売るコツ

「中古戸建て・中古マンションは売却前に検査すべき?」専門家対談

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高橋 正典
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内山 博文

不動産売買前の「検査(インスペクション)」(建物検査)の実施について、積極的になれないという売主も多いのではないでしょうか。しかし、売買前の検査は、買主のみならず売主にとってもメリットが大きいものです。

本記事では、(一社)リノベーション協議会会長の内山博文(うちやま ひろふみ)と価値住宅(株)代表の高橋正典(たかはし まさのり)が「中古戸建てや中古マンションの売却前に検査をすべきなのか」をテーマに対談した様子をレポートします。
※本記事は2022年12月に実施した対談をもとに執筆しています。

1. 中古住宅の「検査」に注目が集まっている?

内山博文(以下、内山):不動産売買前の検査(インスペクション)は、買主さんにとっては間違いなく本質的にあるべき仕組みですよね。中古市場的にも活性化や健全化に寄与するものだと思いますが、なかなか広まらない現状について高橋さんはどうお考えですか?

高橋正典(以下、高橋):まだまだ認知されていないということもありますが、不動産会社側にも問題があると思います。インスペクションの役割や重要性について、しっかり説明できる不動産会社は多くないと見ています。手続きも煩雑ですから、説明するのも実施するのも「面倒」と感じている不動産会社が多いというのが実情です。

内山:なるほど。とはいえ、中古住宅流通を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変わりましたよね。検査と保証がセットになったかし(瑕疵)保険に加入できるようになり、税制優遇も大きくなりました。この変化に現場が追いついていないということなのでしょうか。

高橋:ここ数年、不動産価格が高く流通量が多いというのも、検査がおざなりになってしまっている要因の一つだと思います。つまり「検査しなくても売れるから……」ということですよね。

ただ、インスペクションをフックに弊社にお問い合わせいただくお客様も一定数いらっしゃいます。弊社では、インスペクションによって中古住宅の正しい価値を評価したうえで市場に提供し、売主さんのご希望も実現するという考えで売買仲介をしています。最近は一括査定を利用する売主さんも多いですが、不動産会社の言う査定額やその根拠に納得できず「適正な価値を知るには検査したほうがいいの?」「検査すれば高く売れるの?」という疑問や期待を抱えて弊社にいらっしゃる方も見られます。

中古住宅の「検査」に注目が集まっている
  1. 不動産売買前のインスペクションは買主のため市場のための本質的な仕組み
  2. 認知度はいまだ高くない
  3. 「検査をすれば高く売れる?」という疑問や期待を持つ売主も見られる

2.「売却前に検査すべき派」の主張

内山:売却前の検査によって「粗探しされてしまう」と考える売主さんもいらっしゃると思いますが、インスペクションする方はどのような考えをお持ちなのでしょうか?

高橋:2015年頃までは「検査=粗探し」と考える方も少なからずいらっしゃいましたが、検査を嫌がる売主さんは年々減ってきている印象です。日本人って、すごく真面目な方が多いんですよね。「粗を隠して売ろう」と考えている人はほとんどいません。加えて、インスペクションが普及してきたことで「検査しなければ価値はわからない」「検査すればトラブル回避になる」と考える方が増えているように感じます。当初はこのように感じていなかった方にもきちんと説明すれば、9割以上は納得して検査されます。

このような変化が見られるようになった要因としては、中古住宅を売買することが一般的になってきたことが挙げられると思います。新築物件の供給数は年々減っており、ひと昔前までの「新築神話」のようなものも随分なくなりました。加えて、リフォームやリノベーション市場が拡大したことも大きいでしょう。中古住宅に対する印象も、昔と比べればだいぶよくなっているのではないでしょうか。

内山:市場の変化とともに、昨今では中古住宅を適切に評価してくれる不動産会社も増えていますよね。

高橋:そうなんです。当然ながら、インスペクションの重要性をわかっている不動産会社もたくさんあります。そういった不動産会社に仲介してもらって、しっかり検査することで、お住まいの正しい価値がわかるはずです。

そもそも、インスペクションは「粗探し」ではありません。「状況把握」が検査の目的です。買主さんは「わからない」ことが不安なのです。一戸建ての中には、築年数が古くてもいい建物があります。検査によって価値が上がることも十分に考えられるわけです。

