買うコツ

これからの中古住宅の可能性、中古住宅売買のあるべき姿とは〜業界キーマンが語る中古住宅市場【後編】

島原 万丈
長嶋 修
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内山 博文

長く中古住宅市場を牽引してきた(株)LIFULL/LIFULL HOME’S総研 所長 島原万丈(しまはら まんじょう)、(株)さくら事務所会長 長嶋修(ながしま おさむ)と(一社)リノベーション協議会会長/u. company株式会社代表取締役 内山博文(うちやま ひろふみ)の鼎談の様子を3回にわたって紹介している連載企画。

中編では、今後の10年、不動産市場がどのように変わっていくかについて語りました。近く金融システムの崩壊が予測されることや、新築住宅から中古住宅へのシフト、「空き家になったら1秒でも早く売却した方がいい」という言葉も飛び出しました。

多くの人が中古住宅に感じているかもしれない不安を払拭し、安全・安心な売買取引を実現するために、中古住宅市場・業界にこれから必要なこととは何でしょうか。また、実際に中古住宅を購入するときにはどのような視点を持つといいのでしょうか。

最終回として、「中古住宅の可能性」と「売買におけるあるべき姿」について議論を交わした3人の展望を紹介します。

(※本記事は、2024年10月30日に収録したトークセッションの内容を元に編集作成しています。)

1. 住まいの買い方で、住んだ後の「幸福度」が変わる!「中古住宅+自らリノベーション」はコスパ良

― LIFULL HOME’S総研が2024年9月に発表した『STOCK&RENOVATION 2024』では、住まいの購入を検討している人や実際に購入した方に対してさまざまなアンケートを実施しています。住まいの買い方・つくり方で、住んだ後の満足度に違いがありそうですね?(内山)

島原:過去5年間に住まいを購入した人に「幸福度」などを聞いたところ、注文住宅が最も満足度や幸福度が高く、次点は取得後に自らリノベーションした家という結果になりました。自らリノベーションした家は、新築分譲住宅やリノベーション済み物件より、はるかに幸福度が高いようです。

「家がもたらす自己実現」という項目では、取得後にリノベーションした家のほうが注文住宅より上。やはり、オーダーメイドで作った家は満足度が高いものです。注文住宅は高額なため、コストパフォーマンス(コスパ)としては「中古住宅+自らリノベーション」という選択肢の魅力は高いと言えます。

独自の調査研究レポートをもとに、ユーザー目線での「住」領域の調査研究と提言活動に従事するLIFULL HOME’S総研の島原万丈

図1:住宅タイプが家の幸福度へ与える影響

自らリノベーションした家は総じて満足度が高く「家がもたらす自己実現」については注文住宅を上回る(画像出典:LIFULL HOME’S総研)

長嶋:自分がいかに住まいづくりにコミットできるかで、満足度は大きく変わってくるのでしょうね。住まいという「点」だけでなく、エリアという「面」で選ぶことにも通ずるかもしれません。自分が積極的に街に出て関わっていくからこそ、暮らしは面白くなります。多くの人がこれまでそのことに気づけなかったのは、住まいは手を加える必要がないという売り方、見せ方をしてきてしまった業界の責任でもあると思います。

業界の第一人者として不動産購入のノウハウにとどまらず、業界・政策提言にも言及するなど精力的に活動するさくら事務所の長嶋修
住まいの買い方・つくり方で、住んだ後の「幸福度」が変わる?
  • 注文住宅が最も満足度や幸福度が高く、次に住宅取得後に自らリノベーションした家
  • 高額な注文住宅と比べて「中古住宅+自らリノベーション」はコスパがよい

2. 市場の「ボーナスステージ」は終わり。「セカンドベスト」な時代の住まいの選び方、ポイントは?

