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災害に遭いにくい住宅の選び方・備え方は?国土交通省が「ハザードマップ」をリニューアル

災害リスクを知るうえで欠かせない「ハザードマップ」が2023年5月にリニューアルされ、操作性や視認性が向上しました。近年、自然災害が多発化・激甚化しています。中古住宅に限らず、住まい選びの際には、そのエリアの災害リスクも確認しておきたいところです。しかし、ハザードマップをチェックするだけで、住宅購入における災害リスクを完全に回避できるわけではありません。

そこで本記事では、ハザードマップの見方とともに、住宅選びの際にどう活用すべきなのか、災害に遭いにくい住宅の選び方を解説します。

1. ハザードマップって何?

ハザードマップとは、自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図を指します。

ハザードマップポータルサイトとは?

ハザードマップは、基本的に各自治体が起こり得る自然災害ごとに作成しています。ハザードマップの種類は、次の8つです。

図表1:ハザードマップの種類
洪水ハザードマップ洪水による浸水想定エリア等を示す
内水ハザードマップ内水氾濫による浸水想定エリア等を示す
高潮ハザードマップ高潮による浸水想定エリア等を示す
ため池ハザードマップため池が決壊した場合の浸水想定エリア等を示す
土砂災害ハザードマップ土砂災害警戒区域等の概ねの位置等を示す
地震ハザードマップ想定される地震の揺れに対する想定震度や揺れやすさ、火災延焼、液状化等の被害想定を示す
津波ハザードマップ津波によって想定される浸水範囲や深さ等を示す
火山ハザードマップ火山が原因となって起こる火砕流・大きな噴石・融雪型火山泥流・降灰等の被害想定範囲を示す

ハザードマップポータルサイト」は、国土交通省が運営する、全国の災害リスク情報や防災に役立つ情報をまとめて閲覧できるWebサイトです。ハザードマップポータルサイトでは、これらのハザードマップを重ねて閲覧でき、災害時に取るべき行動が文字で表示される「重ねるハザードマップ」、市区町村が法令に基づき作成・公開したハザードマップを検索できる「わがまちハザードマップ」の2つのメニューが用意されています。

不動産取引時には説明が義務付けられている

洪水ハザードマップ、内水ハザードマップ、高潮ハザードマップの3つは「水害ハザードマップ」とされ、2020年8月より、宅地建物取引業者には売買や賃貸借契約を問わず不動産取引時に重要事項説明で、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地を、浸水想定区域外の場合でも説明することが義務付けられています。これは、昨今の大規模水災害の頻発と被害の甚大化を受けてのことです。

ハザードマップって何?
  • ・ハザードマップとは被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した8種類の地図
  • ・ハザードマップポータルサイトは全国の災害リスク情報や防災に役立つ情報をまとめて閲覧できるWebサイト
  • ・不動産取引時には水害ハザードマップで所在地を説明することが義務付けられている

2. ハザードマップポータルサイトがリニューアル。どう変わった?

2023年5月30日、国土交通省はWebサイト「ハザードマップポータルサイト」をリニューアルし、使いやすさやわかりやすさが向上しています。今回のリニューアルのテーマは「あらゆる主体に『わかる・伝わる』ハザードマップ」だと言います。

「重ねるハザードマップ」の機能が追加

ハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」は、リニューアルで新たに追加された機能です。数種類のハザードマップを重ねて閲覧できるようにしたものですが、国土交通省によれば、その背景には次のような課題があったと言います。

  • いざというときを想定して避難行動を検討する際にハザードマップを活用することに一定のハードルがある
  • ハザードマップの存在を知っていても活用に結びついていない
  • ハザードマップに示している情報へのアクセスが困難な場合も

つまり、操作性の悪さやわかりにくさから、ハザードマップの目的である防災行動に結びついていなかったということです。リニューアル後は、Webアクセシビリティに配慮され、一目でわかる仕様になったことで、使い勝手が改善されました。

テキストによる情報表示が追加

「重ねるハザードマップ」は、今回のリニューアルで音声読み上げにも対応しました。このリニューアルによって、視覚に障がいのある人なども閲覧でき、より多くの人が命に関わる情報を把握しやすくなりました。

