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【前編】「性能向上リノベーション」ってなに?高断熱・高気密・高耐震で安心・快適に! 〜メリットとその効果〜

西宮 貴央

2025年4月以降に着工する新築住宅においては、省エネルギー性能の基準への適合が義務化されます。これに伴い「住宅の性能」について多くの人の関心が高まっているようです。

中古住宅においても、断熱・気密・耐震などの性能をリノベーションで高めることができますが、どこを、どのように改修すれば、より安心で快適な住まいにすることができるのでしょうか。

その疑問に答えるため「性能向上リノベの会」を運営するYKK AP株式会社の西宮貴央(にしみや たかお)が前編・後編の2編にわたり、性能向上のリノベーションについて詳しく解説。前編となる今回は、性能向上リノベーションの概要とその効果について紹介します。

1. 性能向上リノベーションとは?

私たちは、中古住宅の断熱性能・気密性能・耐震性能などを向上させるリノベーションを「性能向上リノベーション」と定義しています。リノベーションと言うと、趣味や好みにあったデザインのほか最新のキッチンや浴室などの導入をイメージする方も多いと思いますが、まずは住宅の「基本性能」と呼ばれる部分を向上させることが大事だと考えています。

断熱性能とは

断熱性能とは、外気の影響を受けにくくするための性能です。簡単に言えば、断熱性能を高めることで「魔法瓶」のように屋外の暑さや寒さの影響を室内に受けにくくなります。現在は、1999年に制定された「断熱等性能等級4」が基準となっていますが、現行基準を満たしている中古住宅は2019年度時点で全体のわずか13%です(図表1)。

断熱等性能等級はこれまで1〜4しかありませんでしたが、2022年に5・6・7が新設されました。

等級基準等
7現行の基準に対してエネルギー消費量−40%
6現行の基準に対してエネルギー消費量−30%
5ZEH水準
4現行の基準
31992年の基準
21980年の基準
1無断熱

図表1:日本の住宅の断熱化率(住宅ストック約5,000万戸の断熱性能)

国土交通省調査によるストックの性能別分布を基に、住宅土地統計調査による改修件数および事業者アンケートによる新築住宅の性能別戸数の推計を反映して算出(2019年度)(画像出典:性能向上リノベの会

気密性能とは

断熱は「空気の層をつくり、熱を通しにくくすること」であるのに対し、気密はその空気を逃さないための性能です。いくら断熱性能が高くても、家に隙間が多いと熱や冷気が逃げてしまいます。そのため、気密性能を高めて、室内の温度を保つ必要があります。断熱と気密は、セットで考えなければなりません。

耐震性能とは

耐震性能は、地震に対する強さを表す性能です。木造住宅の耐震基準は、1981年と2000年に大きく改定されており、建築確認申請された時期によって次のように分かれます。

  • 1981年5月以前の建物:旧耐震基準
  • 1981年6月以降2000年5月以前:新耐震基準
  • 2000年6月以降:2000年基準あるいは現行基準

現行基準は「2000年基準」となりますが、1950年から2000年5月までに着工された木造在来工法・2階建て以下の住宅のうち、この基準を満たしていない住宅は90%以上におよぶという統計があります(木耐協(日本木造住宅耐震補強事業者協同組合「木造住宅の耐震診断結果」診断期間:2006年4月1日〜2021年2月28日より)。

2000年基準で建てられた家で耐震等級1の建物は、大規模地震でも一度であれば倒壊しないとされる強度を有しています。一方、新耐震基準は「倒壊する可能性がある」、旧耐震基準は「倒壊する可能性が高い」とされています。つまり2000年基準を満たしていないということは「倒壊する可能性がある」「倒壊する可能性が高い」住宅であることを示しています(図表2)。

図表2:木造住宅の耐震診断結果(1950〜2000年5月までに建築された住宅)

木造住宅の耐震診断結果(2006年~ 2021 年の間に耐震診断を行った27,929 棟)
木耐協2021.3.「木耐協調査データ」のデータをもとにYKK AP が作成。参考京都大学増渕昌利2012 年「建築基準法に基づく完了検査実施率の向上に関 する研究」(画像出典:性能向上リノベの会

時代的にも住宅の性能向上はマストになりつつある

昨今では、政府もカーボンニュートラルの実現に向け、住宅性能の向上を強く推進しています。これは、新築はもちろん、中古住宅も対象です。たとえば、2024年は「住宅省エネ2024キャンペーン」という制度で、高断熱仕様の窓や高効率給湯器の導入、断熱改修などに対して補助金が交付されます。住宅ローン減税でも、省エネ性能の高い住宅は控除額が優遇されています。

また、コロナ禍で在宅時間が伸びたこともあってか、ここ数年で急激に家の快適性を求める人も増えたように思います。近年は大規模地震が発生しにくいとされていた地域でも発生していますので、耐震性の向上も喫緊の課題だと言えるでしょう。

2025年からは、すべての新築住宅に省エネ基準への適合が義務づけられます。一定の省エネ性能を有することが「基本」になっていくこれからの時代においては、中古住宅も断熱性能の向上がマストになってくると思います。

性能向上リノベーションとは
  • 中古住宅の断熱性能・気密性能・耐震性能を向上させるリノベーション
  • 断熱性能の基準については、中古住宅の8割以上が現行の基準ですら満たしていない
  • 耐震基準については、2000年5月までに建築された木造住宅(木造在来工法・2階建て以下)のうち9割以上が現行の耐震基準を満たしていない
  • 2025年にはすべての新築住宅に省エネ性能基準適合を義務づけ、中古住宅の断熱性能の向上はマストな時代に

