中古戸建てを購入するにあたって、構造の劣化や耐震性が気になる人も少なくないでしょう。「安心」のために検査(インスペクション)を実施することもできますが、検査(インスペクション)にパスしたからといって、必ずしも構造に問題がないというわけではありません。
本記事では、購入時に検査(インスペクション)を実施したにもかかわらず、引渡し後にバルコニーが崩落した一戸建ての事例を価値住宅の高橋 正典(たかはし まさのり)が紹介します。
1. バルコニーが崩落したのは新耐震基準の一戸建て
今回紹介するバルコニーが崩落した一戸建ては、購入当時、築31年。新耐震基準で建てられた東京・世田谷区の木造2階建ての家屋です。
購入時にかし(瑕疵)保険に加入
この物件が売主さんから買主さんに引き渡されたのは、2014年です。まだ、かし(瑕疵)保険の加入が一般的ではない頃でしたが、当時から弊社ではかし(瑕疵)保険の加入を推奨しており、実際にこの物件も購入時に5年間のかし(瑕疵)保険に加入しました。
かし(瑕疵)保険の加入にあたっては予め検査が必須ですから、引渡し前には検査は実施済みでした。
<かし(瑕疵)保険についてもっと詳しく>
中古戸建て・中古マンションの売買や保有時のリスクを回避する「保険」や「保証」どんなものがある?購入から2年半後にバルコニーが崩落
バルコニーが崩落したのは、引渡しから約2年半後のことです。なんらかの予兆や見た目の変化はあったのかもしれませんが、誰も気づくことなく突然、崩落したとのこと。手すりや外壁の一部が欠落したのではなく、バルコニーの床(軒天)が崩落しました。
1階の窓ガラスも破損し、サッシ枠が傷ついて歪んでしまいました。このまま放置すれば1階、2階とも雨水が建物の中に浸入する可能性が高い状態だったので、早急に修繕を実施。修繕費については、かし(瑕疵)保険の保険期間内であり、その原因が防水部分のかし(瑕疵)だったため、保険金でまかなうことができました。
バルコニー崩落の要因は?
一般的にバルコニーの崩落の原因には床や笠木、外壁との接合部などの防水施工が十分でない、あるいは経年により歪んだり劣化した建物の中に雨水が浸入して腐食した可能性などが考えられます。
今回の物件は、防水施工が不十分な箇所があり、内部に雨水が浸入して崩落したものでした(経年劣化による場合は、かし(瑕疵)保険の補償対象とはなりません)。
2. 検査(インスペクション)は「絶対」ではない
「検査(インスペクション)済みの物件なのになぜバルコニーが崩落してしまったの?」と疑問に思うかもしれませんが、検査は絶対ではありません。
検査(インスペクション)は「非破壊検査」
かし(瑕疵)保険加入前の検査(インスペクション)は非破壊検査です。目視や触診、機材を用いた計測によって検査しますが、壁を剥がして中まで見るということはしません。そのため、不具合の有無や劣化状況を調べるにはどうしても限界があります。
検査時には指摘事項が出て修繕していた
中古住宅において、かし(瑕疵)保険に加入する前の瑕疵保険検査では約7割の物件に指摘事項が出るというデータがあります。この物件も検査時に指摘事項が出ており、売主さんの負担で補修をしてもらいました。加えて、検査会社から今後もバルコニーのメンテナンスが必要なことと早期の防水対策の必要性について助言されていたため、そのことも買主さんには伝えていました。
メンテナンスや修繕を実施するかどうかは買主次第
ただおそらく、購入後に十分なメンテナンスが実施されなかったのでしょう。一定の基準を満たせば、かし(瑕疵)保険には加入できます。検査(インスペクション)をパスしたうえで「+α」の修繕やメンテナンスをするかどうかは買主次第です。仲介会社や検査機関、保険会社がそれを強要することはできません。
検査(インスペクション)は、人間ドッグのようなものです。「A(良好)」ではなく「B」や「C」の判定だったとしても再検査にならないこともあります。しかし、翌年や翌々年に悪化しないことが保証されているわけではないことに注意しましょう。
3. 検査(インスペクション)とセットで「かし保険」が必要
この事例からわかることは、検査(インスペクション)だけでは不十分だということです。検査が絶対ではないからこそ、引渡し後の「安心」「安全」を担保するには検査とセットでかし(瑕疵)保険に加入する必要があります。
「契約不適合責任」は3ヶ月が一般的
今回の売買取引では、契約時の特約で「契約不適合責任(当時は「瑕疵担保責任」としていました)」は免責になっていました。契約不適合責任とは、引渡した物件が契約内容に適合しないものであるときに、売主が買主に対して負う責任です。
<キーワード解説・用語集>
契約不適合責任<契約不適合責任についてもっと詳しく>