検索方法が増え、よりわかる・伝わるハザードマップへ

リニューアル後は「住所入力」「現在地から探す」「地図から探す」の3つの調べ方でハザードマップの検索ができるようになりました。スマートフォンからの検索にも対応し、より迅速に各地の災害リスクを把握できる仕様となっています。

リスクと対応の確認が容易になったことで、いざというときにも避難行動の判断材料として活用しやすくなったと言えるでしょう。

図表2:「重ねるハザードマップ」の表示例
リニューアルにより、住所や現在地(GPS)から探すことができるようになった(出典:国土交通省

全国の自治体もハザードマップの改訂に注力

ソニー損害保険によれば、2021年4月から2023年6月までにハザードマップの改訂報道があった自治体は、全国で111ヶ所に及んだと言います。全国の自治体は随時ハザードマップの改訂を行なっていますが、昨今の自然災害の多発化・激甚化を受け、改訂にいたった自治体が多かったものと推察されます。

図表3:全国ハザードマップ改定情報
2021年4月からの約2年間の自治体のハザードマップ改訂報道は111ヶ所(出典:ソニー損害保険(株)
ハザードマップポータルサイトがリニューアル、どう変わった?
  • ・数種類のハザードマップを重ねて閲覧できる機能が追加
  • ・テキストによる情報表示で音声読み上げにも対応。より多くの人に情報が届く
  • ・「住所入力」「現在地から探す」「地図から探す」でわかる・伝わるハザードマップへ
  • ・2021年からの約2年間で100以上の自治体がハザードマップを改訂

3. 住宅を選ぶときのハザードマップの活用法

住宅を選ぶときには、ハザードマップを活用してそのエリアの災害リスクや災害時の避難先、避難経路を確認しましょう。

ハザードマップの見方

いずれのハザードマップも、基本的に色が濃いほど災害リスクが高いエリアとされています。Webサイト上でハザードマップを見るときは、適宜、表示方法を変えることで、さまざまな災害リスクが確認でき、リスクの要因となるものも想定できます。

たとえば、広域表示にすれば「川が近い」「周辺よりリスクが高い」といったことがわかりやすくなり、地形分類と合わせて災害リスクを見れば「なぜリスクが高いのか・低いのか」といった要因まで把握しやすくなります。

ハザードマップポータルサイトは、リニューアルによって使い勝手が向上しています。検索して表示されたものをただ見るだけでなく、複数のハザードマップを重ねてみたり、航空写真と合わせて見たりして、多角的、相対的に災害リスクを確認してみましょう。

購入する場所の災害リスクを知る

住宅の購入を検討しているエリアの災害リスクを調べたい場合は、ハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」の「住所から探す」という検索窓に調べたい地点の住所を入力してみましょう。

現在地にいる場合は「現在地から探す」ボタンをクリックすると、より簡単にそのエリアのハザードマップを確認できます。災害種別の項目を選択することで、ハザードマップを重ねて表示することも可能です。

図表4:「重ねるハザードマップ」の使い方
調べたい地点の住所を入力するとハザードマップが表示される(出典:「ハザードマップポータルサイト」

有事の際の避難先・避難ルートを知る

ハザードマップで確認できるのは、被害想定だけではありません。住宅の購入を検討するうえで必ず見ておきたいのが、有事の際の避難先と避難ルートです。ハザードマップでは、災害ごとの指定緊急避難場所や道路防災情報も確認できます。

想定される被害に加え、有事の際、具体的にどんな行動を取れば危険を回避できそうかについても認識しておくことが大切です。

住宅を選ぶときのハザードマップの活用法
  • ・マップ上の色が濃いところは災害リスクが高いエリアなので注意
  • ・購入する場所の住所を入力するなど、災害リスクを知ったうえで検討
  • ・有事の際の避難先・避難ルートを知る

4. 災害に遭いにくい中古住宅・立地の特徴は?

