不動産仲介・リノベーション・お金のプロ5人が、「なかなか話せない」と言う【中古住宅を購入する際に必ずやるべきこと】について本音で議論。石井健(ブルースタジオ)、内山博文(リノベーション協議会)、高橋正典(価値住宅)、田中歩(あゆみリアルティーサービス)、畑中学(武蔵野不動産相談室)の3時間にわたる座談会から抽出した10の「極意」を紹介します。
1. まず「何のために買うのか」「どんな暮らしをしたいのか」をとことん話すべし
マイホーム購入のファーストステップを「物件探し」と考えている人も多いのではないでしょうか?しかし、情報収集をしたり、不動産会社に問い合わせたりする前に、まずは購入する目的やマイホームに求めることを明確にすることが優先されると専門家の皆さんは言います。
田中:
「何のために買うのか」「どんな暮らしをしたいのか」が明確になっていない状態で「安いから」「金利が低いから」といった理由だけでマイホームを購入してしまうと、適切な情報を収集することはできません。
畑中:
実際に動く前に、家族の中で希望条件や優先順位のすり合わせをすることが大事ですよね。ご夫婦やご家族の間で、思い描く未来に多少のズレがあることも少なくありません。
石井:
初めに家を購入する理由を聞くと、最も多い回答は「なんとなく」です。しかし、話を聞いていくと「賃貸住宅に住み続けるより購入したほうがお得だから」「落ち着いて暮らしたいから」といった金銭面や感情面の理由もでてきます。つまり、話をしていく中で住まいを購入する目的や理由が整理されていくのです。
マイホーム探しは、自分探しであり、家族と本音で向き合うための時間です。ぜひ、家族で時間を取って話し合いましょう。
2. 物件探しの前に「資金計画」。「買える金額」と「出していい金額」は違う
専門家の皆さんは「資金計画も、物件探しに先立ってしておくべきことの一つ」だと言います。資金計画とは、自己資金をいくら入れて、どれくらいの住宅ローンを組むかということ。住宅ローンの返済は30年以上など長期にわたるため、将来を見据えて計画する必要があります。
畑中:
資金や住宅ローンの話は物件探しをしながら進めていく人が多いと思いますが、本来は情報収集と同じくらいの段階、最初の方で考えておきたいことです。一定の知識を持っている担当者と話すことで、自分がどれくらいの物件を買えるのかもわかります。
高橋:
「買える額」と「出していい額」は違うので、本来であればライフプランシミュレーションをしっかりすべきでしょうね。
田中:
物件選びに加え、資金計画もロジックだけでは判断できないんですよね。住まいにいくらかけられるかを考えるにあたっては、人生全体を見通さなければなりません。
石井:
最初にある程度、予算を明確にしておかなければ、不動産会社も真剣には対応してくれないことも。最低限、月々にいくら貯めて、いくら支払えるかは考えておくといいでしょう。
物件探しの前に、まずはこれからのライフプランを立てたり、資金のシミュレーションをしておくことをおすすめします。
3. 問い合わせる前に「業界の仕組み」を知り、相性のいいパートナー探しを
不動産ポータルサイトなどを見て、気に入った物件を掲載している不動産会社に問い合わせようと考えている方も少なくないでしょう。けれども、専門家の皆さんは、不動産会社に問い合わせる前には、マイホームの希望や購入する目的、資金計画などを明確にすることに加え、「不動産業界の仕組み」を知っておくべきだと語ります。
高橋:
不動産ポータルサイトなどに掲載している物件に問い合わせをすると、必然的にその物件を掲載している不動産会社に仲介を依頼することになってしまいます。「物件選び」から入ってしまうと、不動産会社が選べなくなってしまう点に注意が必要です。
石井:
業界の仕組みを知っておくことが大切ですよね。どの不動産会社も、ビジネスをしています。日本の不動産市場では物件情報の囲い込みといったことも見られますが、このような行為を「警戒」するよりは、業界構造を知り「理解して判断する」ことが大事ではないでしょうか。そしてパートナー(不動産会社・担当者)探しにおいては「相性」も大切です。自分にとって居心地のいい関係性を見極めましょう。
自分に合ったパートナーや求める物件に巡り合うためにも、業界の在り方や現在の市場がこうなっている背景を学んでおきましょう。
<業界の仕組みについてもっと詳しく>
中古物件の見学で見るべきなのは物件だけではない?不動産会社選びと聞くべきこと、物件を内覧するときの心構えとは4. 内見は「練習」。実践しながら「条件」と「心の動き」をすり合わせる