― 第2回・第3回では、今後8〜9割の不動産の価値が下がっていくという長嶋さんのお話がありましたが、今後どのように住宅と向き合っていけばいいのでしょうか?(内山)

島原:マネーゲームに乗るか乗らないかで、大きく変わってくるのではないでしょうか。どのような街に住みたいのか、どのような家に住みたいかを無視し、資産価値だけを重視して住まいを選ぶ人はなかなかいないはずです。家を持つことで得られる「幸せ」と「資産価値」のバランスをどのようにとっていくか、という話になってくると思います。

長嶋:おっしゃる通りです。資産価値が落ちようが落ちまいが、家族みんなが幸せに暮らせて、支払いに無理がなければそれが家族の正解。資産性に着目するのか、幸せに着目するかは対極にありますが、100:0の人ってあまりいないはずで、7:3でもいいし、5:5でもいいわけです。

島原:欧米諸国では日本と同様に「1にも2にも3にも不動産はロケーションが大事」と言われることと同時にもう一つ、「ベストなロケーションでワーストな物件を買え」と言われています。つまり、ワーストな物件をリノベーションすれば、立地も物件もベストになるということ。たとえば、駅前・駅近のマンションは買えないとしても、少し駅から歩いた距離の一戸建てを買ってリノベーションするというのも選択肢の一つになってくると思います。

長嶋:この10年、20年は、一般の人が都心・駅前・駅近でマンションを買うこともできましたが、これは歴史的にみれば異常。いわば「ボーナスステージ」だったと言えるでしょう。ボーナスステージが終わった今後は「セカンドベスト」が主な選択肢になってくると見ています。セカンドベストとは、首都圏で言えば、東京23区でも駅から徒歩10分を超えるようなエリアや埼玉・千葉・神奈川の駅10分圏内程度のエリアです。こうしたエリアの不動産は、価値が上がることはなくても大きく下がる可能性は低いと思います。

あるいは、価値が下がりきった場所の不動産を買うのも選択肢の一つでしょう。90年代後半に私が前職に就いていたとき、分譲していた千葉県某所の坪単価は当時60万円でしたが、今では6万円です。50坪でも300万円ですよ。300万円なら、資産価値がさらに落ちようが大きな痛手にはならないですよね。

島原:首都圏でもここ首都圏なのかなという風景はたくさんある。神奈川県の横浜市ですら価格が落ちきったエリアがある。そういうところを狙って2地域居住することなどもこれからの住まい方の選択肢の一つになってくると思います。郊外エリアの不動産価格が下がった今だからこそ取れる選択肢でもありますよね。

長嶋:昨今、メディアでは「新築マンションがバブル期超え」「億ション開発」のようなニュースが多く報じられていますから、ついピラミッドの尖端に目が行ってしまいがちです。しかし、一旦、そのフィルターを外して郊外や一戸建てにも目を向けてみると、自分たちに合った物件が見つかることもあると思います。

― ひと昔前までは「家を買う」ことが幸せの象徴であり、ゴールの一つだったかもしれませんが、今は賃貸住宅に住み続ける人も増えています。持ち家なのか、賃貸住宅なのかという点はいかがですか?(内山)

長嶋:「この家が気に入った」「この街が好き」「ここに腰を据えたい」という気持ちがあるのなら、どのような場所であっても購入していいのではないでしょうか。これまでの成功方程式は、これからの時代には当てはまりません。

島原:買うか借りるかの2択である必要もないと思います。多くの人は家族が増えて、人生の中で最も大きな家が必要になるタイミングで家を買います。しかし、大きな家が必要なのはせいぜい10数年。都心部で大きな家が買えなければ郊外で買うことになりますが、資産価値が維持できなければその後、売りたいときに売れないなど、身動きが取れなくなってしまいます。であれば、大きな家が必要な時期だけ賃貸でしのぐという方法もあります。

長嶋:親からすれば「子どもたちに1人1部屋与えたい」とい気持ちで頑張って家を買いますが、子は子で「それで両親が苦労するのであればそんなことしてくれなくてよかったよ」と言うわけです。

