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【後編】「性能向上リノベーション」ってなに?高断熱・高気密・高耐震で安心・快適に! 〜事例で見る、改修のポイントと注意点〜

西宮 貴央

中古住宅の中には、断熱性や気密性、耐震性が現行基準より低い住宅も含まれます。これらの性能はリノベーションで高めることができますが、どこを、どのように改修すれば、より安心で快適な住まいにすることができるのでしょうか。

「性能向上リノベの会」を運営するYKK AP株式会社の西宮貴央(にしみや たかお)が2編にわたり、性能向上リノベーションについて詳しく解説。後編となる今回は、実際の性能向上リノベーションの事例を通じて、ポイントや注意点について紹介します。

1. 「性能向上リノベ」では具体的にどこを改修するの?

性能向上のリノベーションで改修するのは、壁、屋根、基礎……など多岐に渡りますが、最も重要なのは断熱性・気密性・耐震性のすべてに大きく影響する「窓」です。

断熱性・気密性を高めるために重要なのは「窓」

季節によって若干異なりますが、住宅の熱の出入りは50%以上が「窓」からと言われています。したがって、断熱性・気密性を高めるうえで重要なのは窓の改修です。

日本の既存住宅の約70%が「アルミ窓×単板ガラス」ですが、これは一般的な断熱材が入った壁に換算すると、わずか0.2mm相当の断熱性能です。つまりアルミ窓×単板ガラスは、ほとんど断熱性能のない、壁に開いた穴のようなものなのです。これでは、熱が出入りして当然でしょう。2000年以前の改修されていない木造家屋は、ほぼ「アルミ窓×単板ガラス」と言っても過言ではありません。

「家が暑い」「寒い」と感じた場合、多くの人はエアコンや暖房器具を見直すでしょう。しかし、壁に穴が開いているような状態では、どのように高性能な冷暖房設備を導入しても効果が半減してしまいます。

アルミ窓×単板ガラスにLow-E複層ガラスの内窓をつけると、断熱材が入った壁21mm相当にまで断熱性能が向上します。壁の中の断熱材を増やすことでも断熱性能は高まりますが、まずはなにより「窓」の高性能化が優先されると思います。

図表6:窓の性能と断熱材の厚み比較

日本の木造住宅の約70%が断熱材の厚さ0.2mm相当の「アルミ窓×単板ガラス」(画像出典:YKK AP)

マンションは窓を改修できるの?

マンションの窓は共用部にあたるため、基本的には改修できません(管理組合の承認を得られれば可能な場合あり)。ただ、既存の窓の内側にもう1枚取り付ける「内窓(二重窓)」は専有部につけるので、マンションでも施工可能です。マンションは、基本的に上下左右に住宅があるので、断熱性能は比較的高い傾向にあります。南向きの部屋なら、南の掃き出し窓と廊下に面している北の窓の断熱性能を高めれば、より一層快適に過ごせます。

耐震性の高め方

耐震性を高めるうえでは、まず耐震診断を行います。耐震診断とは、建物を調査したうえで、地震の揺れにより倒壊するかしないかを見極める判断方法です。

住宅の耐震性能は耐震基準や耐震等級で示されますが、耐震診断上の耐震性は「評点」で判定されます。評点が「0.7未満」は、旧耐震基準相当のため大規模地震で倒壊する可能性が高く「0.7以上1.0未満」は倒壊する可能性があるとされる新耐震基準相当、「1.0」が現行の2000年基準相当です。「1.5以上」は耐震等級3相当となります。建物が必要な耐震性能を満たすには評点が最低でも「1.0以上」である必要があるため、1.0未満の場合は耐震補強などが必要という判定になります。耐震基準を満たせば耐震基準適合証明書を発行してもらうことができ、住宅ローン控除や税金の軽減措置を受けられる場合があります。

耐震性能を向上させる方法は複数ありますが「窓」は耐震上の弱点となるため、耐震性を上げるうえでも重要な部分です。窓などの開口部をできる限り減らすことが最も手っ取り早く耐震性を高める方法ですが、耐震性が高められても、家の中が暗くなり、風通しも悪くなってしまうことは避けたいところでしょう。窓の数や大きさを維持したまま耐震性を高めるには「耐震フレーム」が効果的です。うまく商品を組み合わせることで、断熱性能と耐震性能の両方を高められます。

図表7:耐震フレーム

「耐震フレーム+窓」を施工することで断熱性能のみならず耐震性能の向上も見込める(画像出典:YKK AP「FRAMEⅡ(フレームⅡ)」)
性能向上リノベーションではどこを改修するの?
  • 断熱性・気密性を高めるために重要なのは「窓」
  • マンションは基本的に窓を改修できないため、性能向上のリノベーションをするなら内窓をつけるのが効果的
  • 耐震性向上のポイントも窓

2. 実際に「断熱」「気密」「耐震」にこだわった中古住宅のリノベーション事例を紹介!

