家族構成や家族の年齢などによって、適した間取りは変わっていきます。ライフステージごとに住み替えるのも選択肢の一つですが、リフォームによって間取りを変えていくことも可能です。マンションは戸建てに比べて制約は多いものの、リフォームしていくことを見据えて物件を選べば、子どもの成長に合わせたフレキシブルな暮らしが実現します。
この記事では、住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 所長の井上恵子(いのうえ けいこ)が「中古マンション購入+リフォーム」のポイントを解説します。
1. 子どもの成長によって適した間取りはこう変わる!
暮らしに適した間取りは、ライフステージごとに異なります。特に子どもがいる家庭では、子どもの成長に伴い、おおよそ10年でライフスタイルの変化が訪れます。
出産〜幼児期に適した間取り
子どもが小さいときは、産休・育休や時短勤務などで、親の在宅時間が長い家庭も多いと思います。この時期は、家族が一緒に過ごす団らんの場を重視した間取りがおすすめです。
特に、子どもが小さいうちは親子で一緒に寝る家庭も多いでしょうから、広めの寝室は必要ですが、部屋数は必ずしも多くなくていい時期です。
小学校入学以降に適した間取り
小学校の入学を機に学習机を購入する家庭も多いですが、最近はリビング学習を取り入れる家庭も少なくありません。ただ、ランドセルなどの学用品を置くスペースは別途必要になりますので、部屋数や広さに応じて、リビングなどの共用スペースに作るか、子ども部屋を作るかを決めるといいでしょう。
高学年になってくると、個室が欲しいと言う子も多くなります。リビングにスペースの余裕があれば、食事などに使用するダイニングテーブルなどとは別に学習スペースを作るのもいいかもしれません。昼間、子どもが学校に行っている間は、親のテレワークスペースにすることもできますし、キッチンカウンターを学習スペースにすると、料理をしながら勉強を教えたり、コミュニケーションを取ったりしやすくなります。

