買うコツ

「中古住宅+リノベ」に向いているのはどんな人? 伊勢谷亜耶子が出会った人や事例を紹介

伊勢谷 亜耶子

住まいの選択肢は、新築住宅、中古住宅、マンション、一戸建て……と多岐にわたり、さらに購入後にリノベーションするという選択肢もあります。中古住宅は新築住宅と比べて安価で、数も多く、リノベーションによって、より自分に合った家にカスタマイズすることが可能です。とはいえ、万人に「中古住宅購入+リノベーション」が向いているわけではありません。

この記事では、住宅メディアの編集長を経験した後、アイ・アンド・カンパニーを設立した伊勢谷亜耶子(いせたに あやこ)が考える「中古住宅購入+リノベーションに向いている人」や住まいを選択するときに考えるべきことを伝えます。

(photo by Naohiro Sasamoto / studio niko)

1. 「中古住宅購入+リノベ」を考えるときに大切なこと

既存物件やリノベーション済み物件の中で希望条件に合致する住まいが見つからない場合も「中古住宅購入+リノベーション」なら叶えられる可能性があります。

リノベーションを視野に入れると、希望条件の中の「絶対条件」としていたものが絶対ではなくなるのが面白いところです。たとえば「広いリビング」や「オープンキッチン」がない物件でも、リノベーションによって叶えられる可能性があります。ただ、前提として自分や家族が希望する条件が明確になっていなければ「中古住宅購入+リノベーション」が最適な選択かは判断できません。

そのため、まずは自己分析をして、条件を整理する必要があると考えます。加えて、リノベーションでは変えられない部分にも目を向けたうえで物件を選ぶことが大切になってくるでしょう。

そもそも「家を持つべきかどうか」

まず、賃貸に住むのか、住まいを購入するのかが、大きな分岐点となります。流れに身を任せるように、川をたゆたうように暮らしていきたいという人にとっては、家を買うとどうしても機動力が弱まる点がデメリットになるかもしれません。

一方で「一生賃料を支払い続けるのか」「高齢になったときに賃貸住宅に住み続けられるのか」と考えると、家を持つことは将来的な安心材料にもなるはずです。住宅ローンを借り入れる際に団体信用生命保険へ加入することが大半なので、将来的な保険として家を購入するという考え方もあります。

優先順位を付ける

家を買うことにしたら、希望条件を整理して、優先順位を付けることが大切です。予算や立地、広さ、間取りなどの条件の中で、何の優先順位が高いのか考えてみましょう。

「新築は絶対に譲れない」という人もいると思います。その場合は、無理に「中古住宅購入+リノベーション」を考える必要はありません。ただ、新築住宅だからと言って性能や設備が優れているとは限らず、立地や選択肢の数で言えば中古住宅のほうに軍配が上がることも多いものです。

「新築がいい」「この場所がいい」ということだけでなく「なぜ自分はこの条件が譲れないのか」まで考えると、優先順位を付けやすくなります。

「いつまで住むのか」を考える

見落としがちなのは「いつまで住むのか」という観点です。家を買うからと言って、終の棲家にしなければならないわけではありません。

海外では、ライフステージや仕事、子どもの年齢などに合わせて、より住みやすい場所、広さ、間取りの家に住み替えていくのは当たり前のことです。いつまで住むのかは、物件選びやリノベーションの内容にも関わってきます。

リセールバリュー

ずっとそこに住むつもりだったとしても、人生には何があるかわかりません。何かの理由で転居が必要になったときに、スムーズに手放せるようにリセールバリューを意識して物件を選ぶことも非常に大切だと思います。

将来の価値を予測することは容易ではありませんが、基本的には都市部や駅から近い物件は値崩れしにくいものです。人口が減少しても都市部の人口は減らず、むしろ都市部に人が集まってくると予測されるため、都心・駅前・駅近の物件を狙っていくというのは一つわかりやすい指標になるのではないでしょうか。

マンションなら管理状態

マンションなら、管理状態のチェックも外せません。修繕積立金不足に陥っているマンションは、将来的に修繕積立金の大幅な値上げや一時金が徴収される可能性があります。適切なタイミングで適切な修繕が実施できなければ、マンションの価値や居住快適性も下がっていくでしょう。修繕計画が立てられていない、見直されていないといったマンションも少なくありません。