島原:子どもから「相続したくない」なんて言われることもありますからね。もう少し柔軟に考えて、都市部にはコンパクトな物件を買って、子育ての間は郊外の大きな家を借り、所有している不動産は人に貸すというのもいいかもしれません。以前のように全ての不動産の価値が下がると言うことではなく、上がるところ下がるところがあるという状態なので、「買う」「借りる」の2択ではなく、ライフステージに合わせて住まいを選べるといいですよね。

これからの中古住宅の選び方
  • 資産価値だけでなく、本質的な「幸福度」も考えるべき
  • 価値が下がりきった場所の不動産を買うのも1案
  • 2地域居住もこれからの住まい方の選択肢の一つ
  • 「買う」「借りる」の2択ではなく、ライフステージに合わせて住まいを選ぶ

3. 不動産は「物件ではなく、人で選ぶ」時代に。健全な中古住宅流通のために業界も変わるべき

― 住まいの幸福度・満足度を上げるためには、買主だけでなく業界側も変わっていく必要がありそうですね。(内山)

優良なリノベーション住宅の普及に努めるリノベーション協議会の内山博文

長嶋:先日、結婚相談所のエージェントと話すことがあったのですが、ユーザーが希望する年収やスペックはあるものの、それに当てはまらない提案も意外と受け入れてもらえることがあると言っていました。不動産仲介の担当者も同様で「あなたにはこういう物件が合っているかも」といった提案ができるといいかもしれません。不動産会社には、物件ではなく人間で勝負するという気持ちを持ってもらいたいですね。

島原:当たり前にできることは合理化してしまえばいいと思います。営業担当者に求められるのは、AIなどにはできない人間的な部分。目の前の買主の満足度、幸福度を考えた専門的な提案ができることが、不動産会社の強みになるはずです。

長嶋:営業担当者には、一定の教養も求められます。土地の歴史や建物の知識、そして傾聴力も必要です。たとえば、買主が「この駅がいい」「駅から5分がいい」という希望を言ってきたとき、なぜこの駅がいいのか、なぜ駅から5分でなければならないかまで掘り下げて聞けると、買主自身にも見えていない潜在的なニーズを拾うことができます。

不動産からではなく、人から選ぶことができる仕組みの整備も必要。加えて、物件情報の囲い込みをできないようにすることも重要になってくるでしょう。囲い込みとは、売主から不動産の売却を依頼された不動産仲介会社が他社に物件情報を開示しなかったり、客付けを拒んだりすることで、意図的に「両手取引」で売買を成立させようとする行為です。2025年以降、囲い込みは処分の対象となりますが、抜け道はいくらでもあります。囲い込みをされてしまうと、どんなにいい営業担当者を選んでも物件の選択肢が狭まってしまいます。

図2:不動産会社による囲い込み

囲い込みをする不動産会社は売主・買主の両者から仲介手数料を受領することを目的としている(画像出典:さくら事務所

長嶋:私が顧問をしている「らくだ不動産」では、当然ながら囲い込みはせず、親兄弟や親友に接するように顧客と接することをモットーとしています。買主も紹介が多いので、会社としても非常に営業効率がいいんですよね。

あわせて検査(インスペクション)と瑕疵(かし)保険について、必ず買主に説明しています。売主の仲介会社に拒否されて検査や保険を入れられないこともありますが、不動産の売買を検討している人のためにも、そして業界のためにも、このような状況は是正していかなければなりません。

健全な中古住宅流通のために不動産業界も変わるべき
  • 物件から選ぶのではなく、人で選ばれるべき
  • 不動産会社が物件情報の囲い込みをできないようにすることも重要
  • 買主に検査(インスペクション)と瑕疵(かし)保険についても必ず説明するしくみづくり

4. 見ればわかることしか言えない営業担当者はいらない。信頼できる不動産会社・担当者を探す

― 不動産を売買する人はどうやって信頼できる不動産会社や担当者を探せばいいとお考えですか?(内山)

