2018年に宅地建物取引業法の一部が改正され、中古住宅を取引する際、仲介などを行う不動産会社は検査(インスペクション)についての告知が義務づけられました。
これにより関心が高まり、中古住宅の売買に際して検査(インスペクション)を実施する事例は増加しています。不動産流通業に関する消費者動向調査(2023年度)によると、売買に際して検査(インスペクション)を実施する割合は、全体の25.8%。戸建て住宅に限ると45.5%にも及びます。
そこで本記事では、中古住宅の検査(インスペクション)は具体的にどのような流れで、何がおこなわれるのかを詳しく紹介します。検査(インスペクション)を受けるメリットもあわせて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
1. 中古住宅の「検査(インスペクション)」の流れは?
まずは、中古住宅の検査(インスペクション)とは何なのか、どのような流れでおこなわれるのかを紹介します。
中古住宅の「検査(インスペクション)」とは?
「検査(インスペクション)」は、広義においては、建物に詳しい専門家や建築士が基礎や外壁のひび割れ、雨漏りによるシミなどや劣化、不具合の有無などを目視や計測によって調査・診断を行うことを指します。
このうち国が定める「既存住宅状況調査方法基準」に基づき実施され、対象の住宅を売買する際に重要事項説明の対象となるものが「建物状況調査」です。
建物状況調査では、「既存住宅状況調査技術者」の資格を有する建築士が、建物の劣化事象等の有無を客観的に検査します。この検査は、スムーズな不動産取引を目的に、不動産会社からの紹介を受けた売主がおこなうケースが多いです。
本記事では、広義における検査のなかでも、特にこの建物状況調査や、そのなかでも中古住宅売買時のかし(瑕疵)保険の加入にあたって実施される「かし(瑕疵)保険適合検査」について、具体的な流れや内容を紹介していきます。
<キーワード解説・用語集>
既存住宅売買瑕疵保険<かし(瑕疵)保険についてもっと詳しく>
中古戸建て・中古マンションの売買や保有時のリスクを回避する「保険」や「保証」どんなものがある?検査(インスペクション)は原則「非破壊検査」だということ
中古住宅の売買前の状況把握のためにおこなわれる検査は、基本的に「非破壊検査」です。非破壊検査とは、壁や床を破壊せず、主に目視を中心に打診や機材を使用しておこなう検査を指します。
検査では、主に以下の部位について劣化事象等の有無を調べます。
- 構造耐力上主要な部分:基礎・壁・柱など
- 雨水の浸入を防止する部分:屋根・外壁・開口部など
検査時には、あわせてこれまでの修繕状況についてのヒアリングもおこなわれるのが一般的です。
<インスペクションについてもっと詳しく>
中古戸建て・中古マンションの 「検査」「インスペクション」って?何を検査する?検査(インスペクション)の流れ
建物状況調査の当日は、以下のような流れで進みます。
- 事前説明
- 建物外部調査
- 小屋裏調査
- 建物内部調査
- 管路検査
- 床下調査
- 調査結果説明
原則的に、検査は建物外部から始めます。ただし雨天の場合は、汚れを室内に持ち込まないよう、内部から始めることもあります。内部調査については、建物の上部から下部へと進めていくのが一般的です。
なお、管路検査は建物状況調査では定められておらず、オプションとなります。ただし、建物状況調査の中でもかし(瑕疵)保険の加入を前提とした「かし(瑕疵)保険適合検査」で、加入する保険に管路特約(給排水管路を保険対象部分として追加する特約)をつける場合は、管路検査が必須になります。
2. 検査(インスペクション)の具体的な内容や方法は?
建物状況調査が実際どのようにおこなわれるのか、戸建て住宅の場合を例に、流れに沿って調査員が使用する道具とともに解説します。
(1)事前説明
検査の当日、訪問した調査員が身分証明書を提示して自己紹介し、あわせて検査の主旨や目的、検査箇所、検査にかかる時間などの説明があります。専門用語はできるだけ使わないようわかりやすく説明されますが、理解できない部分については遠慮なく質問しましょう。
(2)建物外部調査
外部から検査をスタートします。建物の各面ごとに、外壁や軒裏、屋根、開口部の状態を、目視にて、ひび割れや欠損、浮き、はらみ(膨らみ)、シーリングの劣化などがないかを検査します。
【調査員の道具1】打診棒
目視が難しい屋根や2階部分、軒天などは、双眼鏡で確認します。万一ひび割れがある場合には、クラックスケールでひび割れの幅を測ったり、ピアノ線を差し込んで深さを測ったりします。
【調査員の道具2】クラックスケール
【調査員の道具3】ピアノ線
検査の結果、コンクリートの劣化が疑われる場合には、鉄筋探査機を使って鉄筋が正しく入っているか、位置(間隔)に問題ないかなどを測定します。
【調査員の道具4】鉄筋探査機
(3)小屋裏調査
外部の検査が終わったら、屋内に移動して内部調査のスタートです。内部は高い所からスタートするのが原則なので、まずは小屋裏の検査を実施します。
小屋裏調査は、小屋裏に潜り込むことはせず、脚立を使用して点検口から小屋裏をのぞき込んで目視でおこなうのが一般的です。点検鏡や懐中電灯などを使用して、小屋組や天井の下地材の状態のほか、雨漏りの有無などについて、目に見える範囲内でチェックします。
【調査員の道具5】点検鏡
目視で検査するのにあわせ、カビ臭くないか、においも確認します。調査がかし(瑕疵)保険の加入に備えたもので、保険に管路特約をつける場合は、給排水管路の検査もおこないます。
(4)建物内部調査
続いて、各部屋の内壁・天井・床・柱・梁(はり)を検査します。それぞれひび割れや雨漏りあと、著しい劣化、腐食、たわみがないかなどを目視で確認。あわせて床や柱、内壁が傾いていないかを、レーザーレベルやデジタル水平器などを用いて検査します。
【調査員の道具6】レーザーレベル
【調査員の道具7】デジタル水平器
床については居室のみ部屋の四隅を、柱や内壁については居室のみの部屋の外壁面を測定するのが原則です。浴室や洗面室、トイレ、納戸などは検査の対象外です。また、室内を検査する際、バルコニーに出られる場合は、防水層や排水溝などの状態をチェックします。
(5)管路検査(オプション)
かし(瑕疵)保険への加入、さらに管路特約をつけたい場合は、給排水管路も検査します。具体的には、給水管、給湯管、排水管に水漏れ、詰まり、逆流、あふれが無いかなどを確認します。
(6)床下調査
床下調査は、床下点検口から床下をのぞき込み、主に以下について調べます。
- 床基礎に著しいひび割れや劣化、欠損などがないか
- 床材の劣化や漏水、雨濡れなどがないか
- 床下に水たまりや水染み跡がないか
- 蟻害がないか
小屋裏同様、床下に入り込んでの検査はせずに、あくまでも目視でチェックします。
(7)調査結果説明
すべての検査が終わったら、調査員が検査結果と今後の流れを説明します。検査で定める基準に適合しない(不適合)箇所がある場合は、なにが問題なのかを、具体的な修繕方法とあわせてアドバイスします。不明点があるときには、疑問を解消できるまで遠慮なく質問しましょう。
3. 中古住宅の検査(インスペクション)はマンションでも実施できる?
