルサイトに掲載する写真をより魅力的に加工する手法です。CGで家具や家電を置くことはもちろん、実際にある家具や荷物を消すこともできます。

図1:バーチャルステージング

バーチャルステージングでは、実際にある家具や家電を消すことも可能(画像提供:価値住宅)

ただし、バーチャルステージングによって綺麗な写真ができても、実際に内覧に来た人には、ありのままの状態を見せなければなりません。リアルのホームステージングは、内覧に来た人の印象をよくするためのものですが、バーチャルステージングはそれよりも前の段階で「集客力を上げるためのもの」と位置付けられます。不動産を売るためには内覧に来てくれる人を増やさなければならないというのが大原則であるため、この点においては理にかなった手法と言えるでしょう。

しかし、バーチャルステージングで綺麗になった写真を掲載することで内覧者は増えたとしても、実際に物件を見たときに現物との差に落胆させてしまう可能性があります。内覧者を増やすことも大事ではありますが、バーチャルではなくリアルのホームステージングをしたほうが、申し込みや成約には近づきます。居住中の物件でも「一部屋だけ」「不要なものを片付けるだけ」であれば、家全体をホームステージングするよりは簡易にできますので、個人的にはリアルのホームステージングのほうがおすすめです。

家具・家電はそのままに、荷物だけ他の部屋に移してリアルのホームステージングを実施した事例。ステージングを実施する前に比べ、反響は7倍にUPした(画像提供:価値住宅)

デジタルで提案するリフォームプラン

私が代表を務める一般社団法人安心ストック住宅推進協会で販売した「安心R住宅」適合物件は、その他の物件と比べて約2.5倍早く売却が実現しています(2023年度)。安心R住宅とは、検査(インスペクション)によって基礎的な品質が確認されていて、なおかつリフォーム済みあるいはリフォームの提案が付いている中古住宅を指します。加えて、中古住宅の引渡し後に、保険の対象となる部分に不具合が見つかった場合、補修費用などに対して保険金が支払われる「かし(瑕疵)保険」に加入することもできます。

早く成約にいたる理由は、検査済みであるということ、かし(瑕疵)保険に加入できるということが大きいと思います。さらに、中古住宅の多くは購入後にリフォーム・リノベーションされるため、リフォームプランを提案することで買主の購入意欲を高めることができていると考えています。

リフォームプランの提案も、今はデジタルが主流です。弊社では、専門チームがVRでリフォームプランを製作しており、内覧者にVRゴーグルをかけてもらってイメージを見ていただくこともあります。バーチャルステージングは、反響数、内覧数を上げるものですが、デジタルによるリフォームプランの提案は成約率を高めるものと位置付けられます。

図3:デジタルリフォームプラン

デジタルリフォームプランで、リフォーム後のイメージを見てもらうことにより、物件の持つ本来のよさを引き立たせることができる(画像提供:価値住宅)

IT重説・電子契約

現在は、契約手続きもデジタル化が進んでいます。不動産売買では、2021年3月30日から「IT重説(重要事項説明)」が、2022年5月18日から電子契約の本格運用が開始しました。IT重説とは、テレビ会議システムなどのITを活用して、売買契約時の重要事項説明をするというもの。電子契約とは、重要事項説明書や売買契約書、媒介契約書などの交付を電子化するものです。

IT重説と電子契約により、遠方にいながら不動産の売買手続きができるようになりました。しかし、中古住宅の売買では、投資物件を除いてあまり活用されていないのが現状です。その理由は、次の3つに大別されます。

1つは、売買契約が不動産会社にとっての「見せ場」であること。不動産会社は、不動産の売買を仲介するにあたって物件の調査や販売図面の作成、ポータルサイトへの登録、物件案内などをしますが、このような業務はあまり目立つものではありません。一方、重要事項説明や売買契約書への記名は宅地建物取引士(宅建士)の独占業務であり、決して安くない仲介手数料を受領する根拠として誇れる業務です。もちろんオンラインにしたとしても役割は果たせるわけですが、不動産会社は見せ場である重要事項説明の読み合わせや契約締結をリアルでやりたいという気持ちがあると思います。

そして、2つ目の理由は取引する当事者のニーズです。売主は大切な資産を手放し、買主は人生で最も高額なものを購入するという重要局面ですから、やはりオンラインで済ませるのではなく、対面して契約したいというニーズは高いものと考えられます。

3つ目の理由は、手付金の問題です。手付金は法律的に契約が成立した後に買主から売主に授受されることになっていますが、契約は土日祝日が多いため、対面の契約では署名・捺印後に手渡しされるのが一般的です。オンラインで契約をするとなると手渡しできないことから、厳密にいうとまだ契約が成立する前に振り込んでもらうことになりますが、数百万円にも上ることが多い手付金を事前振り込みすることに抵抗のある買主は少なくないでしょう。