長嶋:本質的な不動産価値を伝えてくれるエージェント選びが重要。すなわち駅からの距離や築年数など数字的なものだけでなく、エリアの特性や物件の状態を説明してくれたり、購入に際して検査(インスペクション)や瑕疵(かし)保険を勧めてくれたりする担当者と一緒に住まいを選ぶといいのではないでしょうか。リノベーションを前提としている場合は、リノベーション会社を最初に決めて、一緒に物件を見てもらうのがいいと思います。

島原:建物のこともエリアのことも、見ればわかる程度のことしか言えない営業担当者だと“いらない”という時代になっていくはず。AIもすでに要約はできますし、内見も担当者不在でできるようになってきています。

最近は、YouTubeチャンネルを持っている不動産会社やエージェントが増えました。物件情報やリノベーション会社の情報を収集する際に「YouTubeを見た」という買主も増えています。XやInstagramなどのSNSもいいと思いますが、動画はよくも悪くもすべてがわかりますからね。親身さも出るし、うさんくささも出る。こういった感覚はWebページやテキスト、写真のSNSとはまた異なる、情報量が多いメディアだと思います。とはいえ、玉石混淆である点は否めないため、不動産の売買を検討する人は同時に見る目も養う必要があるでしょう。

信頼できる不動産会社・担当者をどう探せばいい?
  • エリアの特性や物件の状態を説明したり、検査(インスペクション)や瑕疵(かし)保険を勧めてくれる担当者など本質的な不動産価値の情報を提供してくれる担当者と一緒に住まいを選ぶ
  • リノベーションを前提としている場合は、リノベーション会社を最初に決めて、一緒に物件を見てもらうことも重要
  • 各社が発信している動画を見て選ぶ。同時に不動産の売買を検討する人は見る目も養う必要がある

5. 本質的な不動産価値を見極め、より安心な不動産取引を実現するために、住まいを買いたい人・売りたい人、そして住宅業界にいる人も知識・意識を高めることが大切

住まいに対する価値観は多様化し、いまや万人に当てはまる成功方程式はありません。情報が溢れる現代だからこそ、何が自分にとって正しい選択なのか見極める目を持つことが大切になってきます。検査(インスペクション)や瑕疵(かし)保険もまた、豊かな暮らしとは何かを考え、自分に合った住まい選びの一助となるものです。賢く活用し、不動産会社選びや物件選びに役立てましょう。

島原 万丈 (しまはら まんじょう)
(株)LIFULL/LIFULL HOME’S総研 所長。1989年(株)リクルート入社、2005年よりリクルート住宅総研。2013年3月リクルートを退社、同年7月、(株)LIFULL(旧株式会社ネクスト)に設置された社内シンクタンクLIFULL HOME’S総研所長に就任し、独自の調査研究レポートを元に「住」領域の情報発信および提言活動に従事。(一社)リノベーション協議会設立発起人・エグゼクティブアドバイザー、内閣府地方創生推進アドバイザーほか、国土交通省、地方自治体、業界団体のアドバイザー・委員を歴任。
長嶋 修 (ながしま おさむ)
1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社、(株)さくら事務所を設立、現会長。2008年、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会設立、理事長に就任。2018年、らくだ不動産(株)の会長に就任(現顧問)。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任し、著作に『マンションバブル41の落とし穴』(小学館新書)他、著書・メディア出演多数。NHKドラマ『正直不動産』監修。
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内山 博文 (うちやま ひろふみ)
愛知県出身。不動産デベロッパー、(株)都市デザインシステム(現UDS(株))を経て、2005年に(株)リビタの代表取締役、2009年に同社常務取締役兼事業統括本部長に就任。リノベーションのリーディングカンパニーへと成長させる。同年に(一社)リノベーション住宅推進協議会(現(一社)リノベーション協議会)副会長、2013年より同会会長に就任。2016年に不動産・建築の経営や新規事業のコンサルティングを主に行うu.company(株)を設立し独立。同年に不動産ストック活用をトータルでマネジメントするJapan.asset management(株)設立。2019年より(株)エヌ・シー・エヌの社外取締役。2021年よりつくばの中心市街地の活性化を目指す、つくばまちなかデザイン(株)の代表取締役も務める。