「売却前に検査すべき派」の主張
  1. 「検査しなければ価値はわからない」
  2. 「検査すればトラブル回避になる」
  3. 検査によって価値が上がることも十分考えられる

3. 検査せずに売却した時のリスク

内山:2020年には、民法の改正によって、売主さんに課せられる「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変わりました。これまでの「隠れた瑕疵(欠陥・損傷)」ではなく「契約に適合していない点」に対し、買主さんが追完(修繕など)や代金減額、損害賠償、契約解除などを請求できるように改正されています。この改正は売主さんにとって非常に大きいものであり、検査せずに売却した時のリスクを高めるものだと思いますが、高橋さんはどのようにお考えですか?

高橋:おっしゃる通りだと思います。売主さん、買主さんが、建物の状況を把握したうえで売買契約する重要性が高まりましたよね。ただ、改正が新型コロナウイルスの感染拡大に重なってしまったこともあり、現場ではほとんど変化が見られない状況です。本来、率先して認知度の拡大や普及に努めるべき大手不動産会社も、むしろ昨今の不動産価格高騰に甘んじて、保証制度やアフターサポートなどを次々になくしていっている様子も伺えます。売主の責任は重くなる、保証もない、サポートもない……という中、インスペクションの重要性はますます高まっていると感じます。

内山:たまたまここ10数年は不動産価格が高騰し続け、売り手市場が続いていますからね。しかし、これが買い手市場になっていけばいくほど、検査せずに売却することで「選ばれない物件」ということにもなりかねないですよね。

高橋:2023年から、不動産市場も徐々に落ち着きを取り戻していくのではないでしょうか。つまり、売り手市場から買い手市場への転換が始まっていくということです。そうなれば、ますますインスペクションの重要性は高まり、同時に検査せずに売却することのリスクもどんどん明るみになっていくものと考えます。

内山:人口減少や空き家の増加などを考えれば、今後、買い手市場になっていくことは歴然です。物件の「付加価値」という意味でも、検査の実施を検討していただきたいですね。

検査せずに売却した時のリスク
  1. 瑕疵担保責任が契約不適合責任になったことで売主の責任が重くなった
  2. 昨今では不動産会社による保証やサポートも縮小傾向に
  3. 買い手市場になれば検査しないことで「選ばれない」ことにもなりかねない

4. 売却前に検査・かし(瑕疵)保険への加入も考えたい

内山:先ほど、不動産会社による保証やアフターサポートがなくなってきているという話がありましたが、検査のみならず、国土交通大臣指定の保険法人による「かし(瑕疵)保険」を活用した保証の仕組みも売主さんにはご検討いただきたいところですよね。

高橋:売買前に検査する重要性は大きいですが「検査すれば安心」というものでもありません。そういった意味では、検査と保証がセットになったかし(瑕疵)保険はもっと広まってほしいですし、広まっていくべき仕組みです。むしろ、検査や保険加入は中古住宅の売買で“最低限”やるべきだと私は思っています。

図表1:かし(瑕疵)保険の対象となる部分の例
概要図
かし(瑕疵)保険は、万一の補修が必要な場合に高額になりがちな、漏水や建物の構造で重要な部分の不具合を補償する(図:住宅あんしん保証の図を元に中古住宅のミカタ編集部作成)
図表2:かし(瑕疵)保険の仕組み<売主が宅建事業者の場合>
概要図
売主である宅建事業者が倒産したときは、買主自らが住宅瑕疵保険法人に対して保険金を直接請求できる(図:住宅あんしん保証の図を元に中古住宅のミカタ編集部作成)
図表3:かし(瑕疵)保険の仕組み<売主が個人の場合>
概要図
かし(瑕疵)保険は、売主・買主の安心な取引につながる仕組みであるとともに、買主に対して実質的に保証をする会社(不動産仲介会社・検査機関)に対するバックアップの仕組みでもある(図:住宅あんしん保証の図を元に中古住宅のミカタ編集部作成)