きちんと手入れされていて、資金繰りが健全ということは、買うときだけでなく、売るときにも後押しになるはずです。リセールバリューを考えても、管理状態が良好なマンションを選ぶに越したことはないでしょう。

一戸建てなら建物の状態

一戸建ては建物の形状も状態も一つひとつ異なるため、場合によっては購入して住んでから不具合が発覚するといったことも少なくありません。そのような不安やトラブルを回避するために有効な手段の一つが「検査(インスペクション)」です。建物に詳しい建築士やホームインスペクター(住宅診断士)が第三者的な立場から、主に目視による調査を行い、構造上の安全性や劣化の状況を確認します。

建物の状態を事前に確認しておくことは、住んでからの安全性や快適性につながることはもちろん、リノベーションをする時にもどれくらいの改修が必要なのかを判断する目安になるでしょう。

「中古住宅購入+リノベ」を考えるときに大切なこと
  • そもそも家を持つかどうかを考える
  • 希望の条件に優先順位を付ける
  • いつまで住むのか考える
  • リセールバリュー
  • マンションの管理状況
  • 一戸建ての建物状況

2. 「中古住宅購入+リノベ」に向いているのはどんな人?

住まいに求めることを整理するときに、新築住宅や既存の物件では「何かが足りない」と感じる人は「中古住宅購入+リノベーション」に向いています。また、次のような趣味嗜好、考えがある人は、楽しくリノベーションしながら、理想の暮らしを実現できると思います。

作ることが好きな人

私は編み物や裁縫、絵を描くといったクリエイティブなことが大好きです。私のように作ることが好きな人は、自分のライフスタイルに合わせて家を“編集”していくことを純粋に楽しめるのではないでしょうか。

「リノベーション」というとすごく大がかりなもののように感じますが、クロスの張り替えなどの小さなリフォームや本棚をつくるDIY程度であっても、自分の理想や希望に近づけることは可能です。自分で手を加えた住まいは、一層愛着が持てるようになります。

家を自分の暮らしに合わせたい人

「中古住宅購入+リノベーション」は、多様化する今の時代にも非常にマッチしている選択だと思います。

たとえば、最近の流行は対面キッチンですが、ほとんど料理をしない人からすれば、キッチンにそこまでのスペースやスペックは必要ありません。一方、毎週のようにホームパーティーを楽しむ人や料理に情熱を持っている人は、アイランドキッチンや業務用のキッチンなどが向いていることもあるでしょう。

多くの人は、住宅メーカーやデベロッパーが提供する規格化された間取りや設備に自分自身の暮らしを合わせて生活していますが「暮らしに家を合わせたい」という人はリノベーションに向いているでしょう。

予算は向き・不向きに大きく影響しない

近年は資材価格や人件費が高騰しているため「中古住宅購入+リノベーション」が安価とは言えなくなってきました。とはいえ、予算を調整できるのはリノベーションのいいところです。

たとえば、リノベーションのための予算を100万円だけ確保して、その100万円の中でできることを楽しみながらやってみようということでもいいと思います。限られた予算で何ができるかを考えるのも、リノベーションの楽しみの一つです。考えることや予算の調整が煩わしいと考える人は、リノベーション済み物件を検討してみてもいいかもしれません。

「中古住宅購入+リノベ」に向いているのはこんな人!
  • 作ることが好きな人
  • 家を暮らしに合わせたい人
  • 予算は向き・不向きに大きく影響しない

3. 伊勢谷亜耶子が出会ったこんな人・こんな事例

私はこれまで、リノベーションする人やリノベーション済みの物件を多く見てきました。ここでは、その中でも印象的だった事例を紹介します。

リノベーションで楽器演奏が可能に

とても印象的だったお客様の一人に「自宅で趣味のサックスを演奏したい」という方がいらっしゃいました。

楽器演奏が可能なマンションもあるのですが、希望する場所や予算、広さでちょうどいい物件があるとは限りません。「だったら自分で作ったほうが早いよね」ということで、リノベーション前提で中古マンションを探すことになりました。紆余曲折を経て出会ったマンションに、リノベーションで防音ユニットを入れることにしたのです。

