買うコツ

家探しは「まち選び」から! 伊勢谷亜耶子が「中古住宅購入+リノベーション」を推す理由

伊勢谷 亜耶子

暮らしを取り巻くのは、家だけではありません。どこに住むかによって、利便性や生活スタイルは大きく変わってきます。住む「まち」を選んで中古住宅を購入し、自分流にリノベーションすることで、より自分らしい暮らしを手に入れられる可能性や「なりたい自分」に近づく可能性が高まります。中古住宅は物件数が多いことから、まちを選びやすく、地球にも優しい選択肢と言えるでしょう。

この記事では、住宅メディアの編集長を経験した後、アイ・アンド・カンパニーを設立した伊勢谷亜耶子(いせたに あやこ)が、自分の理想を形にしていくためのまち選びから中古住宅の購入、リノベーションの方法まで、実体験を交えながら伝えます。

1. 住まいの購入で「まち選び」を重視すべき理由

毎日の暮らしは、拠点をどこに構えるかによって大きく変わります。その拠点が「家」ということになりますが、人は家の中だけで過ごすわけではないため、もっと大きな視点で家が建つ場所、家が建つ駅、家が建つまちを選ぶことが非常に大切です。

不動産の紹介方法に感じていた「違和感」

これまで、長く不動産の仲介やリノベーション、紹介などの業務に携わってきましたが、不動産業界に対して「違和感」を感じる部分があります。それは、家の間取りや内装、広さや築年数などについては紹介するのに、まちに関しては全くと言っていいほど紹介しないことです。

不動産ポータルサイトや物件のチラシなどでは、まちの情報にまでなかなかリーチできません。しかし、住宅を購入するということは、暮らしを変えるということ。生活全般を考慮すれば、広さや築年数など、物件のスペックを表す数字の情報は断片的なものであり、住まいを選ぶうえでは周辺環境や地域の特性なども同様に重視すべきだと思います。

暮らしを取り巻くものは「家の中」だけではない

暮らしを取り巻くものは、家の中だけではありません。どこで買い物をして、どこに遊びに行って、どういうルートで通勤して……ということを全部ひっくるめたものが「自分の暮らし」であるはずです。通勤利便性や学区、医療施設や生活利便施設の有無、実家との距離なども、暮らしを取り巻く重要な要素でしょう。

まち選びで重視しているのは「なりたい自分」になれるかどうか

私がまち選びで重視しているのは「なりたい自分」になれるかどうかという視点です。

以前は長く生まれ育った場所の周辺に住んでいましたが、数年前に職場の近くに転居しました。自分が知っている場所で生きていくのは、安心だし、生きやすいです。けれども、「今の自分」からステップアップするために「脱皮」すべく、暮らしを取り巻くものを変えたのです。

自分がよく知るコミュニティの中で暮らし続けることも良いですが、思い切ってジャンプして、生き方や生きる場所を見つめ直してみるのも面白いと思います。住む場所によって、自分の視野が広がったり、ものの感じ方を変えたりすることができます。

住まいの購入で「まち選び」が大切な理由
  • 物件情報の多くには「まち」の情報まで詳しく掲載されていない
  • 「まち」も暮らしを取り巻く大事な要素
  • 「なりたい自分になれるまち」を選ぶことで自分のステップアップに繋がる

2. 住むまちを選ぶときのポイントは?

気になる物件が見つかったら実際に内見するように、気になるまちは実際に現地に行って歩いてみましょう。数字や地図からは知り得ない新たな発見が必ずあります。

実際にまちを歩く

人によって、便利だと感じる施設や好きな店は異なります。たとえば、あまり自炊しない人であればランチできる場所や飲みに行ける居酒屋があると嬉しいでしょうが、自炊中心の人は充実したスーパーがあったほうが便利なはずです。よく遊びにいくなど、知っているまちであっても「生活する」という視点で見ると、これまでとは違った表情が見えてくることもあります。

