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ZEHとは?中古住宅でも実現できる! メリットやリノベ事例、使える補助金を解説【ZEH中編】

黒田 大志

「ZEH(ゼッチ)」とは「ネットゼロエネルギーハウス」の略で、「省エネ」と「創エネ」を組み合わせ、エネルギー収支ゼロを実現する住宅を指します。2030年以降はすべての新築住宅でこのZEH基準を満たすことが必要となっており、その前段階として、2025年度からはすべての新築住宅に現行の省エネ基準への適合が義務づけられます。

そのような中、中古住宅でもリノベーションによって新築住宅と同様の住宅性能を確保しようという動きが出ています。この記事では、Japan.asset management(株)管理建築士、(一社)リノベーション協議会 品質基準技術委員として中古住宅の省エネ基準策定などを行っている黒田 大志(くろだ だいし)が、前編に続き、中古住宅をZEH水準以上に引き上げたリノベーション事例を紹介。ZEH化で利用できる税制優遇や補助金制度についても解説します。

1. 築古の中古戸建てをリノベーションしてZEH水準以上の断熱性能に

2025年度から省エネ基準への適合が義務づけられるのは、新築住宅はもちろん、確認申請の必要な建物のみです。しかし、現在は新築住宅の着工数が減少しており、これまで省エネ基準への適合は任意だったわけですから、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すのであれば、既存住宅(以下、中古住宅。固有名詞を除く)の断熱性能の向上が不可欠となってくるでしょう。

中古住宅の断熱性能は、リノベーションによって高めることができます。ここでは「2023年度性能向上リノベデザインアワード」を受賞した事例を一つ紹介します。

リノベーションデータ
所在地三重県津市
敷地面積164.74㎡(49.73坪)
延床面積128.79㎡(38.88坪)
構造在来軸組工法
既存建築年1985年(リノベーション当時築39年)
改修竣工年月2023年08月
断熱性能UA値改修前3.56w/㎡・K⇒改修後0.43w/㎡・K(改修前の8.3倍に向上)
耐震性能上部構造評点改修前0.33 ⇒ 改修後1.78

リノベーション前

リノベーションしたのは、1985年築の木造2階建ての一戸建てです。リノベーション時点で築39年と、見た目にも古さが目立つ建物でした。間取りも昔ながらのもので、ダイニング・キッチンは奥まっていて光が届かず、暗い印象。壁・床・天井は無断熱でした。断熱性に加え、耐震性や遮音性も低く、夏の暑い日差しや冬の寒さ、室外の騒音が気になる状態でした。

図1:リノベーション前

外観や内装に加え間取りも古さが目立ち、夏は暑く、冬は寒い住まいだった(画像出典:性能向上リノベデザインアワード

リノベーション中

まずは、構造と基礎を残して解体し、いわゆる「スケルトン」の状態にします。重量のある瓦屋根は耐震性を下げる一因となることから、ガルバニウム鋼板に葺き替えて軽量化を図りました。剥がした瓦は、外構塀として再利用しています。

当初の計画では、柱などの間に断熱材を入れる「充填断熱」を予定されていましたが、この建物では気密性を確保することが難しいため、発泡ウレタンなどの断熱材を屋根や壁、床へ吹き付ける「吹付断熱」に切り替えることで断熱性能とともに気密性能を向上。鉄筋コンクリートの布基礎(柱や壁などの下に逆T字型の鉄筋コンクリートを打ち込んで建物の土台としたもの)や柱の一部を活用して、耐力面材や耐震フレームなどで耐震補強を施しています。

図2:リノベーション中

基礎と柱、梁などの構造部だけを残して解体し、断熱性能・気密性能・耐震性能を高めるため吹付断熱や耐震フレームなどを施工(画像出典:性能向上リノベデザインアワード

リノベーション後

リノベーション後の断熱等性能等級はZEH水準を上回る等級6、耐震性能は耐震等級の最高ランクにあたる等級3相当となりました。リノベーションにかかった費用は、約2,800万円です。同等の性能で同等の規模の新築を建てる場合と比較すると2〜3割は費用を抑えられたのではないでしょうか。