趣味に合わせて空間を仕立てるのは、リノベーションだからこそできることです。この方は楽器演奏以外にもさまざまな趣味を持っており、防音室だけでなく、デザインにもこだわってリノベーションしました。

愛猫家が「猫ファースト」の住まいにリノベーション

「ネコ命!」という愛猫家が、猫ファーストの住まいにリノベーションした事例もあります。LDKには猫の運動不足やストレスを解消するためキャットウォークを造作し、居室のドアは猫が出入りできるペットドアに改修。トイレ置き場も造作しました。

住まいの間取りは、当然ながら通常は「人」の暮らしに合った規格になっています。自分だけでなく、ペットに住まいを合わせたいという人もリノベーションに向いているでしょう。

50㎡台の住まいに3人分の子ども部屋

50㎡台の住まいに夫婦と子ども3人で暮らしていて、リノベーションに次ぐリノベーションで家の中をどんどん変えていくご家族もいらっしゃいます。子ども部屋が必要になったときは、一つの大きな居室に「入れ子状」にベッドを入れてミニマムな3つの個室をつくっていました。ほぼベッドだけという子ども部屋です。

家庭ごとに教育方針や考え方、子どもの性格は異なります。居室は4.5畳や6畳が一般的ですが、必ずしもそこまでの広さが必要ということはありません。

50㎡台の住まいに子ども3人、家族5人が住み続けるのは、一種のチャレンジです。限られた空間をいかに使いこなすかを考え続けて試行錯誤することは、とても面白いことだと思います。

中古戸建てのリノベには「ハプニング」も想定しておく

一戸建てをリノベーションする際は「ハプニング」を想定しておきたいところです。管理会社などがメンテナンスを行うことが多いマンションに比べ、一戸建てのメンテナンスは住む人次第なので、マンション以上に適切なメンテナンスが行われていない可能性、つまり土地や建物に想定外のトラブルや不具合などが発覚する可能性が高いと考えられます。

たとえば、盛り土の上に建つ一戸建てをリノベーションする際、地盤に不安要素が見つかり、家屋のリノベーションをする前にクレーンで家を持ち上げて地盤改良から始めなければならないこともあります。

こうしたハプニングがあると、資金計画が狂ってリノベーションにかけられる費用が少なくなることもあります。

前述の通り購入前の検査(インスペクション)によってある程度の状況把握は可能なものの、実際に工事をしたり住んでみなければわからないことも多いのが一戸建ての難しいところです。リスクを軽減する策の一つとして、購入時にかし(瑕疵)保険への加入なども検討してみるとよいでしょう。

伊勢谷亜耶子が出会ったこんな人・こんな事例
  • 中古マンションをリノベーションで楽器演奏可能に
  • リノベーションでキャットウォークやペットドアを施工して「猫ファースト」の住まいに
  • 50㎡台のマンションに3つの子ども部屋を創設
  • 中古戸建てのリノベーションは予想外の費用や手間がかかるケースもあるため、検査やかし(瑕疵)保険も検討したい

4. 伊勢谷の自宅公開! 「中古住宅購入+リノベ」体験談

私の今の住まいは、リノベーションした中古マンションです。購入時はとてもシンプルな印象でしたが、リノベーション後は「自分らしさ」が溢れる、お気に入りの空間になりました。

「中古住宅購入+リノベ」を選択した理由

私はクリエイティブなことが好きということに加え、賃貸でも同じ条件の住まいには住めなかったことがあり「中古住宅購入+リノベ」を選択しました。購入した中古マンションは、築50年程度で土地の権利が特殊なために比較的安価だった物件です。

職業的にも、自分の価値観がすべて「中古住宅購入+リノベ」に向いていました。新築マンションに住んだこともありますが、全然面白くなかったのです。リノベーション会社に入って、色々なお客様がライフスタイルに合わせて住まいをつくり変えていく様子を何度も見ていく中で、自分もやりたいという気持ちが強くなり、このマンションの前の住まいから中古住宅購入+リノベをして住んでいました。

図1:リノベーションBefore・After

10年ほど前にリフォームされていた広さ約45㎡、築50年ほどの中古マンションを購入してリノベーション

最初の見積もり費用は、予算の倍!