時間帯を変えて何度か歩いてみる

私は、今の住まいを決めるときに2回、じっくりと周辺を歩いてみました。1度目は昼間、2度目は夜間です。仕事柄、夜遅くに帰ってくることも多かったので、スーパーが何時まで開いていて、どんな飲食店が遅くまで営業しているかを知ることは、その場所で暮らすうえで不可欠でした。

「昼の顔」と「夜の顔」がまったく異なるまちも少なくありません。昼間に人がたくさんいるビジネス街は、夜になると閑散とします。女性や子どもが夜道を歩くには、暗く、少し怖い住宅街もあります。どのような場所であっても、住む場所を選ぶ際には、曜日を変え、時間帯を変え、複数回、街を歩いてみてほしいですね。

昼間は人通りの多いオフィス街も夜の顔は異なり、夜道を歩くのが怖いことも

まちに住む「人」にも目を向ける

暮らしを取り巻くものの中には、まちに住む「人」も含まれます。子育て世帯ならファミリー層が多いまち、単身者なら単身者が多いまちが暮らしやすいということもあるでしょう。

ただ、私は子育て中ですが、今暮らしているまちはファミリー層が多いというわけではありません。生活スタイルや価値観が似ている人たちに囲まれた暮らしは居心地のいいものですが、あえて異質なところに身を置く面白さもあると思います。どちらがよいというわけではなく、ここでも「なりたい自分」「理想の暮らし」という視点で、まちに住む人やどのようなコミュニティが形成されているかを見て、ここで暮らす自分をイメージしてみるといいと思います。

住むまちを選ぶときのポイント
  • 実際の暮らしをイメージしてまちを歩く
  • 昼、夜と時間帯を変えて何度かまち歩きするのがおすすめ
  • まちに住む「人」も見てみよう

3. まち選びもしやすい! 中古住宅の魅力とは?

今の私の住まいは、数年前に購入した築50年ほどの都市部の中古マンションです。新築マンションに住んだこともあるので、新築には新築のよさがあることもわかっていますが、中古住宅は次のような理由から非常に魅力的な選択肢だと思います。

まちを選びやすい

新築住宅の供給数は、戸建てもマンションも減少傾向にあります。新築物件を購入したいと思っても、いつ、どこで、どのような物件が建つかわかりません。また、希望するまちに新築住宅が建ったとしても、希望する広さや間取り、価格とは限りません。大規模な開発であれば、まちの様相が変わってしまうということもあるでしょう。

一方、中古住宅は、常に星の数ほど市場に出ています。今の雰囲気を見て検討できるので、まちを選びやすく、その他の希望にも合った物件が見つかりやすいと考えられます。

さらに、中古住宅は、総じて好立地ということもあります。まちを見渡してみればわかりますが、好立地とされる場所にはすでに物件が建っています。新築物件は、場所も数もその他の条件も限定的なため、住まいの選択肢が狭まってしまうのです。

今ある資産を大事にしていける

大きな考え方として、これからの暮らしには、今ある資産を大事にしていくことが求められると思います。日本は、これまで古い住宅を取り壊して土地を売買し、新しい建物を建築する「スクラップアンドビルド」を繰り返してきましたが、まだまだ使えるものをメンテナンスし、アップデートして使い続けていくことは、それ自体に価値があります。

「現状」を見て購入を判断できる

管理状態や周りに住んでいる人などの「現状」を見て購入を判断できるというのも、中古住宅の大きなメリットです。たとえば新築マンションの場合は、どのような人たちが住むのか、どのような管理組合が形成されるのかは入居してみなければわかりません。

しかし、中古マンションであればこれまでの修繕履歴や今後の修繕計画、修繕積立金額などを見たうえで購入を判断できます。管理状態や人だけでなく、窓からの景色や採光、通風なども実際に見られるのは、中古住宅ならではのメリットです。