内山:先日、築10年弱の木造戸建てを仲介したのですが、お取引後に雨漏りが見つかりまして。まだ新築時のかし(瑕疵)保険による補償が受けられたので救われましたが、築10年未満であっても欠陥がないとは言い切れないんですよね。先ほど話に出たように、中古住宅の取引で契約不適合責任の期間であれば、責任を負わなければならないのは売主さんです。かし(瑕疵)保険は「買主さんの安心」と思われがちですが、売主さんにとっても大きな安心になります。築浅だから安心ということではありません。

高橋:2022年10月からは、中古住宅のかし(瑕疵)保険も住宅紛争処理制度の対象となりました。かし(瑕疵)保険への加入によって、住宅の欠陥のみならず、不動産会社や売主さん、買主さんの間でトラブルが発生した場合の解決のサポートを受けられるようになったということですから、売主さんにとっても買主さんにとってもさらにメリットの大きい仕組みになったと思います。

図表4:住宅紛争処理制度のしくみ
概要図
住宅紛争処理制度では、住宅取引の当事者同士などで紛争が生じた場合、申請手数料(原則1万円)のみで、第三者による住宅専門の裁判外紛争処理が受けられる(図:住宅あんしん保証の図を元に中古住宅のミカタ編集部作成)
売却前に考えたい「かし(瑕疵)保険」
  1. かし(瑕疵)保険とは国土交通大臣指定の保険法人による検査と保証がセットになった保険
  2. 検査だけではわからない欠陥も。保険があればより安心
  3. 住宅紛争処理制度の対象になったことで売主・買主のメリットはさらに大きくなった

5. 不動産売却は「バトン」を買主に渡すこと

内山:最後にこれまでお話しいただいたような検査や保険について熟知した、信頼できる不動産会社(エージェント)を探すコツについて教えていただきつつ、売主さんへのアドバイスをいただけないでしょうか。

高橋:いい不動産会社(エージェント)を探す指標の一つが、まさに「かし(瑕疵)保険に加入できますか?」と聞いてみることです。査定など、不動産会社の担当者やエージェントと初めて会うタイミングでこの質問をして、しっかりと説明や検討をしてくれる不動産会社やエージェントは「安心に取引してもらうこと」に真摯に取り組んでいる可能性が高いです。

そして不動産は、当然ながら住まいです。単なる資産ではありません。自分たちが大切に住んだ家の価値を正しく知り、買主さんにも知ってもらったうえで「バトン」をつなぎ、同様に大切に住んでもらう。これは、売主さんにとっても大きな喜びになるはずです。

住み継ぐ方のことを考えれば、検査や保険への加入は必須だと考えます。加えて、検査や保険は、売主さん自身の安心や物件の付加価値にもなるものです。中古住宅流通を取り巻く変化はもちろん今後の市場や市況を考えれば、検査や保険の重要性はますます高まっていくことでしょう。

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高橋 正典 (たかはし まさのり)
不動産コンサルタント、価値住宅(株)代表取締役。金融機関勤務を経て、都内不動産デベロッパー立ち上げ期に参画し、同社取締役及び関連会社の代表取締役を歴任。エージェント(代理人)型の不動産会社として、2008年に(株)バイヤーズスタイルを設立、代表取締役就任。2016年10月に会社名を価値住宅(株)へ変更。中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる取り組みを全国へ拡げるため、VCネットワーク「売却の窓口®」を運営し、その加盟店は全国へ広がっている。不動産流通の現場を最も知る不動産コンサルタントとして、各種メディア・媒体等においての寄稿やコラム等多数。
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内山 博文 (うちやま ひろふみ)
愛知県出身。不動産デベロッパー、(株)都市デザインシステム(現UDS(株))を経て、2005年に(株)リビタの代表取締役、2009年に同社常務取締役兼事業統括本部長に就任。リノベーションのリーディングカンパニーへと成長させる。同年に(一社)リノベーション住宅推進協議会(現リノベーション協議会)副会長、2013年より同会会長に就任。2016年に不動産・建築の経営や新規事業のコンサルティングを主に行うu.company(株)を設立し独立。同年に不動産ストック活用をトータルでマネジメントするJapan.asset management(株)設立。2019年より(株)エヌ・シー・エヌの社外取締役。2021年よりつくばの中心市街地の活性化を目指す、つくばまちなかデザイン(株)の代表取締役も務める。