売るコツ

これからの中古住宅市場はどうなる?【前編】まずは近年の中古マンション・中古戸建ての市況を確認

亀梨 奈美

不動産には「定価」がないため、売却時点の市況が売値に大きく影響します。中古住宅の価格は、2013年の「アベノミクス」や「黒田バズーカ」などの政策によってもたらされた金利低下を背景に、10年以上経った今も高騰を続けています。しかし、2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除。7月末には、政策金利を0.25%にする方針を示しました。中長期的に、日本の金利はさらに上がっていくものと考えられます。インフレや円安など、不動産市場に大きく影響する事象も見られる今、不動産の売り時に悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、不動産ジャーナリストの亀梨奈美(かめなし なみ)が、前編・後編に分けて、全国の中古住宅市場の現状と今後について解説します。前編の本記事では、中古マンション・中古戸建ての市況を解説します。

1. 中古戸建て市場の状況は?

中古戸建ては、10年以上ほぼ一貫して価格が高騰し続けています。特にコロナ禍以降は在宅時間が増えたこともあり、マンションと比べてのびのびと暮らせる一戸建ての需要が高まりました。

首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)

2024年6月の首都圏における中古戸建ての平均成約価格は「4,016万円」です。2014年の平均価格は、3,000万円弱。この10年で1.4倍ほどに高騰しています。

2020年4月頃には、新型コロナウイルス感染拡大に伴う一度目の緊急事態宣言が発令されたため、一時的に大きく価格を落としました。しかし、その後は働き方・暮らし方の変化による住み替え需要の拡大もあって、停滞気味だった価格高騰が加速。インフレなどの影響を受けて2023年末からもう一段、価格が上がっています。

図表1:首都圏中古戸建住宅成約価格

首都圏の中古戸建ての価格は10年以上ほぼ一貫して高騰している(出典:(公財)東日本不動産流通機構

近畿圏(大阪府・兵庫県・京都府・滋賀県・奈良県・和歌山県)

2024年6月の近畿圏における中古戸建ての平均成約価格は「2,296万円」でした。この10年間の上昇率は1.2倍ほどと首都圏より上昇幅は小さいですが、首都圏と同様にコロナ禍以降は上昇率が上がっています。一方、首都圏は2023年以降にもう一段の上昇が見られたものの、近畿圏は2023年以降も同程度の傾きで価格が推移しています。

図表2:近畿圏中古戸建住宅成約価格

近畿圏の中古戸建てもコロナ禍以降、価格の上昇が続いている(図:(公社)近畿圏不動産流通機構のデータを基に筆者作成)

中部圏(富山県・石川県・福井県・岐阜県・静岡県・愛知県・三重県)

2024年6月の中部圏における中古戸建ての平均成約価格は「2,209万円」。この10年間の上昇率は1.2倍ほどで、近畿圏と同等です。コロナ禍以降は2022年始め頃をピークに下落傾向にありましたが、2024年度に入ってから再び上昇基調が見られます。

図表3:中部圏中古戸建住宅成約価格

中部圏の中古戸建てにおいてはコロナ禍以降、2022年始め頃をピークに下落傾向にあったが再び上昇基調に(図:(公社)中部圏不動産流通機構のデータを基に筆者作成)

在庫物件は全国的に増加

コロナ禍では外出が制限されたこともあって、広く、騒音トラブルも起こりにくい一戸建ての価値が見直されました。2024年6月現在も価格の下落は見られていませんが、コロナ禍で高まった戸建てニーズは一巡し、2021年頃から在庫数が激増しています。在庫物件の価格は2022年後半頃をピークに下がり始めていることから、成約時の価格も下落に転じておかしくない状況です。

図表4:首都圏中古戸建住宅在庫件数・在庫価格の推移

首都圏の中古戸建ての在庫物件は全国的に増加しており、価格は下落傾向にある(画像出典:(公財)東日本不動産流通機構

成約数がピークを超えても価格が下がらない理由は?

在庫物件の数が増加しているのは、成約数が減少しているためです。不動産の価格は、基本的に需要と供給のバランスで決まります。供給量が増え、需要が減れば、価格は下落に転じるのが一般的です。

しかし、実態としては、成約件数が減っているにもかかわらず成約価格は上がっています。首都圏でいえば、2022年度の成約件数は前年度の9割以下である一方で、価格は7%以上上昇しました。

首都圏中古戸建ての成約件数と成約価格の推移

年度成約件数価格
2019年13,080件(+1.6%)3,117万円(+0.2%)
2020年14,102件(+9.0%)3,199万円(+2.3%)
2021年14,732件(+4.5%)3,524万円(+10.2%)
2022年13,132件(-10.9%)3,801万円(+7.9%)
2023年12,160件(+0.2%)3,873万円(+1.9%)
出典:(公財)東日本不動産流通機構
※かっこ内は前年比

在庫物件が積み上げられている現在も中古戸建ての価格が下がっていない理由は、インフレやそれによる新築一戸建て価格の高騰に引っ張られているとともに、東京23区や駅からの徒歩分数が少ないなど、価格の高い好立地の中古戸建ての成約件数が増えていることによるものと推察されます。たとえば、レインズにおける都心5区+東京23区南部(千代田区、中央区、港区、新宿区、品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区)の2024年7月末執筆時点での直近1年間の取引情報件数は、徒歩15分超のものは265件ですが、徒歩10分以内のものは1,773件と約6.7倍にのぼります。

中古戸建て市場の状況は?
  • 全国的に価格は横ばい〜高騰傾向にある
  • 成約数は減少し、在庫数が増加
  • 価格が落ちない理由はインフレや好立地の物件の成約比率が高まっているから

2. 中古マンション市場の状況は?