中古住宅の魅力
  • 物件数が多く、まちを選びやすい
  • 今ある資産を大事にしていける
  • 「現状」を見て購入を判断できる

4. リノベーションで、中古住宅をもっと自分らしく

すべての人にリノベーションが必要とは思っていませんが、せっかくなら長く過ごす家が自分の好きな空間で、もっと自分らしくなれる場所になったらとても素敵ですよね。私の今の住まいは“自分らしさ全開”でリノベーションしました。今では、もともと好きだったホームパーティーがもっと楽しくなり、大好きなアンティーク家具がより魅力的に見えます。

リノベーションで「自分らしさ」溢れる住まいに

私が数年前に購入したマンションは、前に住んでいた人が10年ほど前にリノベーションをしていたのでユニットバスはそのままですが、それ以外はほぼフルリノベーションしたと言っていいと思います。キッチンの場所を変えたり、部屋の間仕切りに鉄の格子を使ったり、ヴィンテージの建具を取り付けたりして自分の「好き」が溢れるリノベーションを施しました。

図1:リノベーションBefore・After

10年ほど前にリフォームされていた広さ約45㎡、築50年ほどの中古マンションを購入してリノベーション

理想を形にするには、信頼できる設計士さんに自分のイメージを伝えることが大切です。私は純喫茶が好きなので、写真集やスナップ写真をたくさん取っておいて設計士さんにイメージを伝えました。好きな家具、好きな食器などを起点として「これに合う空間に仕立ててください」というオーダーの方法でもいいと思います。

オーダーしたあとは「委ねる」ことが大切です。「隅から隅まで自分で決めたい」という人もいますが、空間すべてにこだわりつくしてしまうと、多くの場合“too much(過度)”になってしまいます。設計士さんは、空間全体の中で足し算、引き算をして、うまく調和するようにデザインしてくれます。その人のセンスが好きで、信頼している設計士さんであれば、自分の予想を超えるデザインを出してくれるものです。まち選びにも共通しますが、個人的には「今の自分を超える」という視点で住まいを選び、作りたいと思っているので、自分の枠だけにとらわれない発想を大切にしています。

「リノベーション済み物件」ってどうなの?

「中古住宅+リノベーション」ということであれば、リノベーション済み物件も選択肢に入ってくると思います。リノベーション済み物件とは、買取再販住宅とも言い、不動産会社が買い取った中古住宅をリノベーションして再販している物件です。

リノベーション済み物件のメリットは、自分でプランを考える手間や時間が必要なく、すぐに住めること。ただ、内装やデザインについては、多くの人が好む仕様にする傾向があります。

買取再販事業をしている不動産会社は、買い手のつきやすさを重視して物件を選び、改修内容を決めるため、70㎡なら3LDK、60㎡なら2LDK、リビングは対面式……など、規格された物件が多いと思います。「自分らしい家に住みたい」という人にとっては、少し物足りないかもしれません。

自分でリノベーションすれば暮らしに家を合わせられる

「一点もの」である点においては、自分でリノベーションする場合も、すでにリノベーションされている物件も同じです。しかし「家を自分に合わせる」のか、「自分が家に合わせる」のかという点で大きく異なります。

もちろん、リノベーション済み物件も、立地や内装、間取りなどが気に入れば良い選択ですが、暮らしに家を合わせたいのであれば、好きな物件を買って、好きなようにリノベーションをするのがいいと思います。

リノベーションで、中古マンションをもっと自分らしく
  • 自分の「好き」を起点にリノベーション
  • リノベーション済みマンションも条件が合うのであれば良い選択肢
  • 自分でリノベーションすれば、暮らしに家を合わせることができる

5. 理想の中古住宅を購入して、理想のリノベーションをするには?