まず、リノベーション会社に費用を見積もってもらったのですが、見積もり額はなんと予算の倍以上。一気に現実に引き戻されました。ただ、最初は自分のやりたいことをすべてリストアップしてみるのがいいと思います。そこから優先順位を付けて調整していくのも、リノベーションの醍醐味です。好みにも予算にも合ったプランや素材を見つけていく作業も、とても楽しいものでした。

自分の「好き」をすべて詰め込んでしまうと、ごちゃごちゃした印象にもなってしまいかねません。進め方は人それぞれでいいと思いますが「足し算」でうまく行かなかったときは「引き算」でプランを検討していくのがいいでしょう。

伊勢谷がこだわったところ

購入時点で10年前にリノベーションされていたので、再利用しているものもたくさんあります。キッチンは対面の壁に移動させましたが、IHコンロやグリル、換気扇は再利用していて、トイレや浴室もそのままです。

ダイニングの壁は、ラワン合板をつや出ししたもの。部屋を仕切る大きな鉄格子は、工場で特注して作ってもらいました。45㎡のほぼワンルームですが、この鉄格子が空間を分ける役割を果たしています。分けるといっても格子だけなので、風も光も通ります。今は錆が出てきていますが、それも味になっていると感じます。

一番お金をかけたのは床です。オークの無垢材をヘリンボーン張りにしました。アンティークやヴィンテージ家具とも相性がよく、愛着あるものに囲まれて暮らしています。

図2:こだわりのリノベーション

photo by Naohiro Sasamoto / studio niko
photo by Naohiro Sasamoto / studio niko
photo by Naohiro Sasamoto / studio niko
鉄格子で空間を仕切り、ワンルームでもメリハリのある暮らしを実現。床や壁は趣味で集めているアンティーク家具との相性もよい

将来は住み替え?再リノベ?

この家に住み始めて、7年ほどになります。この間に子どもが産まれたので、できればもう少し広い家に住み替えたいと考えています。今の住まいはほぼワンルームなので、子どもが寝た後は“忍び”のように静かに過ごさなければなりません。この場所は非常に気に入っているのですが、個室がもう一つ欲しいところです。

ただ、ここ数年でマンション価格は急騰しているので、今のマンションが取得時より高く売れたとしても買い換えは正直難しいのが現実です。マンションと比べると一戸建てのほうが値上がり幅が少ないので、近所に古い一戸建てが売りに出たら購入してリノベーションしてみたいと考えています。

もちろん、45㎡のこの部屋をどうにかリノベーションして個室を作るのも、選択肢の一つです。とはいえ窓が一面にしかないので、窓を半分にするか、あるいは窓のない部屋を作るか……とさまざま試行錯誤中ですが、こういったことを考えている時間も楽しんでいます。

伊勢谷のリノベのこだわり
  • 使えるものは活かす
  • 空間を仕切って生活にメリハリを
  • お気に入りの家具に合わせたデザインに
  • 最もこだわったのは床材とその張り方

5. ライフスタイルに合わせた「中古住宅購入+リノベ」。存分に楽しむためにも変えられない点をしっかりチェック

「中古住宅購入+リノベ」なら、住まいに暮らしを合わせるのではなく、ライフスタイルやライフステージに合った住まいで暮らすことができます。クリエイティブなことが好きな人や規格された住まいが合わないと感じている人には、とくに向いている選択だと思います。

リノベーション前提で中古住宅を選ぶ際には、リノベーションでは変えられない立地や広さ、管理状態などに目を向けることが大切です。理想の住まいにする過程も楽しみつつ、リノベーションの醍醐味を味わいながら物件選びやプランの検討をしてみてください。

伊勢谷 亜耶子 (いせたに あやこ)
Ay and Company(株)代表取締役。慶應義塾大学環境情報学部(SFC)卒業。新卒で(株)コスモスイニシア(旧社名:リクルートコスモス)入社後、リノベーション業界へ転向。(株)ブルースタジオにて売買仲介営業を多数経験。中古住宅の流通プラットフォームcowcamo(カウカモ)の立ち上げメンバーとして(株)ツクルバへ入社し、『カウカモ編集長』を務めたのち、独立。宅地建物取引士。