中古マンションは、中古戸建て以上に価格が高騰しています。コロナ禍で高まった住み替え需要が一巡したと見られる今も、上昇率はほぼ変わっていません。

首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)

2024年6月の首都圏における中古マンションの平均成約平米単価は「77.95万円/㎡」。60㎡のマンションであれば、平均価格は4,600万円〜4,700万円ほどです。中古戸建てと同様に高騰が続いていますが、この10年間の上昇率は約1.9倍と中古戸建てを凌駕しています。

図表5:首都圏中古マンション成約平米単価

10年間の中古マンション価格の上昇率は中古戸建てを凌駕する(画像出典:(公財)東日本不動産流通機構

近畿圏(大阪府・兵庫県・京都府・滋賀県・奈良県・和歌山県)

2024年6月の近畿圏における中古マンションの平均成約平米単価は「44.25万円/㎡」でした。この10年の上昇率は1.7倍ほどと、わずかながら首都圏に劣ります。いずれの地域にも共通しますが、中古戸建てのように価格の上昇が停滞したり、落ちたりする時期はほぼなく、2013年から一貫して価格は上昇傾向を維持しています。

図表6:近畿圏中古マンション成約平米単価

10年以上にわたりほぼ一貫して価格が上昇している(図:(公社)近畿圏不動産流通機構のデータを基に筆者作成)

中部圏(富山県・石川県・福井県・岐阜県・静岡県・愛知県・三重県)

2024年6月の中部圏における中古マンションの平均成約平米単価は「31.42万円/㎡」。10年間の上昇率は1.5倍ほどです。首都圏、近畿圏と比べると価格の変動が大きいですが、中部圏も一貫して上昇傾向にあることは変わりません。

図表7:中部圏中古マンション成約平米単価

10年間の中部圏における中古マンション成約価格の上昇率は1.5倍ほど(図:(公社)中部圏不動産流通機構のデータを基に筆者作成)

なぜ戸建てよりマンションのほうが価格は上がっているの?

いずれの地域も、中古マンションの上昇率は中古戸建てを上回っています。コロナ禍以降は中古マンションも在庫物件数が増加したものの、中古戸建てほど増えておらず、在庫物件の価格も横ばいを維持しています。

図表8:首都圏中古マンション在庫平米単価

中古戸建てのような在庫物件価格の急落は見られない(画像出典:(公財)東日本不動産流通機構

マンションは戸建てと比べると総じて立地がよく、コロナ禍で高まった需要が一巡した後もインフレや円安が後押しし、高い上昇率を維持しています。共働きのパワーカップルや富裕層、国内外の投資家の需要が旺盛なことも、価格が落ちていない一因と考えられます。

平均価格は高騰するも、成約数は減少

高い上昇率を維持しているとは言え、中古マンションも成約件数はピークを超えています。先述の通り、市場原理から言えば需要が減れば価格は下がるのが自然です。成約数が減少傾向にあるにもかかわらず価格が伸びているのは、成約物件のうち高価格帯の物件が占める割合が高まっていることによるものと見られます。高価格帯の物件の価格がさらに上がっているということもあるでしょう。

首都圏では、1億円以上の高価格帯の中古マンションの成約件数と全物件に占めるその割合が増えており、特に2022年以降はその伸びが顕著になっています。中でも東京都港区や江東区などタワーマンションが多い地域では、成約数に占めるタワーマンションの割合が4割を超える月があるというデータもあります。

図表9:首都圏の1億円以上の中古マンション成約件数

首都圏では1億円以上の中古マンションの成約件数とその割合が年々増加(画像出典:(公財)東日本不動産流通機構のデータを基に筆者作成)
中古マンション市場の状況は?
  • 中古戸建て以上に価格が高騰
  • 成約数は減少傾向にあるが富裕層や国内外の投資家の需要が高いため価格が落ちていない
  • 高価格帯のマンションやタワーマンションの成約比率が高まっている

3. 「売れる物件」と「売れない物件」の2極化が進行

中古戸建て、中古マンションともに高騰傾向にありますが、いずれも在庫物件の数は増加しています。在庫が増えているにもかかわらず価格が上がっている理由は、成約物件のうち好立地の物件や高価格帯の物件が占める割合が上がっているからです。逆に言えば、条件の悪い不動産は売れにくくなっているとも言えるでしょう。記事後編では、こうした状況を受け、不動産市場がこれからどうなっていくかを考察します。

亀梨 奈美 (かめなし なみ)
大手不動産会社退社後、不動産ジャーナリストとして独立。2020年には「わかりにくい不動産を初心者にもわかりやすく」をモットーに、不動産を“伝える”ことに特化した(株)realwaveを設立。住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。