中学校入学以降に適した間取り
子ども部屋が欲しいと言い始める思春期以降は、一定の家族団らんのスペースも確保したうえで、プライバシーを守れるような間取りが求められます。リビングを通って子ども部屋に行く間取りより、廊下から直接部屋に入れる間取りを希望する子も見られます。
高校生、大学生になると、手が離れる一方で、親は会社での立場が上がっていく年代に差し掛かることで、ストレスや重圧が増えることも。近年ではリモートワークを導入している企業も増えているため、小さくてもいいので、親が一人になれる場所や書斎を作るのもいいかもしれません。
子どもがいるとつい子どものことを優先してしまいますが、親の暮らし方や働き方にも配慮したいところです。
子どもの独立以降に適した間取り
定年退職後や子どもの独立後は、夫婦で豊かなセカンドライフを過ごせる間取りが適しているでしょう。世帯の人数が減ればスペースや部屋数にも余裕がでますので、趣味を楽しむ部屋を作ったり、夫婦が並んで立てるキッチンに改修したりすることを検討してみてもいいでしょう。多目的な空間やゲストルームがあると、子世帯、友人・知人を気兼ねなく呼べるので重宝するはずです。
また、住まいのバリアフリーを考え始めたい時期でもあります。改修時には、手すりの設置や段差の解消なども検討してみましょう。
2. リフォーム前提で中古マンションを選ぶときのポイント
リフォームすることを前提に中古マンションを選ぶときは、次の点に留意しましょう。
間取り変更を伴うリフォームには時間がかかることも
リフォームの規模によって、工期は大きく変わってきます。リフォームを前提に物件を探している人には、何らかの住まいへのこだわりがあるはずです。リフォームの規模は、購入する物件の状況にもよりますが、構造躯体だけ残したスケルトンリフォームの場合は、プランの構築から工事完了まで半年から1年ほどかかるのが一般的でしょう。
ただ、間取り変更といっても、すべてがスケルトンリフォームに該当するわけではありません。たとえば、リビングと引き戸で仕切られた隣の部屋を一つにするような小規模な改修であれば、住みながらリフォームすることも可能です。
新年度前はリフォーム会社や設計事務所も繁忙期にあたるため、希望や理想を実現するためにも、早めに検討を始めるに越したことはないでしょう。
マンションによって「できるリフォーム」「できないリフォーム」は異なる
原則として、どのようなマンションも改修できるのは専有部のみです。マンションの場合、玄関ドアや窓は共用部にあたるため、基本的に区分所有者の一存で改修することはできません。
二重床、二重天井ではないマンションの多くは、水周りの位置を動かすことが難しい傾向にあります。古いマンションは、給排水管を構造体に打ち込んでいる物件もあり、こうした物件は基本的に水周りの場所は動かせません。
また、壁式構造のマンションは、構造上、動かせない壁があります。3階建て以下の低層マンションは多くの場合、壁式構造のため、壁を取り払ったり、動かしたりすることが難しくなります。
物件選びの段階で建築士に相談する
「できるリフォーム」「できないリフォーム」は、管理規約や図面からもある程度は確認できますが、物件選びの段階で建築士に相談して確認してもらったほうが確実でしょう。
リフォーム会社と一口に言っても、建築士が在籍していない会社や、間取り変更などの大がかりなリフォームをほとんど行っていない会社もあります。キッチンなどの設備の交換であれば、どのようなリフォーム会社でもある程度対応できるでしょうが、間取り変更を伴うリフォームを希望するのであれば、建築士事務所の登録をしているリフォーム会社に依頼することをおすすめします。建築士もリフォームを依頼することが前提であれば、喜んで物件選びの段階から助言してくれるはずです。
リフォームでは変えられない部分も重視する
間取りや住宅設備はリフォームで変えられますが、当然ながら、構造や眺望などは変えられません。マンション選びでは、専有部や駅からの距離、価格を重視する人が多いですが、リフォームで変えられない部分もしっかり見ることが大切です。
可変性などリフォームに関することはもちろん、基礎構造や耐震、地盤、省エネ性能などの知見を持つ建築士に購入前に相談すれば、こうした観点からの助言も受けられるはずです。
検査や保険で「安心」を付帯
個人的に、中古マンション選びは、新築マンションを選ぶより難しいことだと思っています。それは、構造や設備がどの程度劣化しているかも、売主がどのように暮らしてきたかもわからないからです。
中古住宅の状態を知るには、検査(インスペクション)が有効です。検査(インスペクション)とは、建物に詳しい専門家や建築士が基礎や外壁のひび割れ、雨漏りによるシミなどや劣化、不具合の有無などを目視や計測によって調査・診断を行うことを指します。
購入前に状態を知っておけば、売主に修繕をお願いしたり、交渉したりすることもできます。あるいは、買主自身が購入後のリフォームに、検査で指摘された箇所の修繕を加えるなど、計画も立てやすくなるでしょう。
<キーワード解説・用語集>
インスペクション<検査(インスペクション)についてもっと詳しく>
中古住宅の「検査(インスペクション)」って何をするの?検査の流れやプロが使う道具を紹介!中古住宅を安心して購入する方法として、予め「瑕疵(かし)保険付き」と表示がある物件を選ぶという方法もあります。それらは既に建築士による「既存住宅売買瑕疵(かし)保険」の検査に合格しており、購入後に瑕疵(かし)が見つかったときの補償がセットでついています。また、購入後にリフォームを行う際も、リフォーム工事瑕疵(かし)保険に対応している工事会社に頼む方法があります。リフォーム実施部分の検査と万が一の瑕疵(かし)に対する補償がセットになり安心です。
このような瑕疵(かし)保険は、中古住宅の購入やリフォーム工事の際に生じる不具合のトラブルに備える仕組みで、消費者の保護を目的としてつくられた保険制度です。ただし、瑕疵(かし)保険では、保険の種類や保険契約に応じて異なる保険期間が定められており、またすべての不具合を補償してくれるわけではないという点には注意が必要です。
<瑕疵(かし)保険についてもっと詳しく>
「瑕疵(かし)保険」ってなに?「瑕疵保険」が必要な理由とは。検査も保険も万能ではありませんが、購入後の安心感は大きく変わってきます。中古マンション購入の際には、これらの制度の活用もぜひ検討してみてください。
3. 子どもの成長にあわせたリフォームによる間取り変更の例
ここでは、一般的なファミリータイプのマンション(3LDK・約70㎡)で、田の字型の間取りを子どもの成長にあわせて変更していく例を紹介します。購入時の家族構成は、夫婦+未就学児2人の4人家族を想定しています。
図1:購入時の間取り

購入時のリフォームプラン例
図2:購入時(子ども就学前)のリフォーム例


子どもが小さいころはベビーカーや外遊び用グッズなどが増え、小学校高学年から中学生になると本格化する習い事や部活動に必要な道具が増えるなど、子育て期には屋外で使うものも含め、モノが最も多い時期です。一般的な間取りのマンションは玄関収納が小さいため、外廊下側の洋室(2)の一部を玄関と続く「土間」にリフォームすると、外で使用する靴以外のものや、家族で使うレジャー用品なども収納できます。
「子どもが小さいうちは子ども部屋はいらない」という場合は、土間に隣接する居室を「納戸」として利用すれば、さらに収納力がアップします。納戸の向かいの洋室(1)は、夫婦の在宅ワークスペースとして活用できます。
リビング隣の洋室(3)は、フレキシブルに使える和室に。昼間は子どもたちのプレイスペースや昼寝のスペースになり、夜は布団を敷いて家族みんなが川の字で就寝できます。
【7〜10年後】子どもが小・中学生になったときのリフォームプラン例
図3:購入から7〜10年後(子どもが小中学生)のリフォーム事例