もし、築古の中古住宅をスケルトンにしてリノベーションすることを検討しているのであれば、一般的なリノベーション費用に100〜200万円ほどの費用を加えることでZEH水準程度の省エネ性能を実現できるでしょう。

図3:リノベーション後

元の姿からは想像できない外観、内装を一新。断熱性能はZEH水準を上回る等級6、耐震性能は耐震等級3相当まで飛躍的に向上(画像出典:性能向上リノベデザインアワード
築古住宅をZEH水準以上の断熱性能にリノベーション
  • 同じ断熱性能・耐震性能の住宅を新築するより性能向上リノベーションのほうが費用を抑えられる
  • スケルトンリノベーションをするなら少し費用を追加すれば、断熱性能を高められる

2. 中古住宅のZEH化で受けられる税金優遇・補助金制度

リノベーションによって中古住宅をZEH水準やそれ以上の断熱性能にするには一定の費用がかかりますが、省エネ性能の高い中古住宅は住宅ローン減税で優遇されます。補助金制度も充実しており、断熱性能を高めれば光熱費も削減できるため、費用負担はさらに少なくなります。

住宅ローン減税

住宅ローン減税の借入限度額は、ZEH水準など省エネ基準に適合した中古住宅は3,000万円、その他の住宅は2,000万円です。控除率は0.7%、控除期間は10年のため、ZEHの中古住宅の最大控除額は210万円、その他の住宅は140万円となり、控除額は最大で70万円も変わってきます。

住宅省エネ2024キャンペーン

国土交通省・経済産業省・環境省は、三省合同で住宅の断熱性能などの向上を推進しています。2024年は「住宅省エネ2024キャンペーン」として、次の3つの事業によって自己居住用住宅のリノベーションを後押ししています。

1.      先進的窓リノベ2024事業

「先進的窓リノベ2024事業」は、高断熱の窓やドアへの改修を対象とした補助金事業です。補助上限は、1戸あたり200万円。申請に際して細かな計算は不要で、適用要件や補助額は「この窓に交換したらいくら」という簡単なもののため、商品も選びやすいと思います。

公式WEBサイト:先進的窓リノベ2024事業

2.      子育てエコホーム支援事業

「子育てエコホーム支援事業」は、子育て世帯や若者夫婦世帯による住宅の取得やリノベーションを対象としています。必須要件は次のいずれかです。

  1. 開口部の断熱改修
  2. 外壁・屋根・天井・または床の断熱改修
  3. エコ住宅設備の設置

(1)〜(3)と同時に行う子育て対応改修やリフォームかし(瑕疵)保険への加入も対象です。中古住宅を購入してリフォームを行う場合の補助上限額は、1戸あたり60万円です。

公式WEBサイト:子育てエコホーム支援事業

3.給湯省エネ2024事業

「給湯省エネ2024事業」の対象となる高効率給湯機を導入した場合も補助金が交付されます。基本額は以下の通り。性能によってさらに補助額が加算される可能性があります。

▼給湯省エネ2024事業の補助基本額

設置する給湯機補助額(基本額)補助上限額
ヒートポンプ給湯機(エコキュート)8万円/台戸建住宅:いずれか2台まで 共同住宅等:いずれか1台まで
電気ヒートポンプ・ガス瞬間式併用型給湯機(ハイブリッド給湯機)10万円/台
家庭用燃料電池(エネファーム)18万円/台

公式WEBサイト:給湯省エネ2024事業

既存住宅における断熱リフォーム支援事業

「既存住宅における断熱リフォーム支援事業」は、中古住宅においてエネルギー消費効率の改善と低炭素化を総合的に促進し、高性能建材を用いた断熱改修を支援する事業です。補助上限額は、基本的に戸建てが120万円/戸、集合住宅で15万円/戸、蓄電システムや高断熱ドアの導入により、さらに上限額は引き上がります。