ハザードマップを見ただけでは、中古住宅の災害リスクを完全に把握することはできません。それは、建物の構造や建築時期、備わっている設備などによって、災害の遭いにくさや耐久力は異なるからです。

耐震等級が高い家

地震に対する強度を示す指標には「耐震基準」と「耐震等級」の2つがあります。

耐震基準とは、国が定めた耐震性の最低基準です。耐震基準はこれまで何度か改正されているため、建物の建築確認を受けた時期によって耐震基準は次のように異なります。

図表4:耐震基準
旧耐震基準新耐震基準2000年基準(木造のみ)
建築確認日1981年5月31日以前1981年6月1日以降2000年6月1日以降
地震に対する強度等震度5程度の地震でも倒壊・崩壊しない震度6強〜7程度の地震でも倒壊・崩壊しない新耐震基準に加え地盤調査実施の義務化、接合部の金物使用等が明確化
建築確認日によって「旧耐震基準」「新耐震基準」「2000年基準」のいずれの耐震基準をもとに建てられているかが異なる

建築確認日とは、建築確認申請を受理した日を示し、確認通知書の副本(控)や市区町村の建築課等の窓口で「台帳記載事項説明」や「建築計画概要書」等の閲覧申請をすることで調べることができます。建物の竣工日とは異なります。

一方、耐震等級は、地震に対する構造躯体の損傷の生じにくさを等級で表したものです。「耐震等級1」は建築基準法と同レベルの耐震性ですが「耐震等級2」は等級1の1.25倍、「耐震等級3」は等級1の1.5倍の地震力に対する強さを有します。

図表5:耐震等級
建築基準法レベルは「耐震等級1」(出典:(一社)住宅性能評価・表示協会

震度7を2度記録した2016年の熊本地震で最も被害の大きかった益城町周辺では、建築基準法レベルの木造住宅に6.3%の大破・倒壊が見られましたが、耐震等級3を有している木造住宅の大破・損壊はゼロでした。

図表6:熊本地震で被害が大きかったエリアにおける木造建築物の被害状況
「耐震等級3」の住宅の大破・倒壊はゼロ(出典:国土交通省

地下室のない家

地下室など、道路より低い部屋がある家は、洪水や内水氾濫などの際に浸水被害に遭うリスクが高くなります。地下室は、道路面からの雨水等の流入だけでなく、下水管から下水が逆流し、排水管があふれるリスクも高い傾向にあります。これは、マンションも例外ではありません。

関東エリアに甚大な被害をもたらした2019年の「令和元年東日本台風」により、神奈川県川崎市の武蔵小杉駅周辺では内水氾濫が発生し、周辺の高層マンションの一部で地下が浸水する被害がみられました。高層マンションは、電気設備が地下に設置されていることも多く、実際に被害を受けたマンションでは停電が発生し、エレベーターや給水設備等のライフラインが長時間使用不能になってしまったということです。

レジリエンス住宅

「レジリエンス」とは「回復力」や「復元力」を表す単語です。レジリエンス住宅は、防災力や災害からの復興力が高い住まいを指します。とはいえ、明確な定義があるわけではなく、次のような設備や性能が備わっている住宅がレジリエンス住宅と言われています。

  • 太陽光発電
  • 蓄電池
  • 断熱性能
  • 気密性能
  • 耐震性能

たとえば、太陽光発電や蓄電池があれば、停電時も蓄えた電力を使うことができ、エネルギー創出もできます。加えて、断熱性・気密性が高ければ有事の際の生活のみならず平常時の暮らし・安全・健康に資すると言えます。

周囲と比較して土地が「低くない」エリア

ハザードマップ上で色が薄いエリアだからといって、安心はできません。加えて見るべきなのは、地形とともに、周辺エリアとの比較です。

たとえば、高台にあっても、周囲と比較して土地が低いエリアは、内水氾濫のリスクが高いものと考えられます。これは、お椀の底に水が貯まるのと同様の原理です。

盛土造成地・埋立地ではない

住宅を建てるために土を盛って造成した「盛土造成地」や人工的に海や水辺を埋め立てて造成された「埋立地」は、地盤が弱く、地滑りや液状化が起きやすい傾向にあります。

土地の成り立ちについても、ハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」で確認できます。また、盛土造成地には、少なからず「擁壁」が見られます。擁壁とは、土砂崩れを防ぐために設けられたコンクリートやブロックからなる壁です。こうした特徴からも災害リスクは推測できるため、物件の周辺を歩いてみたり、擁壁があればその築年数や状況を確認し、ひびやズレがないかチェックしてみたりすることをおすすめします。