中古住宅の建物状況調査は、一戸建てのみに限らず、マンションの住戸に対してもおこなえます。マンションでおこなわれる検査は、主に以下のような内容です。
- 住戸内に雨漏りの跡がないか
- 建物の外壁にひび割れや浮き、劣化、シーリング材の劣化などがないか
- コンクリートの圧縮強度は十分か(非破壊検査)※築年数によります
- 共用廊下やバルコニーにぐらつきやひび割れなどがないか
- 給排水管路に水漏れや排水不良、滞留などがないか(オプション)
なお、マンションの検査は、廊下や共用部分も含むため、検査日までに管理組合もしくは管理会社に調査実施の許諾が必要な場合もあります。
4. 中古住宅の検査(インスペクション)を受けるメリットは?
中古住宅の売買で検査を受けることには、買主はもちろん売主にもメリットがあります。
安心して取引を進められる
売買取引の前に検査を受け、事前に問題点を洗い出しておくと、買主は購入の可否を判断しやすくなります。
売主にとっても、売却後に不具合が見つかり契約不適合責任を問われるリスクを減らせることは、大きなメリットです。契約不適合責任とは、種類・品質・数量について、契約内容通りのものを買主に引き渡さなければならないとする、売主が買主に対して負う責任を言います。中古住宅の売却後に、たとえば雨漏りが見つかるなどして契約不適合責任を問われると、売主は修繕を求められたり、損害賠償を請求されたりする可能性があります。
検査は、専門家が第三者の立場で実施するため、双方が現状に納得のうえ取引できることがメリットです。
<キーワード解説・用語集>
契約不適合責任<契約不適合責任についてもっと詳しく>
民法の改正で売主の負担がUP!?リスクを回避する方法を専門家が伝授購入後のリフォーム・リノベーションの予算を立てやすくなる
買主が購入後にリフォーム・リノベーションをする場合、建物の状況によって修繕すべき内容が異なり、それに応じた費用が必要になります。検査をおこない、どの箇所にどのような劣化があるかがわかると、購入後リフォームにどの程度の費用がかかるのかを、あらかじめ把握できることがメリットです。
なお、リフォーム一体型ローンを組む場合は、リフォーム費用の目処がついていないと審査を申し込めません。
既存住宅売買かし(瑕疵)保険に加入できる
中古住宅の売買時にかし(瑕疵)保険に加入するには、かし(瑕疵)保険適合検査を受けたうえで合格する(不適合があった場合は補修し合格する)必要があります。
かし(瑕疵)保険は、中古住宅の引渡し後に構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について、不具合や欠陥が発覚したときに補償が受けられる保険です。管路特約をつけると、給排水管路なども保険の対象部位にと加えることができます。
中古住宅の検査は原則的に非破壊検査であるため、壁裏など内部の確認はできません。そのため、検査を受けて問題がないと判断しても、入居後に不具合が発覚することがあります。そのような、検査ではわからなかった不具合も補償されることが、かし(瑕疵)保険に加入するメリットです。
なお、かし(瑕疵)保険は、原則的には物件の引渡し後の加入はできない点に注意が必要です。補修については、住宅あんしん検査が提供する「あとから瑕疵保証」など、引渡し後に(引渡しの”あとから”)買主が補修しても保証が適用される商品が出てきていますが、これも加入手続きは引渡し前に必要です。補修を売主がおこなうにしても、買主がおこなうにしても、かし(瑕疵)保険の加入を希望する場合は、必ず物件引渡し前に取引を仲介する不動産会社もしくは検査機関に申し込み、かし(瑕疵)保険適合検査を受けましょう。
5. 検査(インスペクション)を受けて中古住宅の安心な取引を実現しよう
中古住宅の検査では、建物の外部、内部、小屋裏、床下などを詳しく検査します。ただし基本的には目視でおこなわれる「非破壊検査」。壁内部など、目視できない部分の不具合に備えたい場合は、かし(瑕疵)保険への加入を前提とした「かし(瑕疵)保険適合検査」を受けましょう。購入後に住む買主だけではなく、スムーズに取引を進めたい売主にとっても、取引後の将来的な安心を担保してくれます。