これらの理由から、不動産売買ですぐにIT重説や電子契約が主流になっていくにはいくつかのハードルが存在しますが、対応できない不動産会社よりは、できる不動産会社を選んだほうがいいと思います。不動産売買は、相手がいてこその取引です。たとえば、海外に住んでいる人や足腰が不自由な人が買主になる可能性もあります。また、電子契約をしないとしても、電子契約に対応しているかどうかが、不動産DXに取り組んでいる、ひいては顧客目線に立ってサービス提供をしているという一つの目安と言えるかもしれません。

中古住宅を売るときに活用できるデジタルツール
  • 一括査定
  • AI査定
  • 不動産情報ライブラリ
  • バーチャルステージング
  • デジタルで提案するリノベーションプラン
  • IT重説・電子契約

3. 不動産の売却でDXを賢く利用する方法は?

DXを効果的に活用できるかどうかは、不動産会社次第です。不動産会社が導入していないツールは、そもそも利用することができませんし、一方でDXを推進していると言うだけで不動産会社の良し悪しは判断できません。不動産を好条件で売るために必要なのは、デジタルとリアルの融合です。

不動産会社選びはデジタルツールだけに頼らない

一括査定も、査定結果を鵜呑みにするのではなく、不動産会社の提案内容や姿勢を比較するために活用するのなら問題ありません。要は、デジタルだけに頼らないことが大切です。

DX化が進んだ今、不動産会社からすると、相談に来た売主の本気度を測りにくくなっています。たとえば、一括査定で査定依頼があっただけでは、単にいくらで売れるかを知りたいだけなのか、具体的に売却を考えているのかがわかりません。不動産会社に本気になってもらい、具体的な提案など積極的に進めてもらうには、売主がまず本気度を見せる必要があると思います。

不動産会社と対話すれば、こちらの本気度も自ずと伝わるはずです。査定依頼の手段はデジタルだとしても、必ず実際に対話してから不動産会社を比較するようにしましょう。

物件に合ったシステムを活用してくれる不動産会社を選ぶ

不動産DXが推進されているとはいえ、不動産会社によってどのようなシステムに対応しているかは異なります。たとえば、築古物件であればデジタルリノベーションプランを提案してくれる不動産会社に売却を依頼したほうが、買主が購入後の生活をイメージしやすくなるでしょうし、築浅でも見た目に自信がなければホームステージング(デジタル/リアル)をしてくれる不動産会社をパートナーにすることができれば集客上、心強いと思います。

自社でリフォームプランをつくったり、ホームステージングができなかったりしても、専門業者と提携していれば対応可能な場合もあります。物件に合ったデジタルツールが利用できるかどうか、そして、活用実績があるかどうかも不動産会社を選ぶときの指標の一つにするといいでしょう。

不動産を売却するうえではDXだけでなく「リアル」も大切と心得る

これだけスマートフォンが普及し、あらゆる分野でIT、AI、デジタル化が一般的になっている今の時代に「不動産ポータルサイトも使っていない」「デジタルツールには頼らない」という不動産会社があるとすれば、正直、どうやって売るのか聞きたいくらいです。

一方で、どんなに不動産DXを推進していたとしても、それだけで家を売ることはできません。家を売るためには、やはりデジタルとリアルの融合が必要です。

色々なシステムを導入していたとしても、何を活用し、どう売っていくかという戦略を立てるのは人間です。不動産会社を選ぶ際には、こうした「提案力」も見るようにしましょう。

不動産の売却で賢くDXを活用する方法
  • 不動産会社選びはITツールだけに頼らず直接、対話することが大切
  • 物件に合ったシステムを活用してくれる不動産会社を選ぶ
  • 不動産を売るうえではDXだけでなく「リアル」も大切と心得る

4. 新しいツールを活用しながら売却を依頼する「不動産会社」を見極めよう

不動産DXは、不動産取引を便利に、効率的に進めるために役立つ仕組みですが、デジタルツールさえあれば売却できるわけではありません。大切なのは、デジタルとリアルの融合です。デジタルに依存してしまっては、本質を見落としてしまうおそれもあります。不動産会社を選ぶ際には、導入しているデジタルツールや提案力から、効果的な方法で販売できるかどうかをしっかりと見極めましょう。

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高橋 正典 (たかはし まさのり)
不動産コンサルタント、価値住宅(株) 代表取締役。金融機関勤務を経て、都内不動産デベロッパー立ち上げ期に参画し、同社取締役及び関連会社の代表取締役を歴任。エージェント(代理人)型の不動産会社として、2008年に(株)バイヤーズスタイルを設立、代表取締役就任。2016年10月に会社名を価値住宅(株)へ変更。中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる取組みを全国へ拡げるため、VCネットワーク「売却の窓口®」を運営し、その加盟店は全国へ広がっている。不動産流通の現場を最も知る不動産コンサルタントとして、各種メディア・媒体等においての寄稿やコラム等多数。