近年は住宅の省エネ性能への関心が高まっており、新築マンションの中では省エネ性能の高い「ZEH-M(ゼッチ・マンション)」も少なからず見られるようになりました。しかし、新築マンションは供給数が少なく、手が届きにくい水準にまで価格が高騰しており、さらにその中でZEH-Mに絞って探すとなると、選択肢がかなり限定されます。
そこで検討したいのが、中古マンションをリノベーションしてZEH水準にすることです。省エネ性能を高めることで快適な暮らしが実現するとともに、税優遇や補助金の交付が受けられるといったうれしい効果もあります。
この記事では、ZEH記事の後編として、Japan. asset management(株)管理建築士、(一社)リノベーション協議会 品質基準技術委員として中古住宅の省エネ基準策定などを行っている黒田 大志(くろだ だいし)が、ZEH水準の中古マンションを購入する方法について解説します。
1. 「ZEH-M(ゼッチ・マンション)」とは? 戸建てより容易にZEH化できるって本当?
ZEH-M(ゼッチ・マンション)とは、集合住宅のZEHを指します。ZEHと同様、ZEH-Mともに「省エネ」と「創エネ(エネルギー創出)」によってエネルギーゼロを目指す住宅です。
「ZEH-M(ゼッチ・マンション)」とは
ZEH-Mは、国が定めた基準エネルギーを1年間で20%以上削減し、エネルギー創出によってエネルギー収支がゼロになる集合住宅です。
地域の特性に応じて75%以上のエネルギー削減で認定される「Nearly ZEH-M(ニアリー・ゼッチ・マンション)」や50%以上75%未満のエネルギー削減で認定される「ZEH-M Ready(ゼッチ・マンション・レディー)」、エネルギー創出ゼロで認定される「ZEH-M Oriented(ゼッチ・マンション・オリエンテッド)」という4つの基準があります。ZEH-Mを除く3つはいずれもエネルギー収支ゼロではないものの「ZEH水準」と見なされ、ZEHを対象としている住宅ローン減税や補助金などが受けられます。
<「ZEH水準」とは? ZEH/ZEH水準についてもっと詳しく>
知っておきたい「ZEH」のメリット。世界的に見た日本の省エネ性能は?図1:集合住宅におけるZEHの定義
中古マンションをZEH化することで受けられる税金優遇・補助金制度
中編でも触れていますが、ZEH化することで受けられる税金の優遇や活用できる補助金として次のような制度があります。
- 住宅ローン減税
- 住宅省エネ2024 キャンペーン
- 既存住宅における断熱リフォーム支援事業
- 長期優良住宅化リフォーム推進事業
- 次世代省エネ建材の実証支援事業
<補助金についてもっと詳しく>
【2024年度】中古住宅購入+リフォームに使える国の補助金制度・支援事業まとめマンションは戸建てと比べ、基本的には断熱性能が高いことが多い
マンションなどの集合住宅は、隣り合う住戸が断熱材の役割を果たすことから、戸建てと比べて断熱性能が高い傾向にあります。
一方、気密性能に注目すると、戸建ては基本的に軸組みで建築され、木材で覆われているわけではないため気密性が低いという特徴があります(※)。コンクリートに囲まれているマンションは気密性能が高く、熱の出入りが少ないため、断熱性能と気密性能をトータルで見れば、マンションは戸建て以上の性能を有していることが多いと言えるでしょう。
※木材とコンクリートを単なる建材として比較した場合は、実は木材の方がコンクリートよりも断熱性が高いという特徴があります。
築浅のマンションなら簡易な改修でZEH水準を達成できることも
基本的に断熱性能が高いマンションは、設備の交換や内窓の設置だけでZEH水準を達成できることもあります。特に築浅の物件なら、設備の交換のみで省エネ基準を達成できるケースもあるでしょう。
先述の通り、ZEH化することで補助金が受給できたり、住宅ローン減税の控除額が上がったりする可能性があります。省エネ性能を高めることで、光熱費が削減でき、快適性も向上するため、ZEH水準に満たない中古マンションを購入するときは性能向上リノベーションを検討することをおすすめします。
2. マンションの断熱性能に影響を与えるものは?