不動産の購入を検討する時には、実際の物件を見に行く「内見」をします。内見は手間もかかりますが、専門家の皆さんは、マイホームに求めることを明確にするためにも、練習だと思っていろいろな物件を見に行くべきだと言います。
石井:
私はつねづね、お客様に「内見は練習です」と伝えています。「頭で考えていること」と「感情」は、必ずしも連動しません。Web上や机上で物件情報を見ているのと、実際に物件を見にいくのとでは、心の動き方が大きく異なります。心を動かしていくうちに、自分が欲しいもの、買うべきものが明確になってくるということもあるでしょう。
田中:
もちろん、感情だけでは家は買えません。しかし、自分の求める実利的な条件として「ロジック」を持ったうえで内見し、感情を動かす“練習”を重ねていくと、ロジックと感情がつながっていき、将来像やファイナンスの面などもすっと見えてくるはずです。
専門家の皆さんによると、この「ロジック」と「感情」がつながるには一定の時間がかかるそう。内見を重ねて自分の心の動きを感じる練習をしてみましょう。
5. 3ヶ月探して見つからなければ、求める物件はないものと考え直せ
専門家の皆さんは「さまざまな物件を見に行くべきとは言え、見れば見るほどいいというわけではない」とも言います。
石井:
3ヶ月間、内見を続け、いいと思える物件が見つからなかった場合は「買う」という決断そのものを見直したほうがいいと考えます。
畑中:
中には半年、1年……と物件探しを続けている人もいます。ただ、3ヶ月探してなかったら、希望の物件には巡り会えないと思います。少し期間を置いてみるか、希望と目的を明確にする作業に戻ったほうがいいでしょう。
内山:
丁寧に長い時間をかけて向き合ってくれる不動産会社ばかりではないということも知っておくべきでしょう。自分の望む物件に出会うためにも、物件探しの前に不動産会社や担当者を選ぶということが改めて大切になってきますね。
3ヶ月以上、内見を続けたにもかかわらず「どんな物件にも心が惹かれない」「購入後のイメージがわかない」と感じる時には、一度立ち止まってみることも大切なようです。
6. マンションなら「管理」と「修繕計画」を必ずチェックすべし
「マンションは管理を買え」という言葉がありますが、築後40年以上のマンションも増えている今、購入時に管理状況や修繕計画、修繕積立金額を確認する重要性は非常に高いと言えます。
石井:
ほとんどのマンションが十分な金額を積み立てられていません。私はよく「最低限、エレベーターが故障した場合に買い替えられる分の金額が積み立てられているかを見てください」と伝えますが、この目安は概ね1,500万円です。もちろんこの金額だけでなく、定期的に修繕を実施してきた実績も必要です。
田中:
2021年に長期修繕計画作成ガイドラインが改訂され、長期修繕積立金の目安額が引き上げられました。これに伴い、今後、少なくないマンションが修繕積立金を引き上げる可能性があります。管理費や修繕積立金は、毎月、徴収される費用です。修繕積立金が引き上げられると、住宅ローンの返済が厳しくなってしまう恐れもあります。
マンションの管理への注目度は今後ますます高まると予想され「管理状況の良さ」が資産価値に直結するようになる日も近いと考えられます。購入を検討するときには、建物に詳しい会社(建設業やリノベーション事業を行う会社など)に相談することも含め、管理状況や修繕計画をしっかり確認しましょう。
7. 戸建てなら「かし(瑕疵)保険」。「検査希望」は申込書にも記載せよ
中古住宅の購入を検討する時には「見えない部分に劣化がないだろうか」「住んでから不具合が発覚したらどうしよう」といった不安が少なからずあるのではないでしょうか。こうした不安や住んでからの修繕に備えるには「検査(インスペクション)」や「かし(瑕疵)保険」が有効です。
田中:
購入申込みのときには、必ず申込書に「検査(インスペクション)の実施を希望する」ことを記載しています。ちょっと前までは嫌がる売主さんも多かったですが、最近では快く受け入れてもらえるケースが多いですね。
<検査(インスペクション)についてもっと詳しく>
中古戸建て・中古マンションの 「検査」「インスペクション」って?何を検査する?石井:
もし購入前の検査を受け入れてもらえなかったら、引渡し後3ヶ月以内に実施するのがおすすめです。売主に「契約不適合責任」が課せられるのが、多くの場合、引渡しから3ヶ月間だからです。
<契約不適合責任についてもっと詳しく>