ここでは「性能向上リノベ2023デザインアワード」で最優秀賞や優秀賞を受賞した3つの事例を紹介します。

築50年の家をZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に改修

小さなお子さんがいるご夫婦が購入したのは、子どもの頃に住んだことがあるという札幌市の築50年の中古一戸建てでした。アルミサッシ+木製内窓の大きな開口部があったことから、冬は寒く、夏は暑い状態になることが懸念されました。光熱費も高騰しているため電気代も心配だったことから、施主さんは断熱を重視した性能向上リノベーションを実施しました。

改修後は、ZEH(家庭で使用するエネルギーと、太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、1年間で消費するエネルギー量を実質的にゼロ以下にする家)水準の省エネ性能を実現。夏も冬も、2階の空調室のエアコン1台で家中を快適な温度に保てます。屋根には太陽光パネル30枚、10.35kWを設置し、電気代の負担も軽減。子育て世帯には嬉しい対面キッチンやパントリーを導入するなど、間取りも一新しました。

<リノベーションの内容等>

  • 中古物件購入+リノベーション
  • リフォーム内容:耐震+断熱
  • リフォーム後の断熱等性能等級: 6
  • リフォーム後の耐震評点:1.52
  • リフォームにかかった費用:2,300万円

図表8:札幌市築50年中古一戸建ての「性能向上リノベ」事例

大開口のアルミサッシ+木製内窓により冬は寒く、夏は暑い家だった(画像上)・改修後はストーブやパネルヒーターがないため部屋を広く使える(画像下)(画像出典:性能向上リノベデザインアワード

無断熱・不同沈下が見られた中古戸建てを、新築に劣らない性能に

冬の寒さが厳しい新潟県長岡市にありながらも、改修前の断熱状況は床・壁・天井ともに無断熱で、ほとんどの部屋の窓がアルミ単板ガラス。加えて、建物の一部が北西側に不同沈下(建物が不揃いに沈下を起こし、斜めに傾いたりすること)しており、耐震上も不安のある状態でした。

リノベーションは、基礎の打設から屋根の葺き替え、増減築、補強、断熱とかなり大掛かりなものに。まずは基礎を補強し、柱の位置の修正や接合部の補強などにより、建物の耐震性も高めました。床、屋根、壁にも気密性・断熱性の高い断熱材を施工し、脱衣室天井には24時間熱交換換気システムを導入しています。

改修前は、夏の暑い日には屋根面は60度以上、2階天井は48度以上に達していましたが、改修後は2台のエアコンで、1階、2階ともに夏でも25度前後を維持できているようです。

<リノベーションの内容等>

  • 中古物件購入+リノベーション
  • リフォーム内容:耐震+断熱
  • リフォーム後の断熱等性能等級:7
  • リフォーム後の耐震評点:1.57
  • リフォームにかかった費用:2,500〜3,000万円

図表9:無断熱・不同沈下が見られた中古戸建ての「性能向上リノベ」事例

改修前の8月の屋根面温度は60.4度、2階天井は48.5度(画像上)・改修後は広々とした空間ながらも快適な温度・湿度を実現(画像下)(画像出典:性能向上リノベデザインアワード

工事にかけた費用は30年で回収!補助金も活用した「性能向上リノベ」

施主さんが購入したのは、新潟市で1964年に建てられた築58年の木造住宅。これまで増築・減築を繰り返していたことから「建て替えたほうが早い」という意見が多数派かもしれませんが、資材価格の高騰も懸念されるなかで施主さんが選択したのは、性能向上リノベーションでした。

改修では「樹脂窓×トリプルガラス」や付加断熱を導入し、耐力壁を増やしたことで断熱性能・気密性能・耐震性能は飛躍的に向上。37坪の家ですが、エアコン2台と全熱交換型換気扇で、冬も夏も低燃費かつ快適な温度・湿度で過ごすことができていると言います。