既存の性能が高いとは言え、マンションの断熱性能は次のようなポイントによって異なります。改修する前に、現状に加え、ZEH水準にするためにはどのような改修が必要なのかを知ることが大切です。
築年数
基本的には、築年数が新しい物件ほど断熱性能は高い傾向にあります。内窓を取り付けて、設備を高性能なものに換えるだけでZEH水準が達成できるとすれば、補助金のみならず、住宅ローン減税による控除額も最大70万円増額します。
<ZEH水準にした場合の住宅ローン控除についてもっと詳しく>
中古住宅でも実現できる「ZEH」。リノベ事例、使える補助金について解説!(ZEH中編)構造・形態
マンションの構造によっても断熱性は異なります。2000年以前の団地などに採用されている「壁式構造」は断熱性能が高いものの、壁で支えているため間取り変更の自由度は低い傾向にあります。逆に「ラーメン構造」は断熱性能が低い反面、間取り変更の自由度は高い構造です。タワーマンションに見られる「ALC」という外壁材は断熱性能に優れるため、タワーマンションは総じて断熱性が高いと言えるでしょう。
住戸の位置
住戸がマンション内のどこに位置しているかによっても、断熱性は変わってきます。角住戸や1階、最上階は開放感があることから、中住戸と比べて価格が高いこともありますが、外壁面が多いため断熱性能は劣ります。外壁に接している壁が多い部屋をZEH化するには、内窓の設置や高性能設備の導入だけでは足りず、断熱材を付加しなければならないことも少なくありません。
廊下の位置
共用廊下の位置も省エネ性能を左右します。ここまでの通り、外気に面している部分が少なければ少ないほど断熱性能は高くなります。タワーマンションなどで見られるホテルライクな内廊下は、外気に面していないため、外廊下のマンションと比べて住戸の断熱性能が高い傾向にあります。
窓・サッシの仕様
窓は熱量の出入りが大きいため、スペックによって断熱性能は大きく異なります。シングルガラスよりペアガラス、アルミサッシより樹脂サッシのほうが断熱性能は上です。窓の性能は、建築時期によっても傾向が異なります。2000年頃からペアガラスが標準仕様のマンションが出てきたため、やはり築浅であるほど断熱性能は高い傾向にあると言えるでしょう。
床暖房の有無
築10年程度までのマンションには少なからず床暖房がありますが、実は床暖房は省エネ性能を計算するうえで足を引っ張る設備です。快適性を上げるための設備であることは確かなのですが、計算上は「多くのエネルギーを消費する設備」という扱いになってしまうのです。
そのため、既存で床暖房がある物件や、改修時に床暖房を入れてZEH化するには、床暖房がないマンションと比べて、より多くの断熱材を入れるなどして省エネ性能を高めなければなりません。
性能向上に必要な「緻密な温熱計算」を簡易に
特定の水準まで断熱性能を高めるリノベーションをするには、まずは現状を把握し、必要な水準まで高めていくために何が必要なのかを緻密な温熱計算によって導き出さなければなりません。ただ実は、工務店やリノベーション会社であっても、温熱計算ができないことは珍しくありません。
そこで(一社)リノベーション協議会は2024年6月、特定の水準まで省エネ性能を高めるために必要な改修内容を簡易的に判断できるポイント制度「R1住宅エコ」基準を構築しました。R1住宅エコ基準とは、住宅設備ごとに設定されたポイントを足し、エリアごとに異なる一定の基準を超えたら、協議会が「ZEH水準断熱仕様」と認定するものです。国の基準とは異なるものの、ZEH化に必要なリノベーション内容と費用の目安を知るために活用できます。
図2:「R1住宅エコ」の省エネ設備ポイント表
3. リノベーションで中古マンションをZEH水準にする方法
リノベーションによって、中古マンションをZEH水準にするには次のような点に注意して性能向上に有効な方法を検討しましょう。
「共用部」は基本的に改修できない
マンション住戸の窓や玄関ドアは、エントランスやエレベーターと同じ「共用部」にあたるため、基本的に区分所有者の一存で改修することはできません。改修できるのは「専有部」のみです。
「内窓」の施工が最も効果的
窓は共用部にあたりますが、窓の内側の専有部に取り付ける「内窓」ならカーテンやブラインドと同じ扱いになるため施工が可能です。窓は、住宅の熱の出入りの6〜7割を占めることから、マンションの断熱性能を高めるなら「内窓」の施工が最も効果的と言えるでしょう。
住宅設備の交換
高効率な住宅設備の導入も効果的です。たとえば、お風呂を断熱浴槽に替えたり、エコキュートやエコジョーズを導入することで、消費エネルギーが下がります。費用が比較的安価で効果が高いのは照明のLED化です。
断熱材の付加
専有部なら断熱材を付加することもできますが、要否については慎重に検討したほうがいいでしょう。というのも、内窓を取り付けて、設備を高性能なものに換えるだけでZEH水準が達成できるケースもあるためです。