中古住宅の「賢い」買い方・売り方とは?後悔しないための5つのポイント:2-(2)買主・売主それぞれの責任を知る【契約不適合責任について知る】高橋:
中古住宅を探す以上、一定の建物の知識がある不動産会社でないといい買い物はできないと思います。「検査(インスペクション)」や「かし(瑕疵)保険」の話を振って、しっかり語れるかどうかは、不動産会社を見極めるポイントの一つになるでしょう。戸建ては特に必要だと思います。
内山:
かし(瑕疵)保険も検査(インスペクション)も、実施できるかどうかは「知っているかどうか」にかかっているといっても過言ではありませんよね。そのような仕組みを提案してくれる不動産会社ばかりではありませんから。
専門家の皆さんが絶対に必要だと語る「かし(瑕疵)保険」や「検査(インスペクション)」について知り、特に戸建ての購入を検討する際には有効に活用しましょう。
<かし(瑕疵)保険についてもっと詳しく>
「かし(瑕疵)保険付き中古物件」とは?保証とは何が違うの?」8. 親の贈与、もらえるものはもらっておけ。恐れずに聞くことが大事
住宅の購入に際して、親から援助を受ける人も少なくありません。親や祖父母などの直系尊属からの住宅資金の贈与は、省エネ住宅等の質の高い住宅は1,000万円まで、それ以外の住宅は500万円まで贈与税が非課税となります(2023年12月31日まで、延長の可能性あり)。
内山:
ご両親に相談せずに物件探しをスタートする人も多いですが、私は最初に親から資金援助を受けられるかどうか確認し、もらえるものはもらっておきましょうという話をしています。
石井:
子どもはもらえないと思っていても、意外と「(住宅購入資金を)出したい」と考えている親は多いんですよね。
マイホームを購入する前に、贈与の有無を含め、両親の意向や希望も聞いておくことをおすすめします。
9. 住宅ローンは「大丈夫だろう」で決めない。事前相談も怠るな
ここ数年、低金利かつ不動産価格の高騰が続いています。しかし、永久にこのままとは限りません。月々の返済額や総返済額を見ると、金利の低い変動型に魅力を感じるかもしれませんが、変動型の場合、金利上昇リスクがあることを忘れてはいけません。
田中:
購入後に資産価値がどうなっていくかを気にする人は割と多いのですが、金利については楽観視している人が多いように感じます。「まぁ大丈夫だろう」とネット銀行を利用する人も少なくありませんが、ネット銀行は対面相談ができないケースが多く、金利上昇リスクなどについて理解しないまま契約するのは、将来的に金利が上がった時などに返せなくなる危険があります。
石井:
パートナー選びにおいても住宅ローンの相談ができる会社かどうかは大きい。「住宅ローンについてどこまで一緒に考えてくれるか」は確認しましょう。
内山:
住宅ローンは契約前に事前審査を完了させておくなど、段取りやフローも大切。最初にお金の話ができるパートナーを探せれば心強いですよね。
将来的な金利上昇については楽観視せず、自分に合った住宅ローンをしっかりと見極めるためにも、早めの相談が鍵となるようです。
10. 離婚、事故、病気…「万一」があっても対処する覚悟とリスク自認を
住宅ローンの多くは、団体信用生命保険(団信)の加入が必須条件となっており、万一のリスクに備える形になっています。近年では、がんや3大疾病、所定の身体障がい状態なども保障される団信も見られますが、「万一」のリスクは病気や怪我だけではありません。
石井:
住宅ローンの返済が続けられなくなるのは、なんらかの「事故」が起こったときです。事故とは、怪我や病気とともに「離婚」も含まれます。事故のリスクについては、購入時の担当者に相談しても解決できないことが多いので、基本的には自身で想定し、備えなければなりません。
田中:
私も必ず離婚のリスクがあるということを伝えるようにしていますね。金融や資産価値が今後、どうなっていくかも不安に感じるかもしれませんが、それ以上に家族関係がどう変わっていくか考えるべきでしょう。
専門家の多くが口にする「離婚」のリスク。特に住宅ローンをペアローンや連帯債務を組む場合は資金面でも負担が大きくなります。どのようなリスクが生じる可能性があるのかを知り、「万一」への備えを怠らないようにしましょう。
不動産に関わる各分野のプロ同士の対話から生まれた「購入の極意10ヶ条」。各項目で紹介した関連記事からはより深い知識を得ることができるはずです。不動産とそれを取り巻く業界の構造、市場や有効に活用できる仕組みについて学びながら、悔いのない住宅購入へとつなげましょう。