2. 断熱性能・気密性能・耐震性能の向上で中古住宅はこんなに変わる!メリットと効果

性能向上のリノベーションによってもたらされる断熱性・気密性・耐震性の向上は、暮らしの安心や快適さを高めるだけでなく、次のようなメリットや効果も期待できます。

健康に暮らせる

交通事故よりも多いと言われるヒートショックに関連した入浴中の事故は、住まいの中、場所によって温度差が生じることが主な要因とされています。また、夏の熱中症の多くは家の中で起きると言われています。高気密・高断熱の家は、夏涼しく、冬暖かく過ごせるということに加え、住まいの中の温度がどの場所でもほぼ一定になるということも大きなメリットの一つです。

また、疾患状況や個人差は当然ありますが、断熱性能の高い家に転居したことで、喘息やアレルギー、鼻炎や結膜炎などの症状が改善したという事例も少なくありません(図表3)。

図表3:各種疾患の改善率と転居した住宅の断熱性能との関係

断熱等級が高いほど、各疾患において症状の改善が見られる人の割合が増える(出典:「これからのリノベーション 断熱・気密編」P27 近畿大学 岩前研究室/画像出典:性能向上リノベの会

光熱費を削減できる

近年は食品やガソリンなどありとあらゆるものの値段が上がっていますが、電気代が上がっても国の補助金で費用負担を軽減されてきたので、実感が湧かない人も少なくないかと思います。その補助金が終われば、夏や冬の電気代に驚く人も多いかもしれません。

高気密・高断熱にすれば、それだけで夏の暑さや冬の寒さが軽減され、冷暖房効率も上がります。結果として、光熱費も抑えられます(図表4)。

図表4:断熱性能室温・冷暖房費の関係

建築の温熱環境シミュレーションプログラム(AE-Sim/Heat)・エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)Ver2.5.4によるシミュレーション結果(省エネ基準地域区分:6地域)(画像出典:性能向上リノベの会

大規模地震に備えられる

震度7の地震を2度観測した熊本地震では、被害が大きかったエリアにおける旧耐震基準の木造住宅の倒壊・崩壊率は28.2%にのぼります。新耐震基準で建築された木造住宅も、8.7%が倒壊・崩壊しています。

一方、2000年基準で建てられた木造住宅の倒壊・崩壊率は2.2%。そのすべてが、被害要因は現行規定の仕様となっていない接合部や著しい地盤変状、震源や地盤の特性に起因した局所的に大きな地震動による倒壊・崩壊と見られています。つまり、2000年基準の木造住宅は、建物の強度を要因とする倒壊・崩壊がなかったのです。さらに、現行基準の1.5倍の強度を有する「耐震等級3」の木造住宅の倒壊・崩壊は1軒も見られませんでした。

日本で30年以内に発生する可能性が高いとされる大規模地震は「南海トラフ地震」や「首都直下型地震」など複数あります。ちなみに、2016年の熊本地震は30年以内の発生確率が1%未満とされていました。気象庁も「国内では地震が発生しないところも、大きな地震が今後も絶対に起きないところもない」と言っていますが、日本中どこでも地震の脅威がある中、中古住宅の耐震性向上は喫緊の課題だと言えるでしょう。

図表5:住宅性能表示制度創設以降の木造建築物の被害状況

熊本地震の被害が大きかった地域では、現行の耐震基準の木造住宅の倒壊・崩壊率が2.2%(被害要因は建物強度ではないと考えられる)、旧耐震基準の家屋は28.2%、新耐震基準の家屋は8.7%(画像出典:国土交通省「『熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会』報告書のポイント」)

高性能住宅は建物にも優しい

高気密・高断熱の家は、外気温の影響を受けにくいため、結露しにくくなります。結露は人体に有害なカビなどの発生を誘発するだけでなく、建物自体にとっても大敵となります。壁の中で発生する結露は構造部の腐食にもつながり、床下の湿気はシロアリ被害を拡大させるからです。

耐震性を上げることも、地震による建物へのダメージを軽減することに直結します。住宅の性能向上は、建物としての家の寿命にも密接に関わってくると考えられます。

性能向上リノベーションのメリット
  • 健康に暮らせる
  • 光熱費を削減できる
  • 大規模地震に備えられる
  • 建物にも優しい

3. 「性能向上リノベ」で人にも建物にも優しい住まいに

性能向上のリノベーションを行い、断熱性能・気密性能・耐震性能を上げていくことで、人にも建物にも優しい住まいになります。さらに光熱費を削減でき、大規模地震に備えられるなど、将来にわたってメリットを享受しながらリスクを軽減することができます。

それでは、実際に性能向上のリノベーションをしたいと思ったら、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。次回の後編では、具体的な事例を紹介しながら改善のポイントやリノベーションを実施するときの注意点について詳しく説明します。

西宮 貴央 (にしみや たかお)
大学卒業後、新卒でYKK APへ入社。首都圏を中心に大手ハウスメーカー・パワービルダーの新築部門の顧客営業を担当。その後、広域展開する顧客のアカウントマネージャーを担当し、2020年度から同社のリノベーション本部へ異動。2021年度から同本部の性能向上事業企画室の責任者として、工務店ネットワークの「性能向上リノベの会」の立ち上げを推進。2024年度現在は同社リノベーション事業部の住宅省エネ推進室長として、前出団体の責任者だけでなく、多方面に戸建ストック物件の断熱・耐震の性能向上に取り組む。