自分らしい暮らしをするには好きな物件を買って、好きなリノベーションをすればいいとは言ったものの、これは簡単なことではありません。理想の物件を購入し、理想のリノベーションをするには、不動産業界の“裏側”や“事情”も知っておく必要があります。

リノベーションしたい人にとっては物件探しが難しい時代でもある

リノベーションに適した物件は、手つかずで、一定の築年数が経過した安価な中古住宅です。しかし、こうした物件は買取再販事業者も狙っているため、立地がよい物件は特に一般の人が売買する市場に出回る数が少ないというのが現状です。

情報をいち早くキャッチしたいのであれば、さまざまな不動産仲介会社に種をまいておくのがいいでしょう。要は、自分が希望する条件を複数社に伝えておき、物件が出たらすぐに連絡をもらえるようにしておくということです。加えて、自身で不動産ポータルサイトをチェックすることも大切です。レインズより先に不動産ポータルサイトに物件情報が掲載されるケースもあります。1日複数回アクセスし、物件が売りに出されたらすぐに内見に行けるようにしておきましょう。

信頼できるパートナーを見つける

中古住宅の管理状態は、物件ごとに異なります。特に中古戸建ては、売主の知識や性格によってメンテナンス状況は大きく変わってきます。新築時からほぼメンテナンスをしていないという物件も少なくありません。そういう意味ではマンションは修繕積立金や管理費によって、ある一定のメンテナンスが共有部には施されているのである程度の安心感はあります。

ただ一方で、マンションは、構造や独自の規約などでリノベーションが制限されることもあります。まちが好き、物件が好き、あとは自分らしくリノベーションするだけ……という段階になって、希望する改修ができないことが発覚する場合もあります。理想のリノベーションをするには、物件探しの時点で「できるリノベーション」「できないリノベーション」を把握する必要があるわけです。

しかし、不動産仲介会社の担当者が、建物やリノベーションなどの知識が豊富とは限りません。むしろ、精通している人は少ないのが現状です。ただ、数は少ないながら、不動産の仲介からリノベーションまでワンストップでサポートしてくれる不動産会社もあります。リノベーション前提で中古住宅を購入したいという人は、まず建物やリノベーションの知識があって、信頼できるパートナー(不動産会社)を見つけるのが先決でしょう。

自分の身、資産は、自分で守る

これからの時代は、自分らしさの追求や多様性を受け入れることが大事になっていくと思います。その一方で、自分の身、そして資産は自分で守らなければならない時代とも言えるでしょう。

中古住宅を購入する前に状況を確認する「検査(インスペクション)」や購入後の安心につながる「かし(瑕疵)保険」といった制度もありますが、残念ながら今の日本ではいずれも当たり前に実施されるものではありません。

自分の資産を守れるのは、自分だけです。不動産という高額な資産を購入し、それを改修して維持していくには、受け身でいるのではなく、能動的に知識を付け、行動する必要があります。

理想の中古マンションを購入して、理想のリノベーションをするには
  • 理想のマンションを購入するには「スピード」が大切
  • 信頼できる不動産仲介会社や設計士とともに「理想」を「形」に
  • 必要な知識をつけて、自分の身は自分で守る

6. 自分らしく暮らすために、まちを選び、信頼できるパートナーと中古住宅購入+リノベーションを

まちを選びやすく、自分に家を合わせることができる「中古住宅購入+リノベーション」という選択は、特に家で過ごす中でお気に入りの時間や空間があるという人におすすめです。ホームパーティーが好き、毎週末に家で映画を見るのが楽しみ、飼っている猫との時間を大切にしている、お気に入りのインテリアに囲まれた暮らしが好き……リノベーションすることで、このような暮らしや時間がもっと充実したものになるはずです。

伊勢谷 亜耶子 (いせたに あやこ)
Ay and Company(株)代表取締役。慶應義塾大学環境情報学部(SFC)卒業。新卒で(株)コスモスイニシア(旧社名:リクルートコスモス)入社後、リノベーション業界へ転向。(株)ブルースタジオにて売買仲介営業を多数経験。中古住宅の流通プラットフォームcowcamo(カウカモ)の立ち上げメンバーとして(株)ツクルバへ入社し、『カウカモ編集長』を務めたのち、独立。宅地建物取引士。