子どもが小・中学生になったら、上の子はそろそろ個室が欲しくなる年齢です。納戸として利用していた洋室(2)を子ども部屋として使用。和室だった部分をスタディルームにしてリビング学習のスタイルを取るなら、子ども部屋はベッドが入るだけのミニマムなスペースでも成立します。
スタディルームは、日中、子どもが学校に行っている間は夫婦のワークスペースに。引き戸でリビングと仕切れるようにしておけば、勉強や仕事にも集中できるでしょう。小学生の下の子どもはまだ個室を必要としないため、勉強はスタディルームで行い、洋室(1)で親と一緒に就寝します。
【15〜20年後】子どもが独立した後のリフォーム事例
図4:購入から15〜20年後(子ども独立後)のリフォーム事例


子どもが独立したら、子ども部屋として使っていた洋室(2)を再び納戸に。退職後はスタディルームも不要になりますので、思い切って間仕切りを取り払えば、リビングは22.8畳の大空間となります。自宅で教室を開いたり、ボランティア仲間や友人を招いたりすることもできるでしょう。
おうち時間が増え、友人や子世帯を招いて料理を振る舞う機会も増えるため、大勢で料理ができるアイランドキッチンを採用するのもおすすめです。
4. 間取り変更を見越した中古マンション選び・リフォームのポイント
子どもの成長に合わせて間取りを変更していくことを想定している場合は、マンションの可変性や形状なども見ておくようにしましょう。
間口は広いほうが間取り変更の選択肢は増える
一般的に間口が広い住戸は大きな窓を設けられるため、明るく開放的な住戸になります。窓が多く取れれば、他の間取りに比べて風も通りやすくなります。マンションの間口とは、バルコニーなど大きな窓がある側面の幅です。マンションの場合、間口が広いほど、基本的に構造壁や柱間のスパンが長く取れていることになり、その分間取り変更、リフォームがしやすいでしょう。一般的なマンションの間口は6m前後で、8mを超えると「ワイドスパン」と言われます。
一方で、間口が広く窓の面積も広いと、断熱性が悪くなることがあります。 鉄筋コンクリートや断熱材を含む壁と比べると、窓ガラスは熱の影響を受けやすいため、外気の影響もより受けやすくなるものです。 そのため断熱性能の低いサッシを使用していると、冷・暖房費などがかさみ、ランニングコストが高くなる可能性がある点には注意が必要です。もし既存の窓の断熱性が期待できない場合は、既存窓の内側にもう一枚窓を設ける「二重窓」にするリフォームがおすすめです。内窓は専有部分のリフォームになるため基本的にマンションでも可能ですが、念のため、マンションの管理規約などで事前に確認しておきましょう。

二重天井、二重床ならリフォームの自由度UP
間取り変更のリフォームの自由度が高いのは二重天井、二重床になっているマンションです。二重天井とは、天井仕上げの裏に空間があること、二重床とはフローリングなどの床仕上げ材の下に空間がある造りをいいます。この空間には電気配線や給排水管などが納まっており、それらの空間があることで配管類のルートを変更しやすく、間取り変更の自由度が高くなります。特に、将来キッチンや浴室、トイレなど水周りの位置を変える可能性がある場合は必ずチェックしてください。
畳スペースは意外と便利
最近は「和室はいらない」という人も増えてきましたが、子どもが小さいうちは、和室があるとお昼寝スペースや遊ぶスペースとして役立ちます。子どもが大きくなった後も、家事スペースや客間として使うことができます。和室は、必ずしも6畳でなければならないわけではありません。たとえばリビングの一角に3畳ほどの畳スペースを設けるだけでも重宝するものです。
5. 「中古マンション+リフォーム」でライフステージに合ったフレキシブルな暮らしを
住まいを購入する際は、購入時の家族構成や年齢、ライフスタイルを重視しがちですが、家族の成長に応じて適した部屋数や居室の広さ、収納量は変わっていくものです。リフォームをしながら家族全員が快適に住んでいくことを前提に中古マンションを選べば、物件の選択肢が広がり、ライフステージに合ったフレキシブルな暮らしが実現するでしょう。