公式WEBサイト:公益財団法人北海道環境財団補助事業部

長期優良住宅化リフォーム推進事業

「長期優良住宅化リフォーム推進事業」は、中古住宅の性能向上や子育てしやすい環境などの整備に資する、優良なリフォームを支援する事業です。補助限度額は、長期優良住宅(増改築)認定を取得した場合は160万円/戸、取得しない場合は80万円/戸を上限として補助。三世代同居対応の改修工事を実施するか、若者夫婦・子育て世帯または中古住宅の購入者が改修工事を実施するか、いずれかに該当する場合は補助限度額が50万円引き上がります。

公式WEBサイト:長期優良住宅化リフォーム推進事業

次世代省エネ建材の実証支援事業

「次世代省エネ建材の実証支援事業」は、中古住宅の省エネ改修の促進が期待される「工期短縮可能な高性能断熱材」や「快適性の向上につながる蓄熱・調湿建材」など、次世代省エネ建材の効果の実証を支援する事業です。補助限度額は最大で、外張り断熱が400万円/1戸、内張断熱200万円/戸、窓断熱が150万円/戸などと高額ですが、公募期間中に先着順で受け付けられ、採択された場合のみ交付決定となります。

公式WEBサイト:令和6年度次世代省エネ建材の実証支援事業

補助金制度を利用するときの注意点

基本的に、国による複数の補助金制度を併用することはできませんが、国の補助金制度と地方自治体などが実施している補助金制度とは、お金の出所が異なるため、併用できるケースが多いようです。

断熱性能向上のリノベーションに対する補助金制度は充実していますが、こうした注意点を丁寧に教えてくれたり、制度の基準を熟知して補助金を最大限もらえる形で提案してくれるリフォーム会社ばかりではありません。施主自身が制度のことを知らなければ補助金がもらえるチャンスを逃してしまう可能性もあります。

情報収集とあわせて、「この補助金は利用できますか?」と積極的にリフォーム会社にも質問してみましょう。

中古住宅のZEH化で利用できる税金優遇・補助金制度
  • 高断熱化リノベーションを対象とした税金優遇・補助金制度が充実している
  • 省エネ基準に適合していない住宅をZEH化した場合、住宅ローン減税の借入限度額が2,000万円から3,000万円にUP
  • 住宅省エネ2024キャンペーン
  • 中古住宅における断熱リフォーム支援事業
  • 長期優良住宅化リフォーム推進事業
  • 次世代省エネ建材の実証支援事業
  • 国による補助金制度は基本的に複数の制度への申請はできない
  • 補助金制度にも詳しいリフォーム会社に相談しよう

3. 補助金などを活用できる今だからこそ、快適に住むことができるZEH水準のリノベを検討しよう

2030年までに省エネ基準がZEH水準に引き上げられる予定ですが、これは新築住宅の基準であって、中古住宅を対象としていません。しかし、2050年カーボンニュートラルの推進に向けては、中古住宅の省エネ性能の向上が不可欠です。

省エネ性能を高めることで、光熱費が削減でき、快適で健康的な生活が送れます。ZEH水準に適合させるリノベーションをすることで税優遇や補助金も受けられるため、中古住宅の購入を検討している方は同時に性能向上リノベーションを検討してみてはいかがでしょうか。

黒田 大志 (くろだ だいし)
一級建築士。Japan.asset management(株)管理建築士。(一社)リノベーション協議会 品質基準技術委員。 1996年野村ホーム(株)(現:野村不動産ホールディングス)入社を経て、2003年(株)都市デザインシステム(現:UDS(株))入社 。コーポラティブ方式の戸建事業などに従事 。2008年(株)リビタへ入社し、社宅・団地の再生やリノベーション分譲事業、中古戸建の性能向上など既存住宅市場拡大のための仕組みづくりを推進。現在、戸建リノベーションを中心として建築全般のディレクションを行いながら、全国各地でのコンサルティングやセミナー・取材対応も積極的に行っている。