4. ZEH水準を満たす中古マンションが登場! 買取再販住宅のメリットとは?
省エネ基準は、2030年までにZEH水準にまで引き上げられる予定です。2025年度からすべての新築住宅に省エネ基準への適合が義務づけられるため、新たに分譲されるマンションは今後、ZEH-Mが主流になっていくでしょう。しかし、省エネ基準への適合が義務づけられるのは、新築住宅のみです。新築住宅の省エネ性能がどんどん高まっていく中、中古住宅だけが取り残されてしまうことが危惧されますが、最近ではZEH水準の「買取再販住宅」も見られるようになりました。買取再販住宅とは、不動産業者によってリノベーションされて再販される中古住宅を指します。
<キーワード解説・用語集>
買取再販<リノベーション済み中古住宅についてもっと詳しく>
不動産会社が販売するリフォーム・リノベーション済み中古住宅「買取再販住宅」ってどうなの?そのメリットは?買取再販の大手がZEH水準リノベーションマンションの提供を開始
買取再販事業者として大手のグローバルベイス(株)は2024年3月、ZEH水準のリノベーションマンションの提供を開始しました。今後、同社は、都市部でZEH水準リノベーションマンションを提供していく予定です。第1弾となった渋谷区のマンションの改修は、私が取締役を務めるJapan. asset management が省エネ改修のコンサルティングをさせていただきました。
図3:ZEH水準リノベーションマンション
第三者認証の性能を表示して販売・賃貸
こちらの物件は、2003年築の約60平米の住戸を壁や床に断熱材を付加し、高断熱性能のインナーサッシ(内窓)を施工するなどしてZEH-Oriented(ゼッチ・オリエンテッド) 基準を達成する省エネ改修を行いました。断熱等性能等級6、一次エネルギー消費量等級6と建築物省エネ法に基づく第三者認証BELSにおける最高評価となる星5つを取得したリノベーション済みマンションとして販売・賃貸しています。
BELSの認証は国土交通省の告示に基づく性能表示で、2024年4月には「省エネ性能表示制度」が開始しました。表示は努力義務ではあるものの、ZEH水準など高い断熱性能を有するリノベーションマンションは、省エネ性能ラベルが発行されるケースもあります。発行された場合は、販売図面や不動産ポータルサイトで表示されるため、ZEH水準や省エネ基準を満たしているかどうかが一目で判断できます。ただし、改修後の省エネ性能・断熱性能が計算などで担保されない場合は、改修部分をチェックするだけの表示ラベルとなります。
図4:省エネ性能ラベル
買取再販住宅のメリット
中古マンションを購入してZEH化する場合は、先の通り、まずは現状を把握し、どのような改修が必要かを見極めなければなりません。当然ながら、引渡しを受けた後にリノベーションするため、すぐに住むことはできません。一方、買取再販住宅はリフォーム済みのため、どのような改修が必要なのか考える必要がないことに加え、すぐに住み始めることができます。
また、買取再販住宅は、住宅ローン減税で新築住宅と同等に扱われます。購入した中古マンションをリノベーションによってZEH水準にした場合の借入限度額は「3,000万円」ですが、ZEH化にリノベーションした買取再販住宅を購入した場合は「3,500万円(子育て世帯・若者夫婦世帯は4,500万円)」です。控除率はいずれも0.7%ですが、控除期間は中古住宅が10年で、買取再販住宅は13年です。以上の違いから、同じZEH水準だとしても、最大控除額は中古住宅が「210万円」のところ、買取再販住宅は「318.5万円(子育て世帯・若者夫婦世帯は409.5万円)」と100万円以上の差が生じます。
<キーワード解説・用語集>
住宅ローン減税・住宅ローン控除<住宅ローン減税についてもっと詳しく>
拡充された「住宅ローン減税」。中古住宅の取得で受けられる、その内容や手続き、必要書類は?5. ZEH水準の中古マンションやリノベーション、補助制度にも目を向けてみよう
マンションは、戸建てと比べるとリノベーションによって容易に省エネ性能を向上させることができます。ZEH水準に改修することで税優遇や補助金の受給も期待できるため、省エネ基準に満たない中古住宅は性能向上リノベーションをおすすめします。
何をどう改修すればZEH水準にできるかは、物件ごとに異なります。省エネ性能向上リノベーションに強い会社へ相談するとともに、すでにZEH水準を満たすリノベーション済み物件の購入も選択肢に加えて検討してみてはいかがでしょうか。