災害に遭いにくい家・立地の特徴
  • ・耐震等級が高い家
  • ・地下室のない家
  • ・レジリエンス住宅
  • ・周囲と比較して土地が低くないエリア
  • ・盛土造成地・埋立地ではない

5. 災害に備えるためにこんなところも押さえておこう

自然災害が多発化・激甚化している昨今の状況に鑑みると、住まいを購入する際には、これまで以上に災害リスクを知り、備えることが求められます。

ハザードマップで物件の建つエリアの災害リスクを知り、物件自体の耐震性や住宅性能、レジリエンス機能を知ることに加え、さらに次のようなことも検討してみましょう。

地震保険への加入、火災保険との違いを知る

住宅ローンを融資する金融機関の多くは、火災保険への加入を必須要件としています。火災保険は、火災だけでなく、落雷や風災、雹(ひょう)、雪災などによる損害も補償されますが、プランによっては補えない自然災害も。

例えば、内水氾濫や洪水、高潮などの水災に備えるには、火災保険に水災補償をプラスする必要が生じる場合もあります。水災補償については、近年、大雨による洪水や土砂災害などの水災が増えていることをふまえ、一層の補償の充実が求められています。2024年後半には、市区町村別に水災リスクを区分して評価し、水災リスクが高い地域ほど水災補償の保険料率が上がる仕組みになる見通しもあります。リスクと料金のバランスも見ながら、しっかりと補償内容を確認して検討しましょう。

また、火災保険では、基本的に地震や地震による火災や津波による被害は補償されません。これらを補償してくれるのは、火災保険とセットで加入することができる地震保険です。阪神淡路大震災や東日本大震災、熊本地震など大規模震災を経て、地震保険の世帯加入率は高まっていますが、2022年の時点で全国平均は35%に留まります。

図表7:地震保険の世帯加入率
地震保険の加入率は増加傾向にあるものの2022年時点の全国平均は35
%に留まる(出典:損害保険料率算出機構

検査(インスペクション)で建物の現状を知る

新築時に備わっていた耐震性能や住宅性能、レジリエンス機能も、経年と共に損なわれている可能性があります。購入時点の「現状」を知るには、検査(インスペクション)が有効です。

売買前の中古住宅の検査では、建物に詳しい専門家や建築士が第三者の目線で目視や計測によって、基礎や外壁のひび割れ、雨漏りによるシミや劣化、不具合などの有無を調査します。検査は、状況把握だけでなく、購入後のリノベーションや修繕の計画を立てるうえでも役立ちます。

性能向上を視野に入れ、対応できる工務店やリノベーション会社を選定

購入時に、住宅の耐震性や住宅性能を高めることも可能です。耐震補強や性能向上工事も視野に入れることで、住まいの選択肢はさらに広がります。その場合には、災害リスクと住まいの現状を把握したうえで、耐震補強や性能向上工事に対応できる設計事務所や工務店、リノベーション会社を選定し、相談しながら工事内容を決めていきましょう。

災害に備えるためこんなところも押さえておこう
  • ・火災保険だけでは水災は補償されない場合も。地震や地震による火災、津波は地震保険で
  • ・検査(インスペクション)は中古住宅の「現状」を知るために重要
  • ・耐震補強や性能向上リノベによって住まいの防災力を高めることも可能

6. 立地と建物の災害リスクを知って中古住宅を選ぼう

リスクに違いはありますが、どんなエリアであっても災害に遭う可能性はあります。中古住宅を選ぶ際には、ハザードマップを利用し、災害リスクとともに災害時の避難経路や避難場所をあらかじめ確認しておくことが大切です。

また、リスクに備える手段は、災害に遭いづらい立地や物件を選ぶだけではありません。耐震補強工事や性能向上リノベーション、検査(インスペクション)、保険なども検討したうえで災害にも強い中古住宅を購入しましょう。