民法の改正で売主の負担がUP!?リスクを回避する方法を専門家が伝授免責でなかったとしても、契約不適合責任の期間は引渡しから3ヶ月となるのが一般的です。今回のように築30年を超える一戸建てだと、免責になることも少なくありません。契約不適合が免責ということは、引渡し後、建物になんらかの不具合が出ても、売主さんに責任を追及することは一切できず、買主が自らの負担で修繕等の対応をしなければならないということです。
かし(瑕疵)保険の期間は最長5年
今回のケースは「1年」や「2年」ではなく「5年」のかし(瑕疵)保険に加入していたことがポイントになったと思います。バルコニーが崩落したのは引渡しから2年半後ですから、1年や2年の保険期間だったら保険金が支払われることはありませんでした。
別の事例では、購入から4年11ヶ月後に雨漏りが生じてかし(瑕疵)が発覚したケースもあります。保険期間が「2年」と「5年」で支払う保険料の差額はわずか数万円程度です。もちろん、何もないに越したことはありませんが、弊社では基本的に5年の保険期間での加入をおすすめしています。
4. 検査(インスペクション)の目的は「安心」だけにあらず
検査(インスペクション)は、それだけで「安心」に結びつくものではなく、修繕すべき箇所を知り、その費用を把握するためのものでもあります。
資金計画の段階で修繕・メンテナンス費用を想定しておくことが大切
今でこそ、築30年以上の一戸建てであれば大幅に改修してから住む人が増えてきましたが、この物件の引渡しは2014年。当時は今ほど中古戸建てを購入することが主流ではなかったため、今と比べると修繕に対する意識が低かったと言えるでしょう。現に買主さんは設備の交換には費用を割いたものの、修繕やメンテナンスの予算を組んでいませんでした。
本来であれば、資金計画や物件選びの段階で一定の修繕・メンテナンス費用がかかることを覚悟しておくべきでしょう。中古住宅を購入する時には、取得費に加え修繕費を合わせた総額で検討すべきだと思います。
検査(インスペクション)は修繕・メンテナンス費を知るためのものでもある
見た目だけでは、どれくらいの修繕費用がかかるかわかりません。購入前に取得費用とともに修繕費用を見積もるためにも、検査(インスペクション)の実施は有効な手段です。
検査は安心のためでもありますが、購入時、あるいは将来的なメンテナンス費・修繕費・リノベーション費の概算を知るためにも有効です。
住まいも「定期健診」を受けるべき
人間ドッグも一生のうちに1回受ければいいというものではないように、住宅も定期的に検査(インスペクション)を受けるべきだと思います。今年と来年でコンディションが変わることは十分にありますし、ここまで述べてきた通り、検査に絶対はありません。
新築住宅にはメーカーの保証として1年点検、2年点検、5年点検……がありますが、中古住宅には基本的に定期点検がありません。購入時の検査で指摘があった場合は特に「定期健診」が必要だと思います。
私はよく、不動産を購入する人に「買うは一瞬、住むは一生」と話します。住宅の購入を「ゴール」のように捉えてしまう人も少なくありませんが、実は購入が「スタート」なのです。
5. 「かし(瑕疵)保険」への加入で、万一の事故に補償を
中古住宅購入前の検査(インスペクション)の実施やかし(瑕疵)保険への加入は必須であると私は考えています。しかし、検査は引渡し前に実施しなければならないため、売主さんの承諾が不可欠です。買主の一存でできないことから、不動産会社選びは慎重に行うべきでしょう。
かし(瑕疵)保険について知らない不動産会社も少なくない現状
実は、かし(瑕疵)保険のことを深く知らない不動産会社も少なくありません。
引渡し前に申し込まなければならないとなると、かし(瑕疵)保険への加入を希望する買主は、必ず契約前に売主や売主の仲介会社にその旨を伝える必要があります。したがってその仲介を行う不動産会社選びが非常に重要なポイントになると言えるでしょう。
最近では検査やかし(瑕疵)保険加入を積極的に提案する不動産会社も少しずつ増え始めています。ポータルサイトなどでの「物件探し」からマイホームの購入をスタートする人が多いでしょうが、中古戸建ての購入を検討するなら「不動産会社選び」から始めることも検討してほしいと思います。
6. 検査(インスペクション)やかし(瑕疵)保険は「安心」とともに「安全」に暮らすためのもの
検査(インスペクション)やかし(瑕疵)保険への加入は中古戸建てを購入するのであれば必ず検討してほしいものですが、検査を実施したり保険に加入したりすることで安心感は高まりますが、それだけでは安全とは言い切れません。安全に暮らすためには、検査結果を踏まえたうえで、メンテナンスや修繕も同時に検討する必要があるでしょう。