耐震・断熱リノベーションには330万円の補助金も交付されたことで、工事にかけた費用は30年間の月々の電気代などのランニングコスト削減で回収できる見込みです。

<リノベーションの内容等>

  • 中古物件購入+リノベーション
  • リフォーム内容:耐震+断熱
  • リフォーム後の断熱等性能等級:7
  • リフォーム後の耐震評点:1.50
  • リフォームにかかった費用:2,500万円

図表10:新潟市築58年木造住宅の「性能向上リノベ」事例

付加断熱としてネオマフォーム45mmを施工(画像上)・改修後のテレビボードは耐力壁にもなっている(画像下)(画像出典:性能向上リノベデザインアワード

3. 性能を向上させるリノベーションをする際の注意点やポイント

性能向上のリノベーションは、特定の部分や特定の製品を施工すればいいというものではありません。家全体の快適性や安心を高め、自分に合ったリノベーションをするため、次のような点に気をつけてください。

未来予想図を描いたうえでリノベーションプランを考える

安心・快適に暮らせて、健康にも寄与し、光熱費も下がる……とあれば、性能向上リノベーションの費用対効果は非常に高いと思います。一方、わずかな期間しか住まないのであれば、見た目や設備にこだわったリフォームをするのも決して悪いことではありません。いずれにしても、初期費用だけでなく、長期的に得られる効果を考え、未来予想図を描いたうえでリノベーションを検討してほしいと思います。

断熱性・気密性の向上は「換気」とセットで考える

気密性を高めるときに気をつけなければならないのが、換気です。気密性が高い家はどうしても空気がよどみやすいため、換気機能を高めることが求められます。今の家は機械で強制的・自動的に換気する「24時間換気システム」の導入が義務付けられていますが、これは2003年の建築基準法改正で義務付けられたものです。これ以前の家には24時間換気システムがない可能性もあるため、気密性を高めるなら、同時に換気についても考えなければなりません。

性能向上リノベーションはリフォーム会社や工務店に依頼すると思いますが、依頼されたリフォームの施工のみで積極的な提案がない会社もあります。また、戸建て住宅は自由に給排気口を作ることができますが、マンションでは共用部に穴を開けることはできません。既存の換気扇などを利用して穴を開けずに換気機能を高める方法がないか、施工会社などとよく検討する必要があります。

性能向上リノベーションでは会社選びも重要

性能向上のリノベーションには一定の費用がかかることから、ローンを組むケースが多く、中古住宅の購入と同時にリノベーションをする人もいます。先の通り、最近は補助金制度も充実しています。

だからこそ、資金面やローン、補助金のことまでトータルで提案してくれたり、サポートしてくれる不動産会社・施工会社を選ぶことが重要です。たとえば、国土交通省に登録している住宅リフォーム事業者団体に加盟しているかどうかは、会社選定の一つの基準になるのではないでしょうか。複数の不動産会社やリノベーション会社に相談して、どこまでサポートしてくれるかを確認してみるといいと思います。

性能向上リノベーションの注意点
  • 未来予想図を描いたうえでリノベーションプランを検討する
  • 断熱性・気密性の向上は「換気」とセットで考える
  • 性能向上リノベーションでは会社選びも重要

4. 信頼できるプロに相談しながら性能向上について学び、快適な住まいにしよう!

性能向上のリノベーションによって、中古住宅を安心で快適な住まいに改修することができます。しかし、リノベーションの方法は一つではなく、既存の状態やお施主様の意向などによっても適切な改修は異なります。

リノベーションの内容によっては補助金の交付や税制優遇が受けられることもあるため、こうした情報を積極的に集め、自身で断熱性・気密性・耐震性や補助金、住宅ローンなどについて学ぶことも大切です。YouTubeやWebサイトからも住宅やリノベーションの知識が得られますが、一方で得た情報を過信しすぎないように注意し、信頼できるプロに相談しながらリノベーションを計画し、快適な住まいで安全・安心、そして健康的に過ごしていただきたいと思います。

西宮 貴央 (にしみや たかお)
大学卒業後、新卒でYKK APへ入社。首都圏を中心に大手ハウスメーカー・パワービルダーの新築部門の顧客営業を担当。その後、広域展開する顧客のアカウントマネージャーを担当し、2020年度から同社のリノベーション本部へ異動。2021年度から同本部の性能向上事業企画室の責任者として、工務店ネットワークの「性能向上リノベの会」の立ち上げを推進。2024年度現在は同社リノベーション事業部の住宅省エネ推進室長として、前出団体の責任者だけでなく、多方面に戸建ストック物件の断熱・耐震